この町で生きることは
「すいません、私のために夜遅くまで宴会まで開いてくれて……」
「あの人たちは酒飲んで騒ぎたいだけだから」
「リシェさんも思いっきり飲んでましたけどね。あんなエロトークされるとは思いませんでした」
「またそんなことしてた私……?ごめん、酔うたびそんなこと言われるんだけど」
簡単に言えばそういうことである。宴会をしてくれたのはうれしかったが、あの酒場あのあと人とか来なかったけど経営とか大丈夫なのかな、とだけ。
その後色々な説明をするため、ギルドとかいうところに連れて行かれることになった。そういうわけだが大丈夫だろうか。
「そんで、ギルド長ってどんな人なんですかね」
今からギルド長に会わせるくれると言うが、私には少々荷が重すぎないか?仮にも異世界から来たとしてもどこにでもいる普通の少女……というわけではないがそうそう自慢できる物でもないのだ。
「大丈夫よ、あのおっさんはちょっとあれなだけでいい人だから……たぶん」
「ひどい言いぐさですね」
「ノリが軽いだけでギルドの一番上らしくないから、本当に」
どれほどギルドのトップとしてふさわしくない人間なのだろうか。本当に楽しみだ。
私とリシェさんの足音だけが聞こえる。
「さて。ここよ」
「ただの事務室にしか見えないんですが」
そこは廊下の途中に無造作に設置されている扉であった。
もっとギルドのトップとかいうのだから英雄とかそういう人なんじゃないのか普通は?まあちょっとあれな人とか言われているのだから仕方がないね。
扉には『現在作業中』という札が下がっていた。
「ちなみになんでこんな部屋を使っているんですか?」
「部屋をすぐ汚くするから隔離されたのよ。もっといい部屋があったんだけどすぐ汚くするから……そこは応接室として使われているんだけど」
「なるほど、納得ですね」
「入りますよー」
コンコン、と扉をノックする。
「仕事!?やってるよ今!間違っても最近流行の本とか読んでないから!」
駄目な人みたいだ。ペラペラと本を読む音が聞こえてきそうだった。
「いないみたいね。先に別な人の方へに行った方が良いかも」
「そうですね。人気もありませんし」
おそらくあれなギルド長なのだろう。なんか独り言聞こえてくるんですけれど……気持ち悪い笑い声も聞こえてくるし。
「通称チーフと呼ばれてる人がいるんだけど……結構有能な人なのよ」
「おいおいリシェちゃん華麗にスルーしないでくれよう!」
扉が音を立てて開いた。主に扉が壁にぶつかった音だったが。
この人がギルド長だろうか。ただの親戚のよくお年玉をくれるいいおじさんに見える。少なくとも有能そうには見えない。
「おや、君が流星に乗って落ちてきたと言う少女?僕がウーゴ ・コルテス!このギルドを一応統べて長官だよ!」
「リシェさん、酒に酔っている人が大きな声をだしてますね」
「そうね、近所迷惑ね」
「ちょっとあつかいひどくないか!?」
一応ギルド長なので冗談は置いておいて。
「私はユリーカと言います。あくまで長官は一応なんですね」
「おお!礼儀正しい子だ!主な仕事はチーフの人に任せ切ってるからね。あの人は魔術師としては凡以下だけど実務は完璧だからねえ」
酷いことを言う人だ。当人がいないからと言ってそんなことをいうべきではないと思うのだけれど。
「実際事実で御座いますからね。ウーゴ様に拾われなかったら私は町の中心で座っていましたよ。近くに空き缶でも置いて」
「へー難儀な人生だったんですね……あなた誰ですか?
隣にいつの間にか人がいた。気配すら感じなかった。
「あ、チーフさんいつの間に」
「リシェさんでも気づかないんですか……リシェさん一流の魔道士とか言ってましたが」
「この人はそういうのじゃないのよ?魔道士とかそういうんじゃなくて……執事みたいな人だから」
たしかに姿形も美麗ですらりとしており、格好も執事服だ。万人が有能そうな人だと言うだろう。
「ユリーカさん。あなたが酒場エキセントリックで働くことになったと言う方ですね。私はゲンナディエヴィチ・ベチンと名乗っておりますが、副々ギルド長代理補佐準アルバイト見習いという役職についています……なぜかみなさんはチーフと呼んでおりますが」
「役職の名前が長いからだと思う」
端的に済ませられるツッコミをひとつ入れさせてもらった。
「やあチーフ君。給料上げようか?」
平然とそういう給料とかいうなよ。上げたいんだったら上げてやれ。
「私は今のままで満足していますので、必要ありませんよ?そんなことよりギルドについての説明を彼女にしてあげませんと」
「あ、どうも」
礼儀正しい人、と言えば褒め言葉なのだろうかどちらかというと魔術師の才能がないことについて引け目を感じている、劣等感を感じている。そういう人のようだ。
私が偉そうに言える話ではないが、本当に彼は自分を拾ってくれたギルド長に感謝しているようだった。
まあ長年の勘と言うか決めつけのようなものだけど。
「まあとりあえず応接室まで来てよ」
***
それでは説明か。
いかにもというさすがギルドの元ギルド長のいた部屋。どれも高級品ばかりである。しかもいやに新品というか傷一つついていない。輝きすぎていると言うか。
「じゃあチーフ君、頼むよー」
投げやりなギルド長。本当にギルド長なのかこの人は。
「承知いたしました。このギルドは、冒険者を統べる組織だなんて大仰な肩書きがありますが……はっきり言って冒険者手帳をあげて、コミュニケーションを取りやすくするための組織です。クエストとかは酒場の中でなんとかさせていますし、死んでしまおうがその責任は当人に行きます。冒険者の失敗は自己責任なのですよ」
「そもそもギルドって自然発生っていう感じですしね。他にギルドとかないんですか?」
「小さいのはあるかもって感じだけど、基本はここ一個だ。そもそもこのギルド自体たくさんあったギルドをまとめた感じだしね。このギルドの場合本部が別の場所にあって、支部で独立してる感じだよ」
ギルド長さんが口を出す。なるほど。冒険者をまとめるための組織か……
「そして、ギルドの一番大きなこととして、冒険者の育成と言う事があります。下手に初心者が死なれても気が悪くなるだけですので」
この辺りは私に関連してくる話か。私は今から育成させてもらうのだから。
「というわけで、育成するために学校という物があります。が、ユーリカさんは特別な事情がありますのでリシェさんが教える、と言う事でいいですね」
心の中で安堵した。
学校という物には少し抵抗感がある。……不登校だったし。不登校だったし!
そんな感じに憤りを感じていたらみんなの頭に?が浮かんだ気がした。
「いや続けてください」
私はみんなに流してくれと要求する。それをアイコンタクトでチーフさんが一瞬で理解したらしく流してくれたようだ。あ、この人も仲間だ。
「そんなわけなので頑張ってくださると良いと思います。……魔法について、一つ。適正という物があります。魔法にはいくつか属性があり人によりどの属性が成長しやすいか、という物があるのです」
「ああ、巨乳属性とか?」
「ちょっとストップ、ユリーカちゃん」
ちなみに私は遺伝なのか中途半端な胸の大きさである。どちらかに傾いてればよかったのにと深く思っているのだ。属性があるとナイトでは大違いである。
「どうしたんだい?貧乳属性もちのリシェちゃん」
「ちょっとじっとしてて、必殺技だすから」
手から輝く剣のようなものが見える。……あれが約束された勝利の剣か……なんていうわけじゃないけれど。
「すっとぷリシェちゃん待って待って!こんな所で幻の十三夜なんて放たないでよ!」
「そのあんたが適当に付けた名前で私の必殺技を呼ぶなああ!!」
随分とかっこ悪い二つ名だと思ったらこの人がつけていたのか。月下の帝国とか随分センスのない名前だと思ったらそういう事だったのか。
そしてこの人に貧乳ネタは厳禁だと言う事を理解する。本当にすいませんでした。
それにしてもぶっ放しすぎじゃありません?
***
「何あれ……」
リシェさんとギルド長が戦闘を始めた。あの適当なギルド長が先ほどからは考えられないほどに格好良く魔法を出している。リシェさんも格好いいけれど。
「なにせあの薔薇の武者と月下の帝国ですからね。ウーゴ様は生属性のスペシャリストで、リシェ様は光属性で最強の魔道士と呼ばれております」
「ヤ○チャ視点とはこのことか……」
ださい二つ名に違わず薔薇の花びらが知り、月の光のビームが放たれる。応接室壊れちゃったけどいいのあれ?
「ちわーす修理見積もりにきましたー」
「あ、お疲れ様です。今回も言い値でよろしくお願いします」
「どうもーいつもありがとうございます。ついでなんでオプション付けます?遠くの洞窟とつなげることでギルドの地下にダンジョンができるんですよ。今なら無料でですよーどうですか?」
「面白そうですね。じゃあそれもつけて。今後ともよろしく」
「どうもー」
……ハーイ。ヘー○ルハウスって書いてあったけど気のせいだろうな。
「ちなみにギルドが壊れることってよくあることなんですか?」
「はい。しょっちゅうあるんでヘーベ○ハウスという家の建築をやってくださるところと専属契約しているのです。……しばらく決着がつかなそうなのでこちらで進めますね。いいですか?」
「はあ……」
とはいう物の自然に目はあちらの方に向いてしまう。瞬間移動とかしてない?あれ。
全く戦闘が見えないです。はい。
と、チーフさんが一つのでっかい機械を持ってきた。
「こちらが超スーパーウルトラあなたの適正判明!何を学んだらいいかわかっちゃう機会がうまれちゃう君です」
「チーフさんもネーミングセンスありませんね」
ギルド長から影響を受けたのだろうか。別方向でのネーミングセンスの悪さだけれど。
「一応修正だけはしておきますが……副々ギルド長代理補佐準アルバイト見習いと呼んでください」
「だからその名前長いですって」
それにしても超(略)適正判明(略)機(略)とやらなのだが、一世代どころか二世代前くらいに余計な機能がたくさんつきまくってる。このパラポラアンテナ(死語)の使い道ってなんだろうか。
チーフさんがコードの先についているシールを私の頭に付ける。見た目に違わず原始的なことしやがる。
「えーとちょっとまってください……ここをこうして……えい。あ、動いた」
いまこの(略)適正(略)機(略)をチョップしなかったか?そんな一世代前のテレビじゃないんだから。
「えっと……大丈夫なんですかね?」
「大丈夫です」
しばらく稼働音が聞こえた後一枚の紙が出てきた。
「結果が出たようです。ユリーカ様は……光、闇、生、熱、力、変、飛、電、音など、全ての属性に対し適正をもっいるようです」
「適正調査する意味あったの?」
全属性とかその機械ぶっこわれてんじゃないの?
詳しい数値まで出ているがよくわからん。全てが500を超えていて、そのあたりが適正ラインなのだろうが。
「それとなんか属性の名前が……変?」
「文字通り物体を変換する属性です。使用する人は少し変な人が多いですけど」
そういう意味で言ったわけじゃないのだけれど……しかし名は中身を示すと言う事か。変態属性に変えた方が良いのではと思うが。
「この機械どういう仕組みなんです?適正は分かりましたけど」
「仕組みは知りませんが。ちなみにこの機会は数値を詳しく見るだけで、魔道士ならば時間をかければ調べることが出来ますのであしからず」
わざわざ機械を使った意味はなんだったのだろうか。魔法の使えないチーフさんだからこそか。
「それにしても珍しい適正ですね」
「これ珍しいんですか。良くわかりませんけど」
なにか異世界に転生した主人公がチート能力を手に入れられる並のご都合主義が感じられる。まあでも今使えるわけでもないし、努力はしていかなければいけないのだろうが。
「こういう人は一つの属性に絞る人もいれば全てを学ぶ人もいらっしゃるのですが……」
「とりあえずリシェさんは光属性なんですよね。だったらとりあえずそれを学びましょうか」
そんなことを言っているとき、声が聞こえる。
「あー疲れた。へーユリーカちゃん珍しい適正じゃない」
リシェさんが機械から出てきた紙を覗く。ついでにギルド長も続けて覗く。
「おーどれどれ。すごい!才能があるんだろうね!」
「戦闘が終了したのですね。どうでしたか?」
「思ったよりかは鈍ってなかったね」
いつの間に。近くに来たことにも気づかなかったし、というかこの二人ボロボロである。どれだけ激しい戦闘をしたのだろうか。
「さすが流星から落ちてきた少女ユリーカちゃん……!そうだ!せっかくだから全部学んだらいいんじゃない?」
ギルド長さんがそんな突飛なことを言いだす。何てことだ。それじゃあ私がどれだけの苦労をしなければならないのだろうか。
「でも……リシェさん光属性の魔道士ですよね?」
「大丈夫よ。私も初歩なら全属性習ってるから」
全属性学ぶことは一応可能か。ほかの酒場のメンツもいるだろうし……できないことはないだろう。
「才能は伸ばすべきだよ!君なら世界最強も夢じゃない!」
「何を根拠に言ってるんですか」
異世界で世界最強。そういえば忘れていたが私は異世界からきたのだ。
そもそもなんで言葉が通じているのかというところから聞きたいところだがそのあたりはスルーするとしても。
……異世界。魔法。私はそういうものを間近で見た。
「ユリーカさん、それではどういたしますか?」
チーフさんが聞く。
私はいかなる行動をすべきか。
私はこの異世界でどうするべきか。
「全部……やってやろうじゃないですか!」
心が躍る。それ以前に心臓がバックンバックンいっている。
さー楽しくなってきた。せっかく異世界に来たんだから転生チート並のことをしてやろうじゃないか。
「世界最強かー。何、魔王とかいたりするんですか?それも倒して仲間にしてやろうじゃんの!やってやるやってやろう!」
「よく言ったユリーカちゃん!」
「ユリーカちゃん……」
師匠とギルド長の感激。テンションがあれになってきた。
「リシェさん!いや師匠!よろしくお願いします!」
「え、ちょっとまって私に弟子とか……うん、よろしく。ユリーカちゃん!」
「ついにリシェちゃんに弟子が出来たか!おめでとう!」
わたし達は年甲斐もなく騒ぎ始めた。……応接室の跡を横目に見ながら。
***
「使えそうですね……あの超希少体」
書いてて楽しい。
※深夜テンションで書きすぎたので後半修正。
※さらに修正。この話を書いた記憶があまりなくて、読み直すと文章が変すぎるなと思った。あと最後の伏線は回収する気はないので、笑って読み過ごしてください。