猫アレルギーにはマタタビを
「猫を拾いましたわ」
「自分で飼え」
ミレーヌさんが猫を拾ってきた。クエストを終えて帰ってきた時の話である。
話によると本日のクエストでは崖の上からスナイパーライフルもどきで標的を撃ったとのことだがいくらなんでもマジカル成分が薄すぎないかと言う事を私は言いたい。
まあ確かに歯車機構とかが中に詰まっているわけでもなく、魔法式がいたるところに書かれているスナイパーライフルなのだから十分マジカルしているとも取れなくもないわけだ。しかし形状が現代的すぎないか。まあ異世界から来た私が現代的だのなんだのということもないだろうし、そもそもこの世界ではこれが現代的なのだ。お好み焼きや焼き魚もあり、冷蔵庫もある世界。本屋にはBLGLの本も立ち並ぶこの世界でそういうことを気にしてはいけないのだ……そういうことにしておく。
さて、猫である。
「この酒場の看板猫にすればいいと思いますわ!」
「にゃー」
猫が鳴き声をだす。攻撃力が下がりそうだ。
「反対一。ユリーカちゃんは?」
少し考えて私は言う。
「……反対」
二人が驚く。本来面白そうなことを好む私であればこういうことを即座に賛成するのが正常なのであろうが……これには理由がある。
「……私、動物嫌いなんですよね」
当然、人間以外である。
「だ、そうだよ。ミレーヌちゃん」
「こんなの……」
ミレーヌさんが少し溜めてから、叫ぶ。
「こんなのおかしいですわああああ!」
ミレーヌさんは、猫好きだった。
「すいませーん、また来させていただきましたー……あれ?」
バットタイミングでのティナちゃんの来店。
「……!ユリーカちゃん、あれが最近来たと言う!」
「そうですよ」
当然その胸に反応したのは、言うまでもない。
***
とりあえずこの酒場に置かれることになった猫。名前はミケと名付けた。とくに三毛猫とかそういうんじゃなくて一面真っ白な雪みたいな猫であるのだが。
まあその場のノリで名づけてしまったのだからしょうがない。ミケで決定だ。
とりあえずはみんなの意見を聞くことにしたのだ。生まれてから動物嫌いの私はそのミケを育てる気は毛頭無いわけだが、結局のところ店主さんがその可愛さに陥落されることでとりあえずの世話をすることになった。もうこれ酒場の看板猫確定じゃないですかね。
まあ私自体は関わる気はないのでいいのだが、他の人はどう思うか。まずはロリとロリコン夫妻の反応である。
「かわいいです!」
「ハニーがそういってるならしょうがない……これうちで飼っていいです?」
「出てけ」
店主さんはその提案をにべもなく断った。いやもうあんた他の所で飼わせる気ないですよね。
「かわいいーかわいいこのねこー」
「お前の方がかわいいよ」
私はその猫の姿に癒されているリゼちゃんを見てそう思う。ロリコンとしてオズバルドさんと幼女について語った後彼らは猫を飼う算段をリゼちゃんとするのであった。
一方のミレーヌさんである。
「いいじゃん女同士なんだしー」
「ちょっと、え、ちょっと待ってください!?ぎゃー!」
胸をもまれているティナちゃん。エロい。
「エロいな」
「黙れ店主」
「……」
「おや、レオナルド君?」
顔を赤らめて明後日の方を向くレオナルド君。思春……なんでもない。
***
「……別にいいんじゃない?この酒場には前から華が足りないと思っていたし」
「師匠、私は華ではないと?」
「ユリーカちゃんに色気はないわよ」
そんな手厳しい評価をいただいた。ちくしょう猫に負けた。
まあ猫と私を比べたらどう考えても猫の方がはるかに上なのは間違いない。
人は猫に心癒されるかもしれないが私に癒されることはそうそう無いのだ。私が猫に癒されることは絶対にないのだが。
しかしわからないだろうか。猫のような動物、とくに哺乳類が近くにいてすぐにでもなにか噛んでこないかとか、そういうことを思わないだろうか。
私は思う。とにかく噛まれたりひっかかれたりしないか怖いのだ。特に猫は人間を下に見ると言うし、なかなか近づく事はできない。
しかし師匠も賛成するのか……ああ私はどうするべきか。動物嫌いを治すしか方法はないのか。
「へーその銃かっこいいですね」
「少し教えてあげますわよ?突出していると言うわけでもありませんが才能はあるみたいですわ」
「周りに飛属性について知ってる人がいなくて……マイナーですよね。この属性」
ティナちゃんはミレーヌさんと魔法に関しての話をしていた。ティナちゃんの適正は電と飛だそうで、教えてもらうことになったらしい。
「雷に関してはあの子に教えてもらうといいんじゃない?」
「そういうつもりですが……手っ取り早く魔法を覚えられる方法ってないんですかね?」
「ねえよ」
私のサボり癖と言うのが早くも出てきた。今のところ何とかしたのは光と生と熱と飛。熱は店主さんから、飛はミレーヌさんから。どれも基礎だけど。
***
ダニーさんが猫に餌をあげている。そんな光景ははたから見ればギャップのある不良と言った所か。
雨の日捨てられている猫に傘を置いてあげると言う光景を想像するのは易いと思うがそんなところを考えてもらうといい。
その近くでティナちゃんは「かわいいーかわいいですー」とリゼちゃんのようなことを連呼している。
「にゃー」
畜生。動物のくせに猫なで声を出しやがって。畜生だし動物だし猫なのだから当たり前だが。
レオナルド君と言うと……
「猫より犬の方がよくありません?」
「いーや猫ですわ!あの猫の愛らしさをみてどうとも思わないとは……」
「どうにも猫は苦手なんですよねえ。爪とか」
やっと同じような意見を持つ人間が出てきてくれた。
ちなみにミレーヌさんとティナちゃんはその後どうしたか……レオナルド君とのあれこれについて色々なことを言われたようだ。
まあ関係が悪いとかそういうわけじゃないので問題はないだろう。
店主オリジナルのジュースを飲む。……まあまずくはないか。
「ユリーカちゃん!これ店で飼わないんだったらあたしが飼っていい!?」
「俺が断る」
「店主さんもう確定ですか……?」
「ああ」
えー……うん。えー……
「自分で世話してくださいよ」
もう諦めた……店主が言うんだったらしょうがない。
「やりましたわ!私が連れてきた猫が!」
「店主さん!この店毎日きます!」
「俺ティナちゃんが来るとき強制的に来させられるんだよなあ……」
「……」
ダニーさん、無言でなでないでください。違和感と言うかなんというか。
***
その後の話である。店主が中で後片付けをしている中外で猫を眺める。
「にゃー」
可愛い声でそうなく。いや実際私が猫のことを可愛いと思っているわけではないのだが、少なくとも普通の人はかわいい声とそう形容するだろう。
実際かわいいのだろう。猫と言うのは誰彼かまわずひっかきに行くものだと思っていたがそうでないネコもいるようだ。人間にもよく懐くようだし。
猫が上目づかいで私の顔を見ながら足元を回る。
「にゃー」
「うわっ、なんだ」
いきなり走り始め、近くの樽を伝って私の肩に飛び乗ってくる。
しっしと追い払うわけにもいかない……こうして懐かれているのだし、多少慣れた方が良いのだろうか。
「おーいお前もそろそろ手伝えー」
店主さんが店から出てくる。
「だいぶ懐かれた様じゃないか」
「その様子ですね……あまり好きじゃないのになんでいっつも動物に懐かれなきゃならんのだ」
私は動物に懐かれやすい体質のようだ。まあ何もしてこないんだったら別にいいかな。
「にゃー」
「うおっ」
頭の上に乗ってきた。
……まあ、別にいいかな。
「で、店主さん何かやることがあるんですよね?」
「あーちょっと……」
***
「おえええええ!!」
「ティナちゃーん!大丈夫かティナちゃーん!!」
「ぐふっ……僕のことは良いからハニー……逃げるんだ……」
「おとうさーん!!」
阿鼻叫喚の図がそこにはあった。
「……まさかこんなにも料理がひどいとは」
「だから言ったのですわ」
「ちょっと店主さん、なんで被害者が増えてるんですか」
「……勝手に食べたんだよ」
第一の被害者はダニーさんだった……ダニーさんは酒場のベットで寝ている。
簡単に言うとミレーヌさんはメシマズあった。と言う事だ。
何で作った。
「今度は大丈夫だと思ったんですわ。失敗失敗。てへっ」
「かわいくないですからね」
「レオン君……あたしの分まで……がくっ」
「ティナちゃあああああああん!」
叫ぶレオナルド君。倒れたティナちゃんの前で泣き叫ぶ。
「……で、どれなんです?」
今思えばなぜそんなことをしたのだろうか――非常にそう思う。
気の迷い。勘違い。そんなものであろうが――私は一つの行動を起こした。
カウンターに一つの料理が置かれていた。
サバの味噌煮である。
箸を二本持って。
いただきます。
「ぶらはっ」
「ユリーカちゃあああああああん!」
それは、誰の声の響きだったのだろう……
その声も聞き取れないほどだった……私は、その場に倒れた。
そして、静かに目をつぶる……
ああ。なんて楽しかった一生なのだろう。
せめて死ぬ前に……
「餃子が食べたかった……」
「ユリちゃん何言ってんの……ぐはっ」
「二人が死んだあああああああああああ!!」
第一部、完。
次回第一部完。
最近800メートル走で酸欠になって吐きました。そのせいかゲロネタが多いです。




