6.君想う気持ち
小さな頃から病弱で、生まれてから八割は床に臥せっていたと思われる私の人生。
肌にも現れる病気のため、包帯で醜い体を隠していた。高校に上がる頃には病状は進行し、学校にも中々通えなくなっていた。
そんな時、あの人を見つけたのだ。
――逢坂泰司くん。
彼はうちのすぐ近くの高校で、野球部とバスケ部を掛け持ちしているらしいのたが、少人数らしくうちの高校とよく合同練習をしていた。
放課後、暇な私はよくその練習試合を眺めており、彼は一番目立つ存在で何度も勝利を手にしていた。学校内でも『すごい奴がいる』と噂になり、人気があった。
私もいつしか彼ばかり目で追うようになった。誰よりも輝いて見える彼に、羨望の眼差しを向けていたのだ。ある時、グラウンドを眺めていた私のところに、野球の練習中の彼のボールが転がってきた。
とっても驚いて心臓をドキドキさせながら、彼にボールを手渡すけれど、緊張と恥ずかしさのあまり、俯いてしまう。包帯だらけの姿を不気味がられるかもしれないと思うと、余計動けなくなってしまった。
すると彼は『野球好きなの?』と思いもよらない質問をしてきた。
彼の笑顔はとても優しくて、私は自然と好きと答えていた。
そのあと彼は『勝つから見てて』と宣言した通り勝利し、私の姿を見つけたのか手を振ってきた。
私は嬉しくて嬉しくて、彼が私に手を振ってくれていることが信じられなくて、手を振り返そうとしたけれど、手に巻かれた包帯が目に入り――私はその場を立ち去った。
気を悪くしただろうか。きっとそうに違いない。無視してしまったのだから。
でも、私には手を振り返す勇気がなかった。自信がなかった。
一筋の涙が頬を伝う。
ああ、どうしよう。
私は――彼が好きだ。
羨ましかっただけじゃない。憧れていただけじゃない。
好きだから、あんなにも彼が輝いて映ったんだ。
涙が次から次へと溢れてくる。
ああ、どうしよう、どうしよう。
もう、どうしようもないけれど。
私は――彼が好きだ。
朦朧とした意識の中、私は彼のことを思い出していた。
傍らでは、お父さんとお母さんが私の名前を呼んでいる気がする。
ああ、神様。
もしも願いが叶うなら。
どうか彼に、もう一度だけ会わせてください。
意識が遠のく。
そして。
私は永い眠りについた――