働くことになった
目が覚めたら異世界にいた。何を言っているのかわからないと思うがうん。わからない。
「へ?魔法?そんなまたご冗談を。わたしはこれから電気で動かす電車に乗って高校へといかなければ……」
とりあえずこの酒場に保護されたようだが……大丈夫なのだろうか私。
あ、どうも私の名前は新 優理香。どこにでもいたはずの普通だった少女。今は違う。
異世界にいける少女が普通なわけがない。
ちなみにパジャマのままである。
酒場を見渡すと貧乳と巨乳が並び立ち、大学生くらいの少年にロリコン大歓喜の幼女が一人。
カウンターの中には店主と思わしき眼の死んだ男に酒場の隅っこには黒ずくめの男が一人で酒を飲んでいた。
「魔法のない異世界ねえ……興味深いわ。そうね、自己紹介をしてなかったじゃない。私の名前はリシェ・パスカルよ。よろしくね」
「随分と貧相な胸をお持ちですが……よろしくお願いします」
「誰が貧乳って言った?」
「なんでもないです」
半ギレされながら言われた。よかった。正統派な貧乳持ちだった。
一方巨乳もちでありながら泥まみれのお嬢様服を身に付ける彼女が言った。
「わたくしはミレーヌ・デュフィですわ。この酒場は雰囲気が楽しいですからいい場所ですわよ」
「その服は……?」
「こちらですか?長く着ているので慣れているのですわ。装甲なんていらないのですわ」
元貴族だろうか。なぜこんな酒場にいるのだろうか。
その話はおいおい聞いていくとして。
「僕の名前はオズバルド・ベレンゲル。目の良い冒険者さ。ところであそこにいる彼女を見てくれ」
清い目をした幼女を指さす。
「かわいいと思わないかい?」
ロリコンだった。
「ええとっても」
「ロリコンが増えたあ!?」
そのときツッコミを高校生くらいの少年に入れられる。
「ああすまない。つい癖で突っ込んじゃって……俺はレオナルド・マグヌション。新米の冒険者だ」
「レオナルド君……いいツッコミ役に成長して……」
「好きでなったんじゃねえよ」
「つっこみってなにをつっこみのー?えろいいみでー?」
「君6歳だよね!?どこからそんな言葉聞いた!?お母さん怒らないからやめなさい!メッ!」
「てんしゅさーん」
「てへっ」
「ま た お ま え か」
「いせかいのおねえさん!あたしはリーゼロッテ・エバール!ロリータって呼んでね!」
「一文字もあってないんですがそれは」
「はははー今日もハニーはかわいいなー」
「もうやめて……ツッコミ疲れるんだから……」
苦労人で大変そうでとにかく楽しそうなレオナルド君である。彼には本当にツッコミが似合っていると思う。一目見ただけでもそうわかる。
「ああそれと俺はこの酒場エキセントリックの店主、ジェービズ・マクフェイル。ところで君は心太派?羊羹派?」
「寒天ゼリーで」
「了解」
なんだかこの酒場をみていると中世のように見えたけど意外とそうでもないらしい。羊羹があるあたり結構いろいろなところと交流しているのではないだろうかと予測がつく。
何かを作りながら店主がいう。
「そういえば最後に君の名前を聞かせてくれないか」
「ああまだ言ってませんでしたね。そういえば……」
そういえばここでは名前・名字で言わなければいけないのだろうか。日本では名字・名前だったが世界的には圧倒的に名前・名字の言い方が主流である。と、すると……
「私の名前は優理香・新です。よろしくお願いします!」
「よろしくゆりーかさーん」
その謎の伸ばしはなんだ。ユリーカって誰だよ。
「ユリカ・アタラシですわね。ここに住むことになるとしたらユリカ・マクフェイルと言う事になるのでしょうか?」
ん?は?
「養子にでもするのかい?店主さんはどうするかい?」
「いっそのこと娘にしてしまうか……そうしよう。それじゃあ……」
へ?
「ユリカさん……といったわね。ちょっとあの……ギルドがなんやかんやでこの酒場で働かなければいけないのよ。拒否権はないわ」
「ちょっとまったああああ!」
ツッコミ君の叫びが店内に響く。
「おっーとここでちょっと待ったコールですわー」
ミレーヌさんのやる気のない声が聞こえる。
「さすがに拒否権がないのはおかしいだろ!?少しぐらい聞いた方が……」
「そんなこと言っても完全に拒否権がないのよねえ……本当に異世界から来たって言うんだったら身寄りもないだろうし……一応この後調べるけど他に引き取ってくれるところなんかあるかしら」
「ここからはユリカ、君に聞くよ。ここで働くかい?」
「……他の選択肢はないんですか」
「ない、と言いたいところだけど二つほどある。ギルドの孤児院に引き取ってもらうか……冒険者になるかだ」
冒険者。
その響きは今までぬるま湯につかってきた私の心を確かに揺さぶった。
お母さんは言っていた。普通の暮らしをしなさいと。いやまじで普通の暮らしをしなさいと。何か間違って本当に万が一万が一なにか厄介なことに巻き込まれてしまうかもしれないから普通に暮らせと。
それは明らかに厄介なことに巻き込まれて大変なことになったと言う具体的な響きがこもっていたが気のせいだろうきっと。
「……一つ。一つだけいいですか」
「いいわ。重要な選択だしね。もし仮に冒険者になるとしたらケアは全力でしてあげるわ。魔法も教えてあげるし、装備とかもなんとかしてあげる。こうなったのも縁だし。ギルドのアホどもには私が何とか言ってあげる」
「ギルドは来る者拒まず去る者いないがモットーですわ。どの様な選択をしてもなにもいいません。ここの生活にはそう簡単になれないと思いますが、バックアップはしてあげますわよ」
「……」
さて状況を整理しよう。
私は目が覚めたら異世界にいた。一面緑の高原のど真ん中にいた気がするけど夢なのかどうかはわからない。
そして、この酒場で目覚めた。
その酒場の人たちは良い人たちと言うか愉快な人たちである。見ず知らずの私に色々な事を教えてくれると言う。
この酒場で働ていくか。それともこの世界を冒険者としてまわっていくか。
ユリカ・マクファイル。私はそっちを選んだ場合そんな名前になる。
私は。どうしたらいいのか。私は。
酒場の空気が張り詰める。
……まじでどうしよう。
「ユリカって違和感あるからユリーカとかいう名前にすることはできますか?」
レオナルド君がずっこける。
「今の雰囲気はなんだったんですかユリカさあああん!?」
「ユリカじゃなくてユリーカって呼んでよ。その方が異世界っぽいから」
「ということはうちで働くってことでいいんか?」
「せっかく異世界に来たんだから魔法とかも教えてもらいたいけれども、基本はこの酒場で働かせてください。見習い程度で少し冒険させてもらうこともあるかもだけど」
「つまり両方とると言うわけですわね。今はこの酒場で働くけれども将来的には冒険者で働くこともあるかもしれないと」
「大体そんな感じですね」
「確かにその方がいいね、すぐに冒険を始めるよりもここで働いてこの世界がどんなものかも知らなければいけないし」
「というか冒険者としていくとしてもしばらくは酒場で働くことになったかもしれなかったんじゃない?」
「ゆりーかーおねーちゃんがんばろー」
「と、言うわけでユリーカちゃんはこの店の店員だ。末永くよろしく頼むよ」
「……ちょっと待ってくれ」
そのとき、酒場の隅っこで静かに私たちの話を聞いていた黒ずくめの男が立ち上がる。
「……俺はダニーラ・ザイツェフ。この酒場の常連だが、一つだけ質問がある」
「は、はい」
やくざと見まごう威圧感。どんな質問をしてくるのだろうか……!
「パンはパンでも食べられないパンってなーんだ!」
……。
サングラスのそのいかつい顔でそれ言いますか。
さて、それにしても難しい質問だ。
この酒場ではギャグセンスが問われる。とするとこの質問はそのセンスを問うのだろう。
ならば。
「フランスパン」
「食えるじゃねえかああ!」
レオナルド君がカウンターをたたきながら立ち上がりながら突っ込んだ。
「……認めよう。君はこの酒場の店員にふさわしいよ」
「ありがとうございますダニーラさん……」
パチパチパチ酒場の人たち全員が拍手をする。
こうして私はこの酒場で働くことになったとさ。
キャラ結構多い。