楽屋にて
「随分長かったなぁー。どこまでいってたんだ?」
「それが聞いて驚け!Bスタジオにまで行ってたんだぜー。探すの苦労したのなんのって」
「おめーに話してねーよ」
SHOTAの質問に三心が答える。MOONLIGHTの楽屋に到着した途端、差し入れでもらい置いてあった苺饅頭に目をキラキラさせ俺の方を見てきたから、先ほどのお礼の意味も込めて差し出すとそのまま居座ってしまった。のんきに新しい紙コップを見つけてお茶まで入れ始める始末だ。
「で、なんでこいつが居座ってるんだ?」
SHOTAは三心が楽屋でくつろぎ始めたことに不満なようだ。実は甘いもの好きなSHOTAの事だ。このまま居座られると苺饅頭の取り分がだんだん減っていくと思ったのだろう。15個入りなのだから3人で食べる分には多すぎるぐらいだと思うのだが。
「こいつってなんだよー。俺の方が先輩だぞ!」
「関係ねーよ。糞ガキ!」
精神年齢が同じなのか、ギャーギャーとどうしようもない言い合いを始める。
「はぁ」
ため息をつきそれとなく二人から離れた俺に、SAKUがお茶を紙コップに入れたものを手渡してくれる。SAKUもSHOTA一人ならいつもはたしなめて静かにさせるのだが、さすがにあの二人を注意しても無意味だと諦めているようだ。
SAKUも先ほど訪ねてきた咲良が気になるようだ。話題は自然と咲良と何を話していたのかに遡る。軽くBiBiの話をすると、SAKUは顎に手をあて、うーんと考えこむ。
「じゃあ、スキャンダルが出るような関係では無いんですね」
「まさか」
アイドルにスキャンダルはご法度だ。しかもデビューして1年もしていない新人アイドルなんてスキャンダルが出たとたん解散となってもおかしくない。それにしても咲良とスキャンダルなんで、スキャンダルが出た後咲良にどんな難癖をつけられるか想像しただけでぞっとする。
「まあ、あんな女とREIが釣り合うとは思ってませんが」
ふふふと黒い笑みを浮かべ始めるSAKU。普段話しかけやすい爽やかキャラで売っているのに、たまに楽屋で黒くなるのはもう慣れたもんだ。まあ、SHOTAがふざけた時にはSAKUが突っ込み担当で、最近は呆れて厳しくなりがちなSAKUをよく見ているファンには黒いのがバレかけているのは本人は気づいているのかいないのか。
どこから聞いていたのか、三心は俺の耳元に手を当て、小声で話しかけてくる。
「おい、SAKUってあんな怖いやつだったのか」
かなり小声だったのだが、SAKUは聞き逃さなかったようだ。
「何か言いましたか?涼くん」
「いいえ!」
SAKUが三心の事を敬っていないのは黒い笑顔からも一目瞭然だ。そういえばこの前SAKUに三心の事を聞いた時も軽く馬鹿にしていたような気がする。
それに気づいていない三心は、こえーこえーと言いながら追加の苺饅頭に手を伸ばす。それを見逃さないSHOTAが、俺もまだ二個目食べてないのにと、ちょっかいを出し始め、言い合いをまた開始した。
「あー、もうこいつ、引き取りに来てもらおう」
SHOTAは疲れたのか、携帯を手に持ち苺大福が乗っているテーブルから離れ、どこかへ電話をかけ始めた。
三心は勝ち誇った顔で3個目の苺大福を頬張っていた。それにしても見事な食べっぷりである。
「よく食べるな」
呆れて、三心に話しかけると、三心の口元にはどうやったらこんなに汚く食べれるのか、見事にたっぷりとあんこが付いていた。
「へっへー。甘いもんは好きなんだ。REIは食べたか?」
「俺は甘いモノは苦手だからな」
「SAKUは?」
「私もそれほど、得意ではないので。」
「なんだ、あいつ、これ独り占めする気だったのか!!」
なんて贅沢なやつめとプリプリしながらも、食べ進める手は止めようとしない。
電話が終わったSHOTAが戻ってくると、4個目に突入しようとして三心が持っていた苺饅頭を取り上げ、パクっと口に放り込む。
「あぁ!!!!!」
「おい、夏に連絡したから。お前もー帰れ。」
「うげー。リーダー来んのかよ」
どうやら先程の電話はチームKのリーダーにかけていたようだ。
「おや、夏さん来るんですか」
「あぁ、すぐそばがチームKの楽屋らしい。すぐ来るとさ」
三心がぶーぶー言いながらもなかなか席を立たないでいるところに、ノックの音が響く。
「入るよー」
のんびりとした優しげな声が響く。
そこには、SHOTAとよく一緒にいる顔があった。男にしては白く中性的な顔立ちだが、180近くある身長と立ち姿から漂う不思議な色気が彼を男だと主張する。
チームKのリーダー夏祐紀は、楽屋内をキョロキョロと見回し、三心を見つけると手招きをした。
「ほら、おいで」
三心も夏には逆らえ無いのか、やっと重たい腰をあげた。
「いやぁ、ごめんね。うちの涼が迷惑かけたね」
「夏!こいつもっと躾とけよな」
「はは、夏さんこちらもライオン(笑)も躾けがなってなくてスイマセン」
「おい、お前に躾けられてる覚えはねーよ」
夏はSHOTAとSAKUの二人のやりとりにも夏はニコニコしている。
「なあ、REIこれ持って行っていいか」
やっと帰ると思った三心が声をかけてきたのでなにかと思ったら苺大福を指さしていた。もってけ、と三心の口の中に突っ込んでやった。
「いえいえ、SHOTAもSAKUくんも、REIくんもまたね」
「うぇいヴぁーあな(REIじゃーな)」
食べながら、三心は夏の後ろを追いかけていく。
「おいガキ、俺らにも挨拶してけよ」
SHOTAは噛み付くが無視して三心は駆けて行く。反対にSAKUは、ははっと笑い流し二人に手を振り見送っている。
「糞ガキ!」
SHOTAは無視されるのにまた腹を立て、捨て台詞を吐く。そこで三心がくるっと振り返った。もう苺饅頭は消化したようだ。
「俺のライバルはREIだけだからな」
ドヤっと言い残して、こんどこそ走り去っていった。
「だとよ、よかったな」
「よかったですね」
「・・・」
そう声をかけられたが、二人共本心で言っていないのはバレバレだ。