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1.届けられた想い

「こ、これは……!」

 朝一番、下駄箱を覗いた瞬間。おれの人生は最大の転機を迎えた。

 震える手で、上履きの上にそっと置かれた手紙を取り出す。どんな内容の手紙なのか、誰が見ても一目瞭然のそれに、おれは只々興奮していた。

 赤いハートのシールがペタリと貼り付けられた真っ白な封筒。

 宛先人は〈逢坂泰司あいさかたいじ〉。おれの名前。

 そう。これは紛うこと無き、


〈ラブレター〉だ。


 ……………………いやでも、待て。

 ここで舞い上がっても、実は誰かの悪戯という可能性もあり得る。内容を。とにかく内容を確認しなければ……!

 おれは震える手で慎重に中身を取り出す。淡いピンク色の便箋が折り畳まれており、ペラリと開いて読んでみる。


『逢坂泰司くんへ。ずっと好きでした。』


 …………やっぱり〈ラブレター〉だ。

 もう一度言おう。〈ラブレター〉だ!

 と言っても、差出人の名前が見当たらない。とてもスラリとした綺麗な文字で、おれが大好きだということがありありと書かれてはいるのだが。

 残念ながら、名無しの権兵衛である。

 まあ言っちゃあ何だが、おれはモテても可笑しくない。初めに言っておこう。勉強はできない。九九も危うい。しかし、こと運動に関しては群を抜いている。校内マラソンでは毎回一位だし、掛け持ちでやってる野球部とバスケ部では、エースとしての地位を確立している。そんなにスポーツに力入れてない学校で人数も少ないんだが、その割に素晴らしい結果を出してるってことで、少しずつうちの学校も注目されてたりする。さすがに全部が全部おれのおかげ、とまでは言わないけど。

 とにかく現在、高校二年生のおれだが、恐らく運動能力はこの学校内で一番を誇れると思う。

 だから女子さえいれば毎日毎日、おれの下駄箱はラブレターで溢れていたに違いない。女子さえいれば。

 …………おお?

 ふと、あることに気付く。そういえば、おれは男子校に通っているわけで。だからこそ、こんなに運動万能なおれは、今まで一度も告白なんてされたことがないわけで。

 わざわざ他校の女子が、おれの下駄箱を探り当ててラブレターを置いていくだろうか? 無いとは言い切れないが、普通はやらないんじゃないだろうか。男子校に踏み込むことだって難しいだろうし。

 ――まさか、差出人は男!?

 男か女か、どちらと考えるのが普通だろうか。やっぱ男か。可能性としては、ここの生徒が女子に頼まれて下駄箱に置いたということも考えられる。

 だけど男子校というのは、女子に飢えている人間がほとんどだ。他の男子に送られたラブレターなど、受け取った瞬間、破り捨てるか燃やし尽くすに違いない。おれなら確実にそうしている。

 ってことはやっぱ男か!? 学校の奴に見られたら、『逢坂の奴、男からラブレター貰って喜んでやんの!』などと囃し立てられ、確実に数週間はそのネタでからかわれ続けるに違いない。それだけは何としても、何としても避けなければならない。

 おれは、ラブレターに視線を落とす。差出人がわからない以上、無闇に捨てるわけにもいかないし、どうしたものか。

「お早う、逢坂。君はいつまで下駄箱の前で立ち往生してるつもりなんだ」

 急に背後から嫌味な声が掛かり、おれはビクッ! と思いきり肩を揺らして驚いてしまった。

 最悪だ――

 そいつの顔を見るなり、おれは血の気が引いた。こいつにだけは、こいつにだけは知られてはならん! おれの本能がそう告げる。

「お、おっす、生島いくしま……」

 すぐさまラブレターを鞄に突っ込み、平常心を装って挨拶する。

 こいつはおれのクラスメイトの生島淳いくしまじゅん。おれとは真逆の人間で、勉強万能、運動音痴。本人曰く『運動万能でも、実際プロにならないと実生活にはあまり役立たない。でも勉強は、すればするだけ生活水準が満たされたものになる』とのこと。こういうなんかムカつく持論を述べる奴である。しかし中学からの付き合いで、気付けば一緒にいることが多かったりする。おれを蔑みつつからかうのが面白いらしい。すげー迷惑。

 そして何故かこいつはモテるんだ。どこで知り合っているのか、年上の美人なお姉さまと代わる代わる親しい仲になっているらしい。

 外から差し込む朝日に、生島の銀縁の眼鏡が反射される。非常に眩しくて憎々しい。

「今、あからさまに何か隠したよな?」

 ぎくり。

 こいつに見つかったら万事休す。絶対面白がって学校中に噂を広めるに違いない。もちろん、差出人は男として。

「……気のせいだろ」

 自分でも非常にぎこちないと感じる返答をして、思いきり視線を逸らす。

 すると生島は、フフッと気味の悪い笑みを浮かべた。

「本当に君は、嘘が吐けない本物の馬鹿だなぁ」

 せめて馬鹿正直と言ってくれ。

 もう駄目だバレる――そう思った時、生島の表情から笑みが消え、珍しく本気と思われる表情をおれに向けた。

「下駄箱に手紙が入ってたんだろ。知ってるよ、僕が入れたんだから」

 生島はそう言って、銀縁眼鏡をくいっと中指で持ち上げる。

 おれは言葉を失った。生島がこの手紙を――?

「――その手紙の返事、よく考えておいてくれ」

「え」

「逢坂、よっす! 生島! 数学の答え教えてくれ~! あの鬼教師、今日俺を当てるって言ってたことすっかり忘れててさあ!」

 急に、おれと並ぶ馬鹿の一人、かじが割り込んできた。拝むように生島に手を合わせている。

「梶、君の将来は真っ暗だな」

「答え聞いただけなのに、ひで~! なあ、逢坂!? あ、生島待てって!」

 おれが茫然としてる中、二人はすたこらと教室へと向かってしまった。

「え~っと……」

 つまり、手紙の差出人は生島で、手紙の返事を考えろってことは。それって、それって………………。

 あいつが、おれを好きってことか~!?


 ――その日の授業は何も頭に入らず、数学の授業で結局答えられなかった梶と共に廊下に立たされたことは、言うまでもないだろう…………。

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