第16話・自覚した思い。
今回、自分の気持ちに気付いた総一郎が晶を追い掛けます。
メインは総一郎視点。
天野さんが部屋を飛び出した後、僕は呆然と立ち尽くした。
天野さんが、冷たい眼をして僕を見た時に、酷く悲しい気分になった。
何で、こんな気持ちになるんだよ?
訳が分からない…。
何で、こんなに罪悪感を感じるんだ?
血を吐いて倒れたから、エンジェルに助けて貰った事を言えば良かったのかな?
だけど…。そうなると、天野さんにソウルクリスタルが自分の命を、削るかも知れない事を話さなくては、ならない。
天野さんに言いたくないよ…そんな事を…。
知られたくないし、知る必要も無い。
天野さんに、心配させたくない…。
あれ?何で俺は天野さんに心配させたくない何て思うんだ?
友達だから?それとも…
まさか!そんな事なんかありえない。
認める訳にはいかない。こんな気持ちは…。
しかし否定しようとしてふと、天野さんの笑顔を思い出して僕はドキドキした。
クリムゾン・ヘッドとの戦いで天野さんが脳裏に浮かんだ時。
あの時、自分でも信じられない程、力が体の奥底から沸いて来た。
天野さんのお陰で負けずに済んだんだ。
眼を閉じて冷静に考えてみる。
天野さんを、どう思ってるんだ?
最初は無表情で何を考えて、居るのか分からない感じがした。
でもそれは直ぐに彼女が不器用なだけだと気付いたんだ。
俺は、人が近くに居ると眠たくても、寝れないし人が近付いてくると眼を覚ます。
なのに天野さんが近付いても、全く気付かないし近くに居ても眠れる。
そこまで考えて俺は笑ってしまった。
自分の馬鹿さ加減に…。
今更、気付くなんて馬鹿だよな…。
俺が普通の高校生だったら良かったのに…。
自分の気持ちに気付いたけど追い掛けるべきか?考えた。
俺は何時も死と隣り合わせの戦いを続けている。
正直、何時死んでもおかしくは無いのだ。
親しくして、自分の死を悲しむ人間を作らない様に今まで、誰とも深くは付き合わなかった。
追い掛けるべきじゃない自分の中の冷静な部分がそう告げる。
だけど…。それ以上に、追い掛けたいと思う。
でも、追い掛けてそれでどうすれば良いんだ?
本当の事を、話す訳にはいかない。
でも嘘や誤魔化しは言いたくない…。
それが俺の正直な気持ちだ。
追い掛けよう。呆れられるかも、知れないし笑われるかも、知れないが、自分の考えを話そう。
そう思い俺は第二図書室から出ると天野さんを探し始める。
でも俺は天野さんの事を殆ど知らない。
虱潰しに探すしかない…そう思い走り出した。
中庭も居ないし食堂にも居ない。
辺りは一般の人や生徒が沢山、居るからなかなか見つからない。
焦り始めた俺に…。
隆司
『お〜い!井上〜』
っと呼ばれて振り向くと田中が居た。
正直今はコイツと話して居る余裕も時間も無い。
隆司
『井上…。天野さんに、何かしたのか?』
そう言いながら田中は、俺に近寄る。
俺は内心、驚きながらも済まし顔で…。
総一郎
『何もしてないよ…』
隆司
『お前…。本当に何も、して無いのか?』
そう言いながら、田中は俺を睨む。
総一郎
『何もしてないよ』
隆司
『なら!何で、天野さんが泣いてたんだよ!』
田中に胸ぐらを掴まれてそう言われて、頭を鈍器か何かで、殴られた様な感覚に陥った。
天野さんが泣いてた?
一瞬、呆然とした。
しかし…直ぐに罪悪感で胸が痛んだ。
そんな俺の様子を、見て田中は、俺の胸ぐらを、放すと…。
隆司
『本当に、何もしてないんだな?』
総一郎
『当たり前だ…それよりお前さ…。天野さんが、何処に行ったか知ってるか?』
そう言うと…。
隆司
『追い掛けてどうする気だ?』
その問いに…。
総一郎
『それは…。天野さんに会って言う!』
っと、即答すると田中は笑い…。
隆司
『天野さんなら、屋上に居たぜ!』
屋上か…。そう思い俺は走り出した。
走りながら俺は天野さんに何て言えば言いのか?
ずっと考えて居た。
俺は階段を駆け上がって扉を、開けると天野さんが居た。
総一郎
『天野さん!』
此処から晶視点に変わります。
私はドキ!っとした。
聞き間違える筈が、無い大切な人の声…。
私は、何とか平静を取り戻し振り向く。
井上君は、よっぽど急いで来たのか?
息切れを起こして居る。
何で追い掛けて来たの?
そう言いたかったけど、言えない。
晶
『何か用?』
私は、井上君を見る事が出来ず視線を、ずらして問うと、井上君は真剣な表情をして真っ直ぐ私を見つめる。
総一郎
『天野さん…。君に大事な話しがあるんだ…』
晶
『大事な話し?』
総一郎
『ああ…』
井上君は微かに頷き私の瞳を見つめる。
総一郎
『本当は誰にも言うつもりは、無かったんだ…。だけど君にだけは話しても良いと思ったんだ』
此処から総一郎視点に、変わります。
ただ、少し怖くもある。
怖がられるかも知れない嫌われるかも知れない。
総一郎
『俺は…』
此処から晶視点に変わります。
っとそこで井上君は言葉を止めると溜め息を一つ零して無言で扉に近付き開けるとそこに田中君と一之瀬さんが居た。
此処から深雪視点に変わります。
総一郎
『何か言い逃れが、あるなら聞くよ?』
口調こそ優しいけど…。総一郎が怒って居るのが分かり私は背中に冷たい汗が、流れるのを感じて乾いた笑みを、浮かべるしかなかった。
隣りに居る田中君も私と同じ気持ちだと思う。
総一郎は、何時も笑って居るから忘れがちだけど総一郎を怒らせると普段が、普段だけに、かなり怖い。
総一郎
『大方、田中に唆されたんだろ?』
っと言われ私は、ギクリとした。
そんな反応に、総一郎は微かに眉を顰める。
総一郎
『田中〜!』
っと腹の底から響く声を出して田中君に近寄る。
隆司
『ゴメン!』
っと言って走り去り…。
総一郎
『待ちやがれ!』
っと鬼の様な形相で田中君を追い掛けて行った。
此処から総一郎視点に、変わります。
俺は田中を追い掛けながら内心、ホッとして居る自分に気付いた。
やはり俺が人殺しである事も、ソウルクリスタルが自分の命を、削るかも知れない事も言わない方が良いのかも知れない。
そしてこの思いも…。
ゼノンに正体がバレたら奴等は、必ず皆に危害を加えるだろう。
それだけは避けなくてはならない。
大切な人を、二度と失いたくない。
だから…。俺は命を掛けて戦おう…。
この手を、血で染めても守り抜く!
嫌われても、憎まれても怖がられても、それでも構わない。
皆を守れるのならば俺は何を失っても構わない。
それが、俺の覚悟と決意でもある。
尤も、他人に自分の覚悟や決意をペラペラと喋る気は無い。
他人に自分の覚悟や決意を喋ったら薄っぺらく、感じるから…。
男は、決意や覚悟は胸の内に秘めておけば良い。
これは、父さんの請売りだがその通りだと思う。
俺は田中を追い掛けながら、そう思って居た。
本当は総一郎が晶に真実を語っても良かったのですが総一郎は、父親が、死んだ時から、大切な人が傷付いたり失う事を極端に恐れて居る為、真実を話す事が、出来なかったのです。
まあ、普通に知り合いに、自分は『人殺し』だと告白されたら引きますよね?
総一郎は、自分の気持ちに気付いたけど、だから尚更好きな人に、そんな事を、話したくないと言う思いを伝えたくて、こういう形にしました。
次は、登場人物の、全プロフィールを、書こうと思います。
それでは、また…。