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2.差出人の正体

 あれから一日、おれは真剣に考えてみた。

 何についてかって、もちろん――

 ラブレターの差出人について、だ! 真剣に生島への答えについてなんか、考えられるか。

 そして考えに考えを重ねた結果、一つ思い浮かんだことがある。

 生島には一人の妹がいる。だいぶ年が離れてて、今年小学校二年生になったはずだ。花ちゃんという名前で、生島に似ず可愛らしい女の子である。家に遊びに行くこともあり、かなり花ちゃんには懐かれていると思う。

 差出人は花ちゃん。これが一番しっくりくる。妹に頼まれ、断りきれなかった兄ちゃんの生島が、おれの下駄箱にラブレターを入れたんだ。

 生島は全くシスコンでもないし、寧ろウザがってる気もしないではない。でもやっぱ兄ちゃんだし。手紙の文字も小学校二年生のものとは思えないが、母親に書いてもらったものかもしれない。

 これだ! そうに違いない。そうであってほしい。寝ずに考えたんだから。

 おれはそんな切なる思いを胸に秘め、学校の休み時間に問い質すことにした。

「生島! 手紙の差出人、本当は花ちゃんなんだろ?」

 バンッと生島の机に両手をついて、真っ直ぐ睨み付けるように言ってやる。

「お前、ロリコンだったのか」

「違うわ!!」

 生島は席を立たずに平然としたまま、次の授業の教科書を取り出し始め、おれを見上げた。

「というか、差出人が僕だと思ってたのか。正真正銘の馬鹿だな。どうせ昨日はあれこれ悩んで眠れなかったんだろう? 本当に逢坂は笑える」

 フフッと、相変わらず気味の悪い笑み。

 ………………こいつ、わかってやってやがったな。

「おい、いいからおれの質問に答えろ。花ちゃんなんだろ? そうだと言え!」

 おれの必死の思いが伝わったのか、生島はふうと大きな溜息を吐き、

「今日、部活は?」

 的外れの質問を返される。

 前言撤回。おれの必死の思いが何一つ伝わってない。

「ねえよ! っていうか、おれの質問に……!」

「じゃあ放課後、僕の家に来い」

 不満爆発なおれを他所に、生島は涼しげにそう答えた。

「なんで」

「そこで全ての答えを教えてやるよ」

 なんか、ムカつく。

 が、おれは素直に従うことにした。



 放課後、おれ達は真っ直ぐ生島の家へと向かった。

 閑静な住宅街に佇む大きな青色屋根の一軒家。

 生島の両親はバリバリの仕事人間で、かなり裕福な家庭だったりする。真っ白な壁に色とりどりの植物で飾られた庭、ゴールデンレトリバーのダインという飼い犬が番犬さながらこの家を守っている。うちの築50年のおんぼろ屋敷とは、月とすっぽんくらいの違いがある。決して僻んでいるつもりはないが、しかしこの格差はいかがなものかとは思う。

「逢坂、あほ面で突っ立ってないで早く中に入れよ」

「誰があほ面だこの野郎」

 いつの間にか玄関先まで進んでいた生島に言い返しながら、おれは中へと招かれる。

 白いタイルの玄関で待ち構えていたのは、頬を蒸気させ、キラキラした笑顔の可愛いらしい少女だった。

「お帰りなさい、お兄ちゃん、泰司くん!」

 生島の妹、花ちゃんである。

「こんにちは、花ちゃん」

 おれはにこりと笑顔で返した。すると花ちゃんはおれの腕をぎゅっと掴み、強制的にスリッパへと履き替えさせられる。

「今日は花、泰司くんの為にクッキー焼いたんだよ! 早くこっちに来て!」

 両親が共働きなだけあって、小学校二年生だとは思えないくらい花ちゃんは料理がうまい。たまに夕飯をご馳走になったり、バレンタインやクリスマスなんかのイベントの時にもお菓子を貰ったりしている。

 ウキウキと話し掛けてくる花ちゃんは本当に可愛くて、生島とは似ても似つかない。

「おい、花。それは後にしろ。待たせたら悪いだろう」

 リビングへ向かおうとするおれ達に、生島が待ったをかけた。

「あ……はーい」

 急にしゅんとして頷く花ちゃん。

「待たせるって……誰をだよ?」

 おれは生島の不可解な発言に疑問を持つ。この家にまだ誰かいるのだろうか。生島は花ちゃんと二人兄妹だし、両親は仕事だろう。

 すると生島は呆れたようにフッと溜息をつき、

「手紙の差出人に決まってるだろう」

 と当たり前のように言ってきた。

 確かにそれが目的で来たわけだけど、それだとやはり差出人は花ちゃんではないと言うのか。というか何故、おれ宛てのラブレターをくれた人物が生島の家にいるんだ。

「あのね、泰司くん。その人、二階にいるの」

 花ちゃんはリビングから方向転換し、おれの手を引いて階段へと向かった。

 二階の突き当たりの部屋は、おれが足を踏み入れたことのない部屋だった。

「……なんか、異様な空気じゃないか?」

 おれはぎょっとする。その部屋は真っ黒なカーテンが掛かっており、珍妙な文字が綴られた札が至るところに貼られていたからだ。板の間には白いチョークか何かで大きな円が描かれ、蝋燭が何本か立っている。

「君にこの部屋を見せるのは初めてだな」

 後ろからついてきた生島が言った。中に入ると、部屋の端に置かれた戸棚からマッチを取り出し、手際よく蝋燭に火を燈してゆく。

「……何の儀式デスカ?」

 つい片言で突っ込んでしまった。

「いいから見ていろ。花、こっちに来い」

「うん」

 花ちゃんはおれから離れると、自ら白い円の中へと入ってゆく。

「目を閉じろ」と命じた生島は、素直に目を閉じ、俯いた花ちゃんに何やら耳打ちをした。

 すると花ちゃんの両腕は力が抜けたようにだらっと下がる。

「おいおいっ、大丈夫なのか?」

 堪らずおれは声を掛ける。この兄妹は一体何を始めたんだ。

「問題ない。――さあ、入って」

 しかし、おれの言葉は軽くあしらわれ、まるで独り言のように何かぽつりと呟いた。

 瞬間、花ちゃんの腕がぴくりと反応する。

 そしてまっすぐに顔を上げ、花ちゃんと目が合う。が、すぐに視線を逸らされる。

 なんか傷付いた。

「あの……生島さん、ありがとう」

「大したことはしてないよ」

 ――な、なんだ?

 花ちゃんから発せられた言葉に驚く。実の兄を突然、生島さん呼ばわりって。

 そしてそれを普通に受け入れる生島も何なんだ。

 呆然としているおれに向き直り、生島は言った。

「彼女こそ、差出人の正体だ」

「え、やっぱ花ちゃんなのか?」

「逢坂はやはりロリコンらしいな」

 いやいや、お前が言ったんだろうが。

 生島は銀縁眼鏡をくいっと持ち上げ、

「今の花は花じゃない」

 と断言した。

 おれにはどう見ても花ちゃんにしか見えない。確かにいつも元気な彼女にしては珍しく、何故だかおろおろしているが。

「どう見ても花ちゃんだろ」

「中身が違う」

 中身って、それはつまり――?

「――幽霊だ」

 生島の至って簡潔な返答に、おれは目を点にするしかなかった。

「幽霊って……花ちゃんが?」

 混乱するおれに、生島はこれでもかというほどの冷たい視線を向けてきた。

「鈍感なのも大概にしてほしいね。君は本当に馬鹿だな」

 何故そこまで貶されなきゃならんのだ。この冷徹人間め。

「とりあえず君にもわかりやすいよう、丁寧に説明してやろう」

 生島はそう言って、偉そうに腕を組む。

「まず、僕には霊感がある。いや、生島の家系と言ったほうがいいな。そしてここは、霊を呼び出す為の部屋なんだ。そっち系の仕事を請けることがちょくちょくあってね」

 初耳も初耳すぎて、おれは口をあんぐり開ける。

「……え〜と、この訳のわからない悪魔儀式的なセッティングが幽霊を呼び寄せると?」

「いや、これらはあくまで雰囲気作りなだけであって、霊的な要素は何もないよ」

 それは意味があるのか――

 おれが口に出すまでもなく、生島は「こういうのは雰囲気が大事なんだ」と、念押ししてきた。

 よくわからないが、突っ込んだところで余計わからないことになるに違いない。そっち系の仕事というのも気になるが、ここは黙っておくことにする。

 生島はそんなおれを見て納得したのか、続きを語り出す。

「僕は霊と交信することが得意で、花は霊媒体質なんだ。そして彷徨う幽霊の彼女を僕が見つけ、今花に憑りつかせている」

 そこまで言って、生島はおれの様子を伺ってきた。

「……マジかよ」

「真面目だよ」

 しかし、ようやく絞り出した言葉はさらりと躱された。

「さて、今のは完全に前置きだ。正直どうでもいいことなんだが、逢坂が想像以上に物分かりが悪いものだから仕方がない」

 こいつは一々難癖つけないと説明できんのか。

 そして花ちゃんは未だおろおろしたままである。生島は一瞬哀れむような眼差しで彼女を見つめ、

「重要なのが、妹に憑りついている幽霊が、君のラブレターの差出人だということだよ」

 おれに再度向き直る。

「いやぁ……だけど、そう言われても実際の彼女の姿も見えないし。というか、女の子……だよな?」

 よもやここに来て差出人が男だったなどという振り出しに戻るのは勘弁である。

「逢坂、君は男色家でもあったのか」

「違うわ! ただの確認だ!」

 目を見開き、驚きの表情を向ける生島の何とわざとらしいことか。

「冗談だ。それに僕はすでに彼女と発言している。とにかく、これで本題に入れるな」

やれやれといった様子の生島は、かなり放置気味だった花ちゃんをおれの前に引っ張りだす。

「あ…………」

 急に彼女の頬が真っ赤に染まる。

 確かに二重人格を疑いたくなる雰囲気の変わりようである。

 本当に幽霊が――?

「さあ、まずは自己紹介を」

 生島が促すが、彼女はもじもじとしながら「あー」だの「うー」だの言葉にならない声を上げている。

 ラブレターをくれたのが彼女だとするならば、彼女はおれのことが好きなわけで。今の状態はおれを目の前にして照れている、と解釈していいのだろうか。

 そう思うと何となくおれも居た堪れなくなってくる。

「えっと、名前……教えてくれる?」

 勇気を振り絞って聞いてみた。多分、笑顔が引き攣ってると思うけど。

 彼女は上目遣いにこちらを見上げ、こくりと頷いた。

「……宮下みやした――ゆい、です」

 それが、彼女の名前か。

「あ、あの!」

 おれが返事をする前に、彼女――宮下さんが勢いよく前に出る。

 何事かと彼女に注目すると、

「わ、私とデートしてください!」

 おれは人生初の、デートのお誘いを受けたのだった――

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