世界が変わった日
しばらくして俺は目を開けた。
瞼がくそみたいに重い。頭もガンガンするし呼吸も落ち着かない。
ババアの重い腕をのけて深く息を吸った時だった。
「!!!??」
肺が強く殴られてるみたいに痛い。喉も焼きただれたみたいに苦しくて呼吸がままならない。
俺は咳き込んで頭を地面に擦り付け、痛みが治まるのを待った。
マシになったところでゆっくりと頭をあげると、ババアが横たわっていた。
「おいババア。大丈夫か?」
揺さぶってみたが返事がない。おまけにひんやりしていて、少し固くなっていた。まさか………?
タラリ、と俺の顔に冷や汗が流れた。
「おいババア………おい!!寝てんなよ母さん!!起きてくれよ!!」
お願いだから………。そんな願いも虚しく、母さんはいつまでたっても目を開けてくれなかった。
これは夢だ。こんなのあり得ない。だってそうだろ?こんなの………あり得るはずがない。あってたまるか。多分まだ俺は寝ているんだ。
「早く覚めろよ!!」
必死になって自分の腹を殴った。何度も何度も、気がすむまで何度も殴った。
だけど腹の痛みが教えてくれるのはこれが紛れもない現実ということだけ。
「………そうだ電話……!!」
ひとまず病院に電話しよう。そうすればまだ助かるかもしれない。
必死にスマホで病院の番号を打った。
『………お掛けの番号をお呼びしましたが、お出になりません』
「なんでだよクソが!!」
他の病院、警察、クラスメイトや親戚にも電話をかけたが、全て返事は一緒だった。
「なんで………なんで出ないんだよ……」
最後にチビの携帯に掛けた。あいつなら助けてくれるかもしれない。
『はいはーい、ただ今出ることができますん!!ピーという発信音の後にお名前とご用件を言……』
ピーと、発信音がなった。
「……嘘だろ?」
チビさえもが電話に出なかった。
なにかがおかしい。
急いで外へ出た。朝日が目を射してきた。俺はチビの家の方向へ全力で走った。周りはありえない位静かで、人一人いない。聞こえるのは俺の足音と激しい息遣い。
相変わらず肺と喉が痛かったが、そんなこと気にしない。全力で走った。
案外近かったチビの家。ドアの鍵はかかっていたが、ベランダの鍵は開いていた。
「おじゃましまーす……」
ベランダに入った俺は直ぐに後悔した。
『見なきゃよかった』
苦しそうに横たわるチビとチビの家族。
声が出なくなった。嘘であってほしい。こんなの嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!
他の家も見て回ったが、どこもベランダの鍵だけが開いてあり、誰もが苦しそうに横たわっていた。あまりの事態に息のしかたが分からなくなった。
苦しい。
行き場のない気持ちを紛らわせたくて、外に走り出した。
死にたい。生きていたくない。
もうどうでもいい。とにかく走った。
すると誰もいない筈なのに話し声が聞こえてきた。俺の他に生きてる人がいたのか!!俺は舞い上がってそっちの方向へ走っていった。
「うわわー、ここも手遅れだったにゃー!!見事にやられてますよミコくんくん?」
「多分生存者もいないだろうし………。帰るぞネオ」
「合点承知だにゃー!!((キリッ」
赤いジャケットを身に付けている見知らぬ二人がいた。俺は死に物狂いで二人に助けを求めた。
「おーい!!そこの人達助けてくださーい!!」