第21話・夏休み編その14。
今回で夏休み編は、終了です。
晶
『貴女は?』
私の問いにその女の人はクスリ!と笑った。
亜依
『私の名前は亜依。宜しくね…天野晶さん?』
クスクス笑いながら亜依と名乗った女性は何故か河野先輩に似てると感じた。
そう言えば、さっき井上君と、話をしてた女の人だと気付き私は胸がモヤモヤした…。
そんな私を見て亜依さんは何がそんなに可笑しいのか、未だに笑い続けて居る。
亜依
『うふふ…。総一郎君も幸せ者ね…貴女みたいな可愛い女の子に、好意を持たれて…』
その言葉に私が赤面すると亜依さんは益々、笑い続ける。
しかし…。直ぐに彼女は真剣な表情を私に向けて言った。
亜依
『貴女に言わなければ、ならない事がある…貴女が悪の秘密結社と戦うというのなら…』
そう言って彼女は一旦、言葉を切る。
数秒の間、彼女は瞳を、閉じて黙り込む。
何故か私は今、嫌な予感が脳裏を過ぎった。
このまま、彼女の言葉に耳を傾けては、駄目だと思いつつも知りたいと、思う私が居る。
亜依
『先ず貴女の持っている物を説明しなくちゃいけないんだけど…結構長くなるわ…それでも聞きますか?』
彼女の問いに私は、頷き話の続きを促す。
亜依
『貴女の持っている物の名前は精神力変換装置…或いは、ソウル・クリスタル。別名悪魔の水晶と呼ばれる代物…』
晶
『悪魔の水晶?』
オウム返しで聞く私に、彼女は、頷いて言葉を、続ける。
亜依
『それは、ソウルクリスタルが危険な物だから…人は、凄い能力を秘めているけど…』
晶
『普段は…そうね…数%程度しか使えない…』
亜依
『けど…。ソウル・クリスタルを使えば、普段は使わない力を、使う事が出来る…。その意味が、分かる?』
その問いに、私は自分の考えを否定する為に言った。
晶
『もしかして、火事場のクソ力とか…』
その答えに彼女はクス!と笑い言った。
亜依
『うふふ…正解…そんな力を常時出したら、どうなるか?言わなくても…分かるわね…』
晶
『っ!』
亜依
『ソウル・クリスタルは誰にでも使用する事は、可能…』
亜依
『ただし、その力を得る為に体内にある栄養を、エネルギーに、変換して総一郎君や、他の皆が、ブレードに変身するの…此処まではOK?』
晶
『ちょっと待って!もし体内にある栄養が無くなったら…』
最悪の想像をした私に、彼女は、微笑んだままで言った。
亜依
『まあ…。その前に自己防衛本能が働いて強制的に変身が解除される…』
ほっ!っと胸を撫で下ろした私を彼女は、平然と地獄に突き落とす。
亜依
『でも、何人もの人間がエネルギー切れによって強制的に変身が解除された事で、戦闘員や怪人に殺されたけどね…』
あっさりと言う彼女に、私は恐怖を感じた。
亜依
『それが悪魔の水晶だと言われる所以なのよ…』
悲しそうに、笑いながら更に亜依さんは私にショッキングな事実を、突き付ける。
亜依
『因みに…私達が戦って居る戦闘員や、怪人達は人間をベースに造られて居るの…意味は理解出来るわね?』
その言葉に私は血の気がすうっと引いたのを感じた。
黙り込む私に、更に亜依さんは追い撃ちを掛ける様に言った。
亜依
『貴女が好きな総一郎君も私達と同じ人殺しだと言えるわ…』
亜依
『それでも…貴女は総一郎君を愛し続ける覚悟はある?』
亜依
『総一郎君と共に修羅の道を歩む覚悟はある?』
亜依さんの問いに、私は躊躇う事なく答えた。
晶
『例え…世界中の誰もが井上君を人殺しだと言ったとしても…』
晶
『私は絶対、井上君の、味方のままで居る…』
晶
『この気持ちだけは…。井上君を大事に思う気持ちは、そんな程度の事で揺るがない…』
そう言うと、亜依さんは驚いた様な表情を浮かべたけど直ぐに、ニンマリと、嫌な予感しかしない笑顔を浮かべた。
晶
『あの?何ですか?』
私は若干、引き気味で、亜依さんに問う。
亜依
『うん!うん!青春かな青春かな!若いって良いわねぇぇぇ!』
何だか私の母に似て来た亜依さんに、私は苦笑いしか出来ない…。
亜依
『まあ…本当の事を言うとね…貴女に総一郎君を諦めさせようと思ってたのよ…』
真剣な表情をして言った亜依さんに私は固まる。
晶
『何故?』
私の問いに、亜依さんは真剣な表情のまま呟く様に言った。
亜依
『総一郎君は何時死んでも、おかしくない様な…そんな生き方をしてるからね…』
亜依
『正直、普通の女の子に彼は繋ぎ止めるなんて、不可能に近い…』
亜依
『彼は修司や大悟と同じで、馬鹿だから自分が、死んでも誰も悲しまないと本気で思ってるから…何せ馬鹿だし…』
何気に馬鹿だし…の所を殊更、強調した亜依さんは何処か悲しげだったのが気になった…。
ああ…。だから井上君は戦う事が…生きる理由と言ってたのね…。
どんなに辛い思いを堪えて来たんだろう?
きっと…私の想像よりもずっと苦しい思いをして泣きたい時だって何度もあった筈…。
なのに…泣き言一つ漏らさず…。
亜依さんの言ってる言葉の意味が痛い程に、理解出来た。
晶
『馬鹿ですね…井上君も大悟と言う人も…』
亜依
『ええ…本当に馬鹿よ…でも…そんな人達を好きになった私達も馬鹿だけどね?』
クスクス笑いながら言う亜依さんに私は頷く。
亜依
『戦うと決意した以上…きっと、ゼノンの奴らも貴女を狙って来る…気を付けて…』
その言葉に、私は無言で頷いた。
亜依
『そうそう…勘違いしないでね?あの時、渡した紙は、ゼクロスメンバー達の連絡先だから…』
そう言われて私は固まり更に言葉を続ける。
亜依
『それと…もう一つ近い内に、貴女と総一郎君を正式にゼクロスメンバーに登録するからね?』
それだけ言うと亜依さんは、歩いて行ってしまった…。
ゼクロス?聞いた事の無い名前の筈なのに何処か懐かしい感じがする…。
なんだか…急に井上君に会いたくなった。
私は、何となく井上君の気配のする方へと、足を進める。
此処から総一郎視点に、変わります。
僕は…。一体何がしたいんだろう…。
他人を巻き込まない様に生きて来たつもりだ。
人との関わりを最小限に留めて団体行動の時は…わざと単独行動をし続けた。
それが正解と未だに思っている自分が居る。
天野さんが、ゼノンとの戦いに巻き込まれた時、正直、血の気が引いた。
何とかエボリューションして怪人を、倒したけどエボリューションが使いこなせない今の僕では、絶対に勝てない。
大体、元ブレードの風間聖児を相手にエボリューションさえ出来ない俺が勝てる訳が無い…。
サンダーリキッドが言っていた言葉を、思いだし俺は溜息を吐いた。
ポケットから、ソウル・クリスタルを取り出して右手で握り締める。
父さんから貰った大事な形見であり、真なる悪に対抗出来る7つの武器の一つ。
とにかく…悩んでも仕方ない…。
俺は今まで通り戦い続けるだけだ…。
しかし…まさか天野さんが悪の秘密結社と戦うと言い出したのには本当に驚いた。
っ!待てよ!まさか…。天野さんに俺が人殺しだとバレた?
多分、天野さんは、ゼクロスメンバーの人の話を聞いてる筈…。
ソウルクリスタルや戦闘員や怪人達の事を…。
もし…天野さんに責められたら…俺は…っ!
拳を握り締め歯を食いしばる。
いや…。その方が良いのかも知れない…。
天野さんに嫌われた方が楽だ…。
最初は辛いかも知れないけど…。
天野さんを好きだと思う気持ちに嘘や偽りは無いから…。
例え…嫌われても怖がられても、天野さんを護りたい…。
はは…。何て自己中なんだろう…。
何て、エゴイスティックな感情なんだろう…。
ああ…何て醜いんだ…。俺は…。人殺しの癖に…こんな…血まみれの手で天野さんを…護りたいだって?
ははは!笑わせるなよ!井上総一郎!
俺に、出来るのは戦う事だけだろうが!
戦闘員や怪人達を、ぶち殺すだけの刃だろう?
人並みの幸福など求めないと…あの時、誓った筈だろう?
身も…心も…名前さえも俺には不要だと…。
自分にとって大切な人達の笑顔を曇らせない為に悲しませない為にも…。井上総一郎と、してでは無くシャドウ・ブレードとして生きると…。
あの誓いを破るつもりなのか?
ええ?井上総一郎…。
そんな程度の覚悟しか!そんな程度の決意でしかないのか!
駄目だ!頭が!こんがらがる!
もう…。この事は考えるな…。
考えたって…答えなんか出ない…。
いや…違う…答えを出すのが怖いだけだ…。
弱いな…。俺は…天野さんに嫌われたく無い…。
天野さんに怖がられたく無い…。
弱いな…弱い…。俺ってこんなに弱かったのか?
もっと…もっと強くなりたい…。
どんな事が起こっても…冷静なままで、居られる様に…。
しかし…此処は何処だ?考え事をしながら歩いてたら見た事の無い場所に出て来た。
やれやれ…。取り敢えず先ずは現在位置を確認しなくては…。
晶
『はあ…はあ…井上君!やっ…やっと…はあはあ見つけた…』
天野さんの声に、心臓が一瞬高鳴る。
彼女にバレ無い様に深呼吸し何時もの作り笑いを顔に張り付け振り返る。
総一郎
『そんなに、慌てて…。どうしたんですか?』
僕の問いに、天野さんは余程急いで居たのか?
珍しく息が、絶え絶えで僕は取り敢えず天野さんが落ち着くまで待つ事にした。
少しして天野さんの息が整ったのを確認して…。
総一郎
『どうしたんですか?』
そう聞くと、天野さんは何故か赤面し俯く。
僕は、そんな天野さんを見て首を傾げた。
僕的には天野さんと二人っきりは避けたい。
総一郎
『あのぅ…。天野さん?悪いんですけど、用事があるんで失礼します…』
それだけ言うと僕は足早に、天野さんの横を通り過ぎ天野さんの側から、離れた。
晶
『井上君!待って!』
天野さんの…。これまた珍しく焦った様な声を、聞いて振り返りたい衝動を全力で捩伏せて早歩きから猛ダッシュで、天野さんから逃げた。
彼女の声が遠ざかるのを聞きながら僕は心の中で謝る。
此処から晶視点に変わります。
私は走り去った井上君を茫然と見送った。
晶
『井上君…どうして?』
どうして私を避けるの?私、井上君の気に触る様な事した?
遠ざかる井上君の背中に呟く。
好きな人に、避けられて居ると云う事実が、私の心を打ちのめす。
私は余りの辛さに、しゃがみ込み涙を堪える。
晶
『井上君…井上君…井上君…』
私は溢れんばかりの愛しさを込めて井上君の名前を呼ぶ…。
例え…貴方が人殺しだとしても私の気持ちは変わらない。
驚かなかったと、言えば嘘になる…。
だけど…。井上君が好き好んで戦闘員や怪人達を倒して来た訳じゃ無い事位は分かる。
貴方の気持ちが分かると軽々しく言うつもりは、無い。
その人の痛みや悲しみはその人以外に分かる筈が無いから…。
だけど…。理解したいと思う。
井上君の悲しみや苦しみを分けて貰いたい。
そう思うのは悪い事?
例え…貴方を愛する事が罪だとしても…。
私は、貴方を愛しています…。
貴方を知る度にどんどん好きになってゆく…。
怖い位に井上君への思いが急速に高まって行くのを実感した…。
此処から総一郎視点に、変わります。
僕は天野さんから逃げた後、何とか自力で自分の部屋に向かった。
ダイヤルロックのドアを開けて、スーツを脱いでベットに、俯せになって倒れ込む。
何やってるんだ?俺は…自己嫌悪に苛まれ憂鬱な気分に苛まれる。
こんな気持ちのまま…。この先、どうすれば良いんだろう?
そんな事を、考えている内に何時の間にか眠ってしまった。
翌日、チェックアウトを済ませ山村さんの運転する車の中で僕は、学校を退学する事を決意した。
本来なら、中学校を卒業した時点で一人で生きて行こうと思っていた。
幸い?身体能力には自信が、あったし自分、一人位なら、生活するだけの蓄えが十二分にあったし日払いのバイトで、その日、その日を暮らす事は出来る。
冬休みの前日に退学しよう…。
そう心に決めて僕は窓の外を眺める。
そんな、僕を天野さんが悲しそうな表情で見ていた事に全く気付かずに、居た。
次回予告!の前に、ヒーロー!剣の名を持つ7人の英雄に、出て来る専門用語と各ヒーローの必殺技に付いてを書きます。それでは又…。