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ヒキコモリなのにアイドル  作者: ゆりや
鬼姫の憂鬱
14/19

彼女の闇に触れた時

 更衣室は男女別で用意してあるが衣装部屋は男女同じ。持ってきた荷物なども衣装部屋に置いておくために、衣装部屋は一種の楽屋とかし、今日のモデルたちのたまり場となっていた。

 そこには先ほど話に上がっていた咲良の姿もあった。咲良はもう衣装に着替え、休憩をとっているようだ。俺たちが衣装部屋に入ると、彼女は誰かが入ってきた気配にふと目を上げ、それが俺らだと分かった瞬間ににこっと笑顔を向け、駆け寄ってきた。


「こんにちわっ。昨日ぶりですね~嬉しいです!!」

「おおっ!姫もいっしょなんだ!よろしくな」

「姫だなんて!私のこと知っててくれて嬉しいです」


 三心は咲良の笑顔と無邪気さにデレデレになって対応している。昨日喫茶店の前では気づかなかったが、三心も咲良を姫と呼んでいるのか。


「REIさんも今日はよろしくお願いしますねっ」

「ああ」


 咲良は俺に向けても、屈託のない笑顔を向けてくる。それでも俺はこの前の喫茶後の咲良のなにもうつしていない無表情の時に目があってしまっただけにどうもこの笑顔がうそ臭く感じる。

 三心と咲良がキャイキャイとはしゃいでいるのを片耳で聞きながら、俺は衣装とアクセサリーを身に着けていく。今日はDaaC(ダァーク)全身でのコーディネートにアクセサリーも含まれていた。DaaCは数少ないが、アクセサリーも販売している。シンプルな服に合うよう、アクセサリーも男性ファッションブランドには珍しいキレイめなものが多い。

 今日のコーディネートは黒のVネックセーターに細身のデニムパンツに皮で編まれたベルト、その上に細めの鎖のネックレスと腕輪を重ねるものであった。

 普段の私服もあまり派手なものを好まない俺にとって、毎回DaaCが揃えてくれるファッションは違和感なくスマートに着れて助かっている。

 そんなことを思っていると、撮影の準備が整ったのか、スタッフから声がかかった。


「三心さーん。お願いします」


 どうやら、まず特集用のページを終わらせてしまうようだ。三心といっしょに他数人に声がかかった。


「げっ、俺だけ先かよ」


 三心はそういえばずっと咲良と話をしていたようだが、着替えは終わっているのかと気になったが、そこは彼もプロ。早着替えで着替えを終わらせてから、咲良としゃべっていたみたいだ。完璧に着こなしている。


「また後でなっ」


 そう言い、三心は衣装部屋を出ていった。


 さきほどスタッフが呼びに来たということで、スタジオの準備が整ったことを知ったモデルたちは続々と移動を始めていた。衣装部屋にも休憩できるスペースはあるが、スタジオにも撮影を待つためのスペースがあり、モデルを仕事とする彼らは他のモデルの撮影の様子も自分の糧とするために見学する場合が多い。

 俺も移動しようかと腰をあげると、ふと視線を感じた。


 咲良だ。


 ニコッと笑い、その後すっと表情を無くす。


「ねぇ」

「何」

「どうせ私が猫かぶってるの気づいてるでしょ?」


 俺は、咲良が猫をかぶっているのに気がついてはいたが、何故それで俺に視線を向けてくるのかが分かららない。


「なーんか、あなた私に似てる気がするのよね」

「似ている?」

「そう、あなたも自分を殺してこの業界にいる」


 彼女が咲良姫の仮面をかぶって人気が上がっているように、俺もアイドルと言う名の仮面をかぶっているのだろうか。いや、俺はもとからただの口下手で、表情筋を動かすのがめんどくさくて、ひきこもり時代の自分そのままだ。それを勝手に無口でクールだと勘違いされているだけで、俺は決して自分を殺しているわけでも無理をしている訳でもない。


「ふふふ、芸能界なんて所詮偽りの世界」


 そういって咲良は少し微笑むが、その微笑みは先程三心と話していた咲良姫の無邪気な笑みではなく、それでも見ているものを惹きつける影のある笑みだった。


「本当のお姫様なんていない。いるのは操られているただのピエロ」


「なにを言いたいのかわからないが、俺はお前とは違う」


「そう、気づいてないのね」


 俺の言葉に少しまた影を暗くしたが、それでも彼女はまた言葉を続けた。


「まぁ、仲良くしましょ」


 そう言って咲良は衣装部屋を出ていった。

 咲良は咲良姫という自分を疎んじているように言った。そしてピエロとも。ピエロは道化師、ショーの間の場繋ぎのおどけ役。

 何を思って彼女はピエロなんて言ったのか。

 俺はとりあえず、誰もいなくなった衣装部屋を離れた。


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