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ヒキコモリなのにアイドル  作者: ゆりや
まずは挨拶から
3/19

彼がアイドルを始めた経緯1

 夢を見た。俺、風神玲がアイドルになった時の夢を。


 俺は物心ついた時点ではすでに周りから距離を置かれていた気がする。小学校の時点で、友達はおらず常に一人。友達どころか、同い年には常に敬語で話しかけられる始末。お昼にせっせとお皿に給食を注ぐ給食当番や、必死になって雑巾がけをする掃除当番なんてものも何故か回ってこなかった。

 中学校に入り、出身校が違う同年代とは友達になれるかと期待した所、なぜかはじめから視線をビシビシと感じ、注目されているのを感じながらも、いつの間にか敬語で遠巻きに話しかけられるようになっていた。

 家族からも冷たい印象を与えると言われている容姿に加え、本来の無口がそれに拍車をかけたのか、高校ではさすがに敬語で話しかけられることはなかったが、結局まともに話せる人は出来なかった。

 そんな中、友達を作るのを諦め、大学に行く理由もきっかけも無かった俺はそのままひきこもりとなったのは不思議でもなんでもない。親はそれなりに稼ぎを出しており、そのころには自分のお小遣いから株のやりくりをし、生活費分の収入はすでにあったため、高校卒業を同時に家を出た。

 毎朝株の操作をパソコンで行い、それ以外はテレビやパソコンで時間を潰す日々。この時期にあきらとも出会った。そんな日々をし続け20歳になった時だ。親との生存報告の時にしか使用していなかった一本の携帯電話に着信があった。


「もしもし、風神玲さんでよろしかったですか」


 はじめに名前を言い当てられ困惑した記憶がある。この電話は家族以外に使ったことがない。電話会社の情報漏洩が一番可能性が高いか考えていた。


「はい」


「私、FAF(ファッフ)プロダクションの中野と申します」


 FAFプロダクションは大物演歌歌手、歌手、アイドル、モデル、タレントなどが所属するなんでも事務所であった気がする。いないのはお笑い芸人ぐらいか。


「どこでこの番号を」

「私、玲さんのお母様とは常日頃親しくしていますの」


 母親と親しくしているのは分かった。しかし、今まで俺に無干渉であった母がこのように人に電話番号を教えるはずが無いとも思った。しかし、俺が何かをいうまでもなく彼女はこう言った。


「いまから、うかがいますので」

「え」

「いまから、うかがいますので覚悟してくださいね」


 そういって電話を切られたのだ。



 それからすぐにインターフォンがなり、ドアをガチャガチャと開ける音がする。ドンッとの音の後に、足音。静かな部屋の中で2年間を過ごしてきた俺にとって、喧騒は不愉快でしか無かった。思えば、この時何故鍵が開いたのか、不法侵入ではないのかといろいろ考える事はあったのかもしれないがとりあえず、うるさいなぁとだけしか思わなかった自分は異常なのであろう。


「まあ、ひきこもりってた割にプロポーションは相変わらず最高」


 と言われ、体中を触られ


「こんなオシャレな服どこで買ったの」


 と言われ、通販を紹介したら


「世の中も便利になったもんね」


 この人ひきこもりにどんな偏見もってるんだ。ネットさえつながればどんなブランドもどんなおしゃれな家具でも買えるのに。そして最後に


「うん、これなら大丈夫ね」


 っと言って、写真を何枚か撮って帰っていった。いったい何だったのか分からず、まるで台風のように去っていった女に嫌悪感を感じつつも、やっと出ていった騒音に感謝し、急いで母に連絡をとることにした。

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