白藤の花。
「遠いなぁ」
私は、バスの窓から海を眺めながら言った。このバスにのってかれこれ3時間もたっている。
「ははは」
おばあちゃんは、穏やかに笑った。
「おばあちゃんが住んでるのは、すごい田舎だからねぇ。交通手段もすくないし。なぁに、あと30分くらいでつくよ。飴ちゃんいるかい?」
私は首を横にふった。
「いらないのかい?一花ちゃんが、好きだったイチゴ味もあるよ?」
イチゴ味か…。小さいころよく、おばあちゃんがくれたんだっけ。
私はおばあちゃんの手元を見た。
懐かしい、サクマ式ドロップスの缶。それから目線をおばあちゃんの顔のほうへもっていくと、おばあちゃんと目が合った。
おばあちゃんはにこり、と笑うと、私の左手をつかんで、その上にほんのりとピンク色のドロップスをのせた。
「はい、どうぞ」
昔と変わらないその口調は嫌ってほどに優しかった。
「…ありがとう」
「さぁ、ついたついた、ここがおばあちゃんの家だよぉ」
おばあちゃんは、バスから降りるなり、ひざをぱんぱんと払ってそう言った。驚いたことにおばあちゃんの花屋、「街角の花屋さん」はバス停の目の前にあった。
「まだ部屋の準備とかもできてないから、これから大掃除だ!」
おばあちゃんは楽しそうにそういうと、私の手を引っぱって花屋の中へと入った。
「うわー、いいにおい!」
思わず顔がほころんだ。
「どうだい?綺麗だろー」
おばあちゃんが、少し誇らしげにそう言った。
ここは、花屋の店舗。色とりどりの季節の花達が並んでいる。
部屋は、淡い青色の壁に、フローリングの床、机やレジ、じょうろなどの小物までが緑色で統一されていて、うん、なかなかお洒落だ。
「一花の部屋は2階なんだ、さぁ、いこう」
おばあちゃんは、楽しそうに私を2階へと案内してくれた。
階段をのぼって、すぐ、右側の部屋。
ドアをあけると、お日様のいいにおいがした。
10畳ほどの部屋に、大きなベッドが1つおかれている。
それだけの少し寂しい部屋だったが、部屋の南側の壁一面が窓になっていて、日当たりは最高だった。
私は、部屋の左側の壁に、小さな絵がかけてあることにきがついた。
綺麗な白い花のトンネル、そのトンネルの下で一緒に歩いている女の人と男の人。
「素敵…」
思わずそうつぶやいた。
「おや?さすが一花だねぇ。この絵は、死んだおじいちゃんが書いたんだよ。モデルは一花のお父さんとお母さん。」
「この、トンネルみたいになってる花は?」
おばあちゃんは、にっこりと笑ってこういった。
「これかい?これは、白藤という花だよ。花言葉は”あなたを歓迎します”」
おばあちゃんは、静かに目を伏せた。
「一花、おばあちゃんの家までよくきたねぇ」
「…うん」
いったい何年ぶりだろう。
目から涙がこぼれ落ちた。
私のことを歓迎してくれる、
大切な人がここに居た。