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魔法少女を夢見ませんか?  作者: 烏口泣鳴
少女は英雄になれない、それでもヒーローを目指す
11/14

法子Aside 今日のまとめ

 法子が窓を開いて自室に入り込んだ。

 ルーマもその後に続く。法子がそれに目くじらをたてた。

「ちょっと断りも無しに入らないでよ」

「うむ、邪魔をする」

「もう」

 法子が変身を解いてベッドの上に座り込む。

「疲れたー」

「ご苦労」

 背の低い小さな円卓の前に腰を下ろしたルーマも尊大な態度で労いの言葉を吐く。

 法子が睨む。

「ルーマ、電気付けて。その紐引いて」

「何だかどんどん扱いが粗雑になっていくな」

「嫌な人には優しくしないもん。早く電気付けて」

 ルーマは嫌そうな顔をして電気を付けた。蛍光灯が光りを放つ。途端に法子の緊張が弛緩した。

「疲れたー」

 法子は学校での戦いを思い出して息を吐き出した。本格的な戦い。人形とはいえ、人の形をしたものと。未だに何か嫌な感触が手に残っている。

「先が思いやられるな」

 ルーマが笑う。

 法子がそれを睨む。

「あのね、私はルーマみたいに戦い慣れてないの! これでも頑張ったんだから!」

「だから先が思いやられると言っているんだよ」

「うう」

 呻いた法子に笑いながらルーマは窓に目を向けて、その顔が強張った。

 法子も窓を見る。開ききった窓から女性が入ってきた。女性が法子へ一瞥をくれる。法子の背筋に怖気が走る。女性は笑顔を浮かべているはずなのに、どうしてかその笑顔が酷く恐ろしいものに思えた。

 女性はすぐに法子から視線を外してルーマの前で膝を突き、目の高さを合わせると、ゆっくりと頭を下げた。

「お久しぶりです、ルーマ様」

「どうしてお前がここに来た?」

「何を、分かっているでしょう?」

「俺を連れ戻しに来たか」

 そのやり取りを聞いて、法子は驚く。ルーマはここで帰ったら、この物語が終わってしまう。魔王の息子と共闘して世界を救うという漫画の様な物語が。

「ええ、数刻前までは。ところで、そちらの方は?」

 女性が法子に視線を送った。その柔らかい視線を浴びせられる度に、何故だか法子の体が恐怖で震える。

「ああ、そいつは法子っていって、この世界のパートナーだ」

「あら、そうなのですか」

 女性の笑みが深くなった。如何にも良い事だと言いたげな笑顔だったが、それを向けられた法子の恐怖は一等跳ね上がり恐怖で死にたくなるほどだった。

「法子、こいつはサンフ。最も信頼に足る部下。俺の片腕だな」

 サンフが今迄に無い程嬉しそうな笑みを浮かべた。その瞬間だけは、法子の恐怖が和らいだ。

「まあ、それは良いとしてだ」

 サンフの笑みが薄まる。じっとりとした目でルーマを見つめた。

「俺を連れ戻しに来たのかと聞いたら、数刻前はと言ったな。今は違うのか?」

「ええ。実は」

 サンフが僅かに法子へ視線を送る。

「安心しろ。無害だ」

 ルーマがそう言った。法子は失礼な事を言われた気がしたが、言い返せない。

「では、ルーマ様はこの辺りの噂話をお耳に?」

「いや。一体どんな?」

「実は願いを叶える何かがあると」

「ほう」

 法子は意味が分からず問いかけていた。

「そんな噂があるんですか?」

 サンフは答えない。

 黙したサンフにルーマが問いかける。

「本当にそんな噂が流れているのか?」

「ええ」

 サンフは頷いて目を伏せた。

「もしかしたらこれは」

「やはり覇王の卵かもな」

 法子はやっぱり二人の会話についていけず質問を差し挟む。

「覇王の卵?」

 やはりサンフは答えず、ルーマが不思議そうにサンフを見つめつつも、答えた。

「覇王の卵と言うのはだな。かつての魔王が封じ込められている卵だ」

「かつての魔王っていう事はルーマの御先祖様……っていう訳じゃないのか。選挙で選ぶんだもんね」

「ああ、俺とは直接関係ないな。その魔王なんだが、当時は凄まじい強さを誇って覇王と呼ばれていた。その無類の強さで近隣諸国を併呑していったんだが、ある時妻に先立たれて、絶望して自分を封じ込めた」

「自分で?」

 ルーマが渋い顔をする。

「ああ、統治していた民を無視して自分勝手にだ。俺には理解出来ん」

 法子もはっきりとその気持ちが分かった訳ではないけれど、きっと自分の妻をとても大事にしていたんだろうなと思った。何だか悲しくなった。

「まあ、そんな曰く付きの卵なんだが、本当に実在しているのかは分からん。ただ話だけは広く伝わっている」

「でもそれが願いを叶える事と関係があるの?」

「それも伝説として残っている。その卵の周囲に居れば願いを叶えられるんだそうだ」

「へえ」

「代わりに周囲が滅ぶ」

「え?」

「卵の周りに居る生き物という生き物が消え去るんだという話だ」

「何、それ」

「だから覇王の卵の話だ」

「そうじゃなくて……ああ、もう、それでそんなのがこの町に?」

 不安気に唇を噛んだ法子に向かってルーマは力強く笑いかける。

「心配するな。俺が居る。言っただろう? 異常を解決する手伝いをしてやると」

「うん」

 確かにルーマが居ると心強かった。何が起こっても解決してくれそうな気がする。そんな力強さを感じる。

 微笑み合う二人を眺めながら、サンフはとても優しげな笑みを浮かべていた。

「その者とやけに親しいのですね」

「ああ、仲間だからな」

 法子がその言葉を嬉しく思い、頼もしい気持ちでルーマを見て、それから何となくサンフの笑顔を見て固まった。

「そうなんですか」

 サンフが笑顔を浮かべている。ごく普通の笑顔である。けれどその笑顔を見て、法子は殺されると思った。何だか殺意が滲み出ている。

 恐怖している法子と恐ろしい笑顔を浮かべるサンフの些細なやり取りなど気にも留めず、ルーマはサンフへ尋ねた。

「で、覇王の卵は何処に?」

 サンフが言い淀む。

「それがまだ何処にあるかは。そもそも覇王の卵かどうかも分かりませんし」

 ルーマは頷いて言った。

「まあな。だがこれまでの異変を鑑みるに、恐らく覇王の卵だろう。伝承と一致している」

「異変て爆発とか? あれも全部その卵が原因なの?」

 驚いて声を上げた法子を無視して、サンフが頷いた。

「はい、私もそう思います。只今覇王の卵に関する資料の蒐集とこの辺りの調査を行わせています」

「調査? 人員を割いたのか?」

「いえ、流石に選挙を控えたこの時期ですから、こちらに来たのは私だけです。調査というのも向こうからの走査魔術で。いえ、確かに費用が掛かるのは承知しておりますけれど、やはり覇王の卵は押さえておかなければなりません。それを考えれば安い投資かと思いますが」

 言い訳がましいサンフの言葉をルーマは手で払って打ち切った。

「何でも良い。お前の好きな様にしろ」

「ありがとうございます。つきましては一度、情報を受け取るポイントにお越しいただけませんか?」

 ルーマが不思議そうにサンフを見る。サンフが慌てて付け加えた。

「流石に連絡員を派遣する為に、わざわざ高い費用を払ってこちらの世界に来る訳にはいきません。ですから交信の出来るポイントを作ったのです。勿論ルーマ様にお越しいただかなくてはならない訳ではないのですが、やはり重要な情報もあるでしょうし、一緒に居ていただけると。いえ、決してルーマ様とそこの者のお邪魔をしたい訳では無いのですが、あの、あの」

 ルーマは溜息を吐いて立ち上がった。

「良く分からんが、構わん、行くぞ」

「はい!」

 サンフが嬉しそうにルーマの後ろに付き従う。

 ルーマは窓枠に足を掛けて、一度振り返った。

「それでは、法子、また会おう!」

 そう言って窓から飛び出していった。

 サンフが法子に向かって一度お辞儀をしてから、一瞬、また凄まじい笑顔を浮かべ、そうしてルーマの後を追った。

 後には法子だけが残された。何だか凄く取り残された気がした。

 とりあえずお風呂に入ろうとる準備を始めると、何だか一気に現実に帰ってきた気がして、法子は奇妙な虚脱感に襲われた。

 ルーマは行ってしまった。あのサンフという女性と一緒に。何となく帰ってこない気がした。自分と居るよりあの女性と居た方がルーマには似合っている。

 町で起こっている異変はどうやら覇王の卵によるものらしい。きっとそれはルーマ達が解決するだろう。原因は分かった。解決する役柄も居る。そう考えると自分の出番はなく、下手に首を突っ込めば、魔王と戦った時の二の舞を演じる事になるかもしれない。だから関わるべきじゃない。もう夜には出歩かず、ルーマと会う事も無く、平穏な暮らしを享受する。それが一番のはずだ。

 明日の学校で友達に会えるだろう。今までずっと欲しくてたまらなかった友達が待っているはずだった。それは町で起こっている事件を解決するわくわくを補って余りある位にとても嬉しい事であり、早く明日になってくれと願っておかしくない事であった。

 けれど法子は、感情移入し過ぎた映画を観終わった後にやって来るあの虚しさを感じていた。

 一つの物語が終わった事へ捧ぐ悲しみが胸を圧迫して止まなかった。

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