エナの独白
「ねぇ、セナ」
ぶぉん、と竹刀を振り下ろしながらわたしは言う。
「? なに?」
セナは不思議そうに首を傾げる。父がいないとはいえ、道場内で話しかけたことはなかったからだろうか。セナも竹刀を振る腕は止めずに返事をくれる。まだまだ始めたばかりだからか、セナの竹刀はすぐにぶれてしまって、姿勢を直そうとする様子が見なくてもわかる。
「ううん、なんでもない」
「……そう?」
結局、何を言うつもりだったのかは忘れてしまった。忘れたのではなく、言いたくなかったのかもしれない。どちらにしてもわたしが何を言おうとしていたのか、セナが知ることはないことに変わりはない。
セナの腕はまだまだ未熟だ。もう少し大きくなれば冒険者や傭兵、戦士や騎士として活躍することができるだろうし、ルクレールの家に生まれた者にとってそれは何事にも代えがたい名誉であるはずだ。
だけどセナにはまだまだ修行が足りない。声をかけられたくらいで剣筋を乱してしまうなんてその証左だ。父、ギー・ルクレールがそれを見たならば怒りだしてしまうだろう。だから声をかけるときは、父がいない時にしようと決めていた。セナが怒られてしまわないように。
……嘘だ。
わたしは言おうとしていたことを父に聞かれたくなかった。それだけだった。
だから忘れてしまったなんて言うのも嘘だ。結局わたしには言う勇気がなかったのだ。言う勇気がないから、これからも言うことはないだろう。これから、なんて長くはないだろうけど。
そう、わたしはきっと明日、死ぬ。
願わくばセナが、わたしの可愛い双子の弟が。わたしと同じ病で死んだりしないことを。




