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異世界酒場の自由すぎる日々  作者: 秋津 幻
二、女に台と書いて初めと書く
12/12

そんなこんなの日常

朝、起きた時の話である。

店主さんに何か笑われたから何だと思いつつ鏡を見てみたらアホ毛が生えていた。

ああそういえばそんなものもあったな、とそれを見ながら思う。

このアホ毛は母親からの遺伝である。と言うか一家全員このアホ毛が生えているのだ。

アホ毛と言えばことあるごとにピコピコ動くのが筋合いという物だけれど現実そういうわけではなく、そういう髪質だからという結論で済んでしまう程度のものだ。

とはいう物の簡単には治らないような代物であり、まあそういう物を治すためのものとか塗っていたのだけれども……一週間で元に戻ってしまう。

速いものである。ここにきて一週間たったと言う事だ。

アホ毛を触ってみる。当然治るはずもないがこれはこれでいいのかね、と思いそのままにしておくことにした。私に今の所個性は薄いし。

と言うか周りの人間の個性が強すぎるのである。ミレーヌさんなんてとくに。巨乳でボロボロの貴族服なんて個性なんてレベルじゃあない。

しかし……このアホ毛を見ると思いだす人がいる。

私の母親は当然のことながら生えていたわけだが、それがひときわ大きかったのはおばさんである。正確に言えば母親の姉。「おばさんじゃなくてお姉さんと呼べ」と毎度毎度行っていたのを覚えている。

「私の所為でアホ毛遺伝子が受け継がれてしまった……」ともへこんでいた。


***


師匠と今日も魔法の修練をする。アホ毛に水をつけて治そうと悪戦苦闘するも無理だった。まあ成功するとも思っていなかったのだが。

当然師匠からもアホ毛について言われた。というか笑われた。一見アホ毛と言えば寝癖であるし、当然私にも寝癖はつくのだけれどもどうしてもこのアホ毛だけは戻らないのだ。先祖の呪いとかに違いない。

まあ師匠にはキャラ付のためだと言う事を説明することにした。実際は違うが似たようなものだ。

さてさて話を戻そう。私は尊敬している人、おばさんの話をしたいのだ。

さておばさん、いやお姉さんについてなのだが、とにかく変な人と言うのが一番の印象であった。

色々なことに対して持論を持っており、それのどれもこれもが普通とは一風変わっていた。と言うよりかは世間とは迎合したくはない。そういう気持ちが見て取れた。

「師匠……ここに光とは波であるって書いてあるんですけれど……」

「私は粒子だという説を提唱してるのよ」

ちなみに答えは両方を兼ねていると言う事であるらしい。

師匠も世間の説に流されまいとしているのだろうか。そのあたりはおばさんとに似ている所なのかねえ、と思った。


***


相変わらずこの酒場には変な人が集まるがそれに私はさほど驚いていると言った風でもない。

私は彼らを見るたびに思い出すのだ。おばさんと仲が良くて、よく遊びに来ていた変な人たちのこと。そして現に変な人だったおばさんのこと。

彼らはあるがまま人生を楽しんでいた。彼らはまず自分が楽しいと言う事を第一に考え、それとともに他の人間も楽しませようとしている。

彼らになぜそんなことをするのかと疑問を呈すれば、こう答えるだろう。「楽しくない人生なんて、人生じゃない」彼らは一日一日を楽しみたいだけなのだ。

「そういえば今度、のど自慢大会があるらしいですわよ!」

そうした人間と考えが近いのはミレーヌさんであろう。なんだか見ているとおばさんを思い出す。

「へぇ……」

そうした提案をするミレーヌさんからは嫌な予感しかしない。

「出ますわよね?」

「歌そんなうまくないんですよ」

「出ますわよ」

これ異常断ると嫌な予感しかしないので渋々それを受け入れることにした。……歌かあ。

しかしまた楽しくなりそうなイベントだこと。


***


おばさんは何をして暮らしているのかは知らないけれど少なくとも金だけはある人間のようだった。

日々何かを思いついては大金を積んでそれを実行するという金をちり紙か何かと勘違いしているようにしか見えない人間であったが、しかし一応寄付とかしているあたりちゃんと慈愛に満ちた人間であるらしかった。

何に対し寄付をしていたのかと言われれば、確か恵まれない小さな子供たちを支援する会だったか……その中で小さな子供と言うフレーズに反応していたおばさんを思いだす。

おばさんは小さな子供が大好きだった。ロリコンであったともいう。

近所の小さい子を愛でるのは当然のごとく、小さな子の笑顔のために何でもすると言う人間でもあった。

ロリコンと聞いて思いつくのはオズバルドさんであるが、ロリコンと言われても色々な種類が存在する。

「ねーねー!おはなとってきたよー!」

「よしよし、ハニーはかわいいなあ」

オズバルドさんは幼女を恋愛の対象として見ているのであろう。しかしながらおばさんや私の様に、愛でる対象という物とは違う。

私はリゼちゃんを可愛いとは思うが、彼がリゼちゃんに対する感情は愛なのだ。違いは明白である。

彼は前彼女が大人なったら好きでなくなってしまうかもしれないと言ってたが、それは違うのではないだろうか。

彼はどうしたら愛を伝えられるかと言う事をわかっていない。相手が大人であったらただ搾取されるだけの存在となりえるのではないか。

彼は人を愛したことがなかった。だからこそ彼女を愛した。

だからこそ、彼女が大人になったときも彼は隣にい続けるのではないか。

愛し続けるのではないか。そう思うのだ。


***


レオナルド君を見ていると思いだす。まだ小さくおとなしいとき、おばさんが連れてきた人間の摩訶不思議な行動に驚かされツッコミを入れていた時のことを。

おばさんがどれだけの人間を家に連れてきたのかは覚えていないのだが、少なくとも普通の人間を連れてきたことはほとんどなかった。

その数少ない普通の人間も、昔あった人よりかは変わっていないと言うくらいで、十分変わった人間だったのだが。

さて、レオナルド君は一人の女性に好意を持たれている――ティナちゃんだ。

私が彼女の様に人を愛すると言う光景があまり思い浮かびにくいのだが、女たる者そういうことは有るのだろう。ただ、運命の人に出会えていないだけなのか、それとも違うのか。

幼女に愛をする人もいる。誰も愛さない人もいる。

後者でないように、祈っているのだ。

「何やってるんですかあんたはあああああああああああ!!」

悲痛な叫びは今日も響く。


***


私の母親はおばさんとは姉妹と言う関係なのだが血はつながっていないと聞いた。じゃあそのアホ毛は何だと聞いたがそのあたりははぐらかされた。

一応店主さんの養子と言う事になっているので、まあそういうのと似たようなものと認識をしている。

どの様な出会いの後にそういう関係になったのかと聞くと、こう答えられた。

「ただ、血の舞った車に乗っていただけよ……ただ、寂しかっただけ」

わけのわからない返答だ。何とかごまかそうとして、比喩を使おうとして失敗した感じだ。

ただ、感動的な出会いでなかったことは確実であろう。しかし、悲しい出会いだと言うわけでもなかったようだ。

お母さんは、その話をするとき笑っていた。

おばさんと母親の仲は良かった。思い出話に花を咲かせることがよくあったが、私が聞くことはなかった。

私に、あんなふうに仲の良い人間が出来るのだろうか。そう思う。

「おいもう酒場閉めるぞー」

「はーい」

こうして今日は終わる。

私は日々を、楽しく過ごしている。

第一部完。

大抵第二部ってないよね

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