表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女格闘伝説  作者: 坂崎文明
第三話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/19

孤独な女王6~ただ、プロレスラーとして~

 楓が意識を失っていたのは、ほんの少しの間、時間にするとわずか数十秒の間だったろう。


 姫子の一撃は確かに楓の顎を的確に捉えていた。


 が、その刹那、楓は無意識のうちにスウェーで微妙に打撃点をずらしていた。


 目を覚ました彼女の視界にはロープにもたれかかって、自分を睨みつけている姫子の姿が映った。


 わずか数十秒とはいえ、追撃の時間は十分にあったはずだ。


 それはもはや、姫子に反撃の力が残っていないことを物語ってもいた。


 楓は頭を振りつつ、マットをもう一度、踏みしめる。


 軽い目眩がした。


 もう一度、身体に力を込めた。


 ようやく、意識がはっきりとしてくる。




 ふと見上げた楓の視線の先では、姫子が折れた足を引きづりながら楓に向かってきていた。


 その顔は苦痛で歪み、歩くというよりマットの上を這っているように見えた。


 だが、姫子は姫子なりにまだ、戦おうとしていた。




 苦悶の果てに姫子は楓の目の前についに辿り着いた。


 が。ついに力つきたのか、前のめリに倒れ込む。

 

 楓が受け止める。

 

 姫子はただ一言。


「手加減無用」


 しっかりと抱きとめる。


 それは愛しい恋人を抱擁しているように見えた。



 楓は姫子の身体を抱えて、しっかりとクラッチした。


 本当は、もう、投げたくなかった。


 もはや、姫子には受け身を取るだけの力さえ残ってはいないだろう。


 でも、それでは姫子の信頼を裏切ることになる。


 彼女の誇りをもう一度、傷つけることになる。


 それだけはできない。


 彼女の願いを最後に叶えてやるしか、楓の選択肢は残されていなかった。


 意識を奪い去らなければ、姫子は何度でも向かってくるはずである。




 最後は、せめて最強の技で終わらせたい。


 楓は両手に力を込めた。


 一瞬、姫子の身体から重力が消え去った。


 サイドワインダー。


 サイドスープレックスで抱え上げてから、肩口からマットに真っ逆さまに落とすという危険な技である。


 間違いなく姫子を再起不能へと追い込む技であった。



 楓は泣きながら、叫んだ。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 絶叫が頂点に達した時、急角度で姫子の肩がマットに激突した。


 骨の砕ける嫌な音がした。


 楓の泣き声はいつまでもマットに響いていた。


 あまりの光景に、会場は静まり返っていた。


 だけど、ふたりの想いはひとつだった。


 ただ、プロレスラーとして。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ