彼らの先輩アイドル
FAF所属のアイドルは俺らだけではない。その中でも、最近よく歌番組で共演が多いのが「チームK」メンバーである。ちょうどチームKもSingle発売がMOONLIGHT1stSingleの1週間後で、また同じFAFということで何かと音楽番組に同時に呼ばれた。
チームKは今年でデビュー6年目の芸能ベテランで、いままでに様々な経験やレッスンを積んでいる。そのため、MOONLIGHTが音楽の部門でブレイクし、何度か音楽番組に出させてもらうことになるとチームKのメンバーも、MOONLIGHTの曲中にバックダンサー、バックコーラスや、趣向を変えて生演奏のときにバンド披露したりなど、オールマイティにこなし、お世話になる機会も多かった。
SAKUなんかは、かなり現役の長い先輩に自分たちのバックをやらせていいのか戸惑っていたようだったが、マネージャーは「芸能界は弱肉強食だからな。一瞬の映り込みでもありがたいのさ」がっはっはっはと大きく笑うだけであった。
そう言われて以来、皆、気にしてもなんとかなる問題では無いかと思い、気にすることをやめた。
リーダーのSHOTAなんかはチームKのリーダーと意気投合したらしく、リーダーとは何たるかを語り合っているそうだ。SAKUも持ち前の話しやすさでチームKのメンバーからは可愛がられているようだ。
俺はって?
俺は彼らとは会話をした記憶がない。話す必要もタイミングも存在しなかった。まあ、俺はそのへんも通常営業ってことだ。
ただ、今日は違ったようだ。
今日は音楽情報雑誌『Music.com』の撮影であった。
俺がスタジオに着いた時はMOONLIGHTのメンバーの中で一番後だったようで、先にSHOTAとSAKUが衣装に着替えていた。
待たせてしまっているなと思い、急いで今日の衣装がどこにあるのかを聞きに衣装スタッフの元へ向かおうとしていた。
廊下を歩いているその時、声が聞こえた。
「おぃ」
「おぃ、お前だよ!REI」
自分の名が呼ばれ、振り向くとそこには、知らない男がいた。
身長は175ほどであろうか、自分より少しだけ低めな気がする。少しつり上がった猫目が特徴的だ。男は白いカッターシャツに、実用的ではないがおしゃれなデザインのネクタイをし、多分スタッフではなく、芸能人としてこの場にいるのであろうことは読み取れた。
「なに?」
「ちょ、先輩に向かって挨拶も無しか」
「先輩?」
こんな先輩いただろうか。あまりこの仕事についてからも人の名前や顔は覚えていない。先輩として唯一顔が判別するのはSHOTAと仲がいいチームKのリーダーくらいか。
そういえば今日の撮影にはチームKはいるのであろうか。音楽番組で共演する機会があるってことは、音楽雑誌でも一緒になるかもな。
「おい、お前俺のこと知らないのかよ」
名乗られてもいないのだから知るはずがない。
「知らない」
「チームKの一員だよ。あんだけ一緒に音楽番組出てただろーが。お前本気か」
どうやら最近一緒になることが多いチームKのメンバーらしい。
まあ、リーダー以外の顔は認知していないのだから分かるはずがない。それ以外4人の印象は、同じように美形なんだけどパッと観た感じ覚えやすい特徴的な部分も少なくまあ、覚えなくていいか、っと結論づけた気がする。
5人アイドルを集めるのならもう少し特徴的なの集めたらどうなのかとも。
まあ、先輩であるなら相手のほうが立場が上だ。敬語を使うべきだ。そして相手を立てておいたほうがいいだろう。
「すいません」
そして、もう一つ。
挨拶をしていなかったことを咎められたんだからこれも言っておくべきであろう。
「おはようございます」
すると、こちらが素直に謝ると思っていなかったのか、猫目を大きく丸くし驚く。
お、リアクションでかいな。これから猫目先輩と呼ぼう。あ、いや心の中でだけだがな。口に出す勇気はまだない。
「お、おぅ、おはよう。じゃ、じゃ、なーくーてー」
おや、要件はまだ別のところにあるのか。
「言いたいことがあるんだ。勝負してくれ!そして、俺が勝つ!!」
意味を考えて、何も反応しないでいると、相手は「これ!」っといい何か紙切れのようなものを俺のポケットに突っ込んだ。
それで満足したのかニカっと笑い、ドタドタと走り去っていった。
彼は何歳であろうか。芸歴では彼の方が上だが、おそらく実際の年齢は多分高校生ぐらいであろう。
だが、なにか勝負とか言ってなかったか。
「なんだったんだ」
とりあえず紙を開けてみると、そこには明日の日付と13:00駅裏との文字。そしておそらく彼の名前であろう人物名と携帯電話番号とアドレスが載っていた。『三心 涼』と丁寧にふりがなまで振ってある。
いきなりこんな個人情報渡すなんてあいつは6年も何を学んできたんだ。本当に先輩かっとおもいながら、後でメールしてみようかなとも思う。
いや、だって勝負だぜ。面白そうじゃねーか。
着替えて撮影場所についたらまず一番に、SHOTAがいる方向に向かう。
「SHOTA」
「お、おかえり」
「またせたな、すまん」
「いや、俺らが早く着いただけだから。始めようか」
SHOTAが一言スタッフに入れると、写真撮影が始まる。
今日はセット内で3人が自由にして
いるところをカメラマンも自由に撮っていくといったスタイルで撮影を行うらしい。
チームKと仲がいいSAKUなら、今日も何があったのか分かるはず。
猫目先輩の俺との勝負、なんていう発想にいたった経緯がわかるかもしれない。
そう思ってSAKUに近づく。
「SAKU」
「あれ、REIじゃないですか、なになに、何して遊びます?」
セット内には鞠やおはじきなど昔なつかしの道具を初め、現代的なPSPや3DSにいたるまで全て網羅していた。
これは、何するのを期待されているのか分からない。
「オセロはどうだ」
「そうですね、いいねやりましょう」
そういってSAKUはオセロを準備し始める。
ふと、SHOTAは何しているのか気になったらSHOTAは一人壁にもたれかかり、カメラマンを独占し、ポーズをとっていた。
今日はそういう撮影ではなかったはずだが。
呆れる。
まあ、ならいいかとSAKUとオセロを始めることにした
「なあ、SAKU」
「んー。なんでしょう。えいやっと」
オセロのコマをおくのに「えいやっと」ってなんだ。
可愛いじゃないか。
これは後で雑誌インタビューで報告するべきだな。
「チームKの三心ってやつ知ってるか?」
「ああ、はい。涼くんですね。知ってますよ。」
「勝負しろとか言われた」
「ぶっ」
誰も笑えとは言っていない。
「いやぁ、彼は多分本気ですよ」
本気ってどういうことだ
「多分MOONLIGHT一番人気のREIに嫉妬してるんでしょうね。コンプレックス克服のために何かに勝ちたい、そういった単純な気持ではないでしょうか。ちょっと涼くん単純でお馬鹿な所あるんで。」
先輩のことでも冷静に分析してさらっと毒舌も混ぜることが出来るのはSAKUらしいというか、なんというか。
「今日も同じ雑誌の撮影あったみたいで、私達より先に入っていたみたいですよ」
なんかめんどくさい事に巻き込まれた気がしてならないのだが、とりあえず今日は
「俺の勝ち」
オセロの板は数えるまでもなく俺の黒が7割を占めていた。
あと3つ空きますがあるが、どうしようとこの戦況はひっくり返らない。
「ああああ、ひどいですREI!関係ない話をして集中させなかった作戦ですね」
ぶつぶつ文句を言っているが、無視だ無視。
こんな言葉数少ない俺とでも、会話が成り立っているのは、さすが空気の読めるSAKUだ。
表情や間などから、感情を拾ってれるSAKUは、こういった面がラジオパーソナリティーとして重宝がられていた部分であろう。
SHOTAも癖があるやつではないが、MOONLIGHTの潤滑油は実はSAKUである。
その後スタッフに呼ばれ、どんな写真が撮れているかのチェックに入った。
SHOTAはピンショットでかっこつけているものが多く、俺とSAKUはさっきのオセロの様子が撮られていたみたいだ。その後、3人全員での集合カットで締めとした。
これらの写真でどんな雑誌になるのであろうか、楽しみである。
三心涼ね。
どうやら、俺はグループメンバーより先に、今日初めって認識した奴の名前を先に知ってしまったようだ。