喫茶店にて
なんとか喫茶フラワーの中に個室に通され、落ち着くことが出来た。喫茶フラワーの店内は全て個室防音制。防犯の為か、照明は明るく、店員もちょくちょくと御用伺いに現れる。そのため、ゆっくりとした食事には向いていないが、こういったちょっとした待ち合わせには女性も安心して利用できる店となっていた。
店員が注文を取りに来たので、俺はブラックコーヒーをとりあえず頼んでおく。さて、これで三心とゆっくりと話しが出来るようになった。とりあえず今回の一番の目的から入るべきであろう。
「どうしたらいい?」
そうだ、一方的に勝負と言われ逃げられたのだから。思ったら彼ときちんと話をするのはこれが初めてとなる。
「おお、そうそう!昨日は時間がなかったからな。改めて言うよ、俺と勝負をしてくれ。」
三心はまたニカッといた笑顔をしてそう言った。あれは、三心に時間がなかったからなのか。しかし、またもや同じ事を繰り返しているだけで、結局俺には彼が言いたいことが分からない。
「何故?」
そもそも、何故いままで交流が無かった俺にいきなり勝負なのか。そこが不思議だ。
「俺がお前に勝ちたいからだ!」
三心は堂々と答えてくる。
「なんで俺?」
「お前の完璧ぶりにムカつくの。お前が嫌いなの。」
「…。」
こうも面を向かって負の感情をぶつけられたのは初めてかも知れない。男性アイドルとしてネット上で批判されている事はよくあったが、ネットに慣れている俺としては、目立つものは必ず叩かれるネットでの叩かれるのはしかたがないものであると理解して為、気にしたことなんて無かった。面と向かっては遠目で見られることが多かった為、そもそもあまり声をかけられないのだ。
そのため、目の前で嫌いと言われ、初めて実際に俺の事を嫌いな人間というのを見たのだ。
「そうか」
だが、ここまできっぱり自分の事を嫌いと言われても、何故か三心に関して不快感は感じない。むしろ馬鹿素直すぎて、あまり裏表のある人間と接するのが苦手な俺は、性格的には好印象さえ与える。
「って、それだけ。おれお前が嫌いだっていったんだけど。怒んないの?」
「嫌いなんだろ?別に仕方ない」
「うー、そうじゃなくて。嫌いなんだけど、好きっていうか。羨ましいというか、そうなりたいというか、だけど気になるっていうか」
三心はひとりでブツブツ言い出し、言いたいことがまとまっていないようだ。店員がちょうど飲み物を持ってきた。俺の前にコーヒー、そして三心の前にオレンジジュースを置く。それにしても、三心はオレンジジュースを頼んだのか。なんともキャラ通りな奴。コーヒーを堪能しているうちに三心の考えも言いたいことも固まったようだ。
ばんっ、と立ち上がり、人差し指でこちらを指さしながら叫びだす。
「つまり、お前をこてんぱんに倒して、俺が一番になるんだ」
目をキラキラさせてこちらを見てくる。
結局、俺から見た、三心はまるで子供だ。芸歴はこちらが半年とはいっても二十歳過ぎの成人、三心は6年といってもまだ成人していない子供。芸能界はこういった逆転した上下関係が生まれるのがめんどくさいところである。
「そうか、で、なんの勝負をするんだ?」
とりあえず勝負をすること自体は楽しそうであるし、異論はないので、そのまま次に気になる勝負内容に話を移す。
「うーん」
そのまま三心はまた悩み始めてしまった。仕方ないので、こちらから助け舟を出す。
「お前得意なことは無いのか?」
なんの勝負をするのかにもよるが、相手の自信があるもので勝負したほうがいいであろう。それに特に三心は勝負内容にこだわるのではなく、ただ俺に勝ちたいという思いしか無いみたいだしな。
その言葉に目をキラキラさせ答えた三心の言葉に、俺はまたため息を付きたくなる。
「テトリス!!」
残念だが三心。それは俺も得意だ。ひきこもりをなめたらいけない。
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あきら>ぶっはwwwww
あきら>なんだよそれwww結局勝負ってテトリスかよ
レイ>おー
あきら>まじおこちゃま。可愛いねぇ
レイ>かんべんして欲しい
あきら>で、どっちが勝ったの?
レイ>俺が負けるわけないの知ってるだろ?
あきら>そういや、俺レイに100戦100負したんだったwww
あきら>っでにしてはログイン早いじゃん
あきら>帰ったの?
レイ>ゲームするのに疲れ果てて、俺のベット占領して寝てるよ
あきら>まじドンマイwww
あきら>ってかお前んちに誰かいるとか聞くの始めてなんだけど
レイ>そうだな
レイ>そういえば、誰かを入れたの始めてかもな
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俺はあきらに事の次第を話しながら、そういえば成り行きとはいえ始めて家に誰か他人を呼んだと思い出す。
年下のこの先輩をなんやかんや気に入ってるのかも知れない。