表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

白藤の花。

 「遠いなぁ」

私は、バスの窓から海を眺めながら言った。このバスにのってかれこれ3時間もたっている。

「ははは」

おばあちゃんは、穏やかに笑った。

「おばあちゃんが住んでるのは、すごい田舎だからねぇ。交通手段もすくないし。なぁに、あと30分くらいでつくよ。飴ちゃんいるかい?」

私は首を横にふった。

「いらないのかい?一花ちゃんが、好きだったイチゴ味もあるよ?」

イチゴ味か…。小さいころよく、おばあちゃんがくれたんだっけ。

私はおばあちゃんの手元を見た。

懐かしい、サクマ式ドロップスの缶。それから目線をおばあちゃんの顔のほうへもっていくと、おばあちゃんと目が合った。

おばあちゃんはにこり、と笑うと、私の左手をつかんで、その上にほんのりとピンク色のドロップスをのせた。

「はい、どうぞ」

昔と変わらないその口調は嫌ってほどに優しかった。

「…ありがとう」




「さぁ、ついたついた、ここがおばあちゃんの家だよぉ」

おばあちゃんは、バスから降りるなり、ひざをぱんぱんと払ってそう言った。驚いたことにおばあちゃんの花屋、「街角の花屋さん」はバス停の目の前にあった。

「まだ部屋の準備とかもできてないから、これから大掃除だ!」

おばあちゃんは楽しそうにそういうと、私の手を引っぱって花屋の中へと入った。





「うわー、いいにおい!」

思わず顔がほころんだ。

「どうだい?綺麗だろー」

おばあちゃんが、少し誇らしげにそう言った。

ここは、花屋の店舗。色とりどりの季節の花達が並んでいる。

部屋は、淡い青色の壁に、フローリングの床、机やレジ、じょうろなどの小物までが緑色で統一されていて、うん、なかなかお洒落だ。

「一花の部屋は2階なんだ、さぁ、いこう」

おばあちゃんは、楽しそうに私を2階へと案内してくれた。

階段をのぼって、すぐ、右側の部屋。

ドアをあけると、お日様のいいにおいがした。

10畳ほどの部屋に、大きなベッドが1つおかれている。

それだけの少し寂しい部屋だったが、部屋の南側の壁一面が窓になっていて、日当たりは最高だった。

私は、部屋の左側の壁に、小さな絵がかけてあることにきがついた。

綺麗な白い花のトンネル、そのトンネルの下で一緒に歩いている女の人と男の人。

「素敵…」

思わずそうつぶやいた。

「おや?さすが一花だねぇ。この絵は、死んだおじいちゃんが書いたんだよ。モデルは一花のお父さんとお母さん。」

「この、トンネルみたいになってる花は?」

おばあちゃんは、にっこりと笑ってこういった。

「これかい?これは、白藤という花だよ。花言葉は”あなたを歓迎します”」

おばあちゃんは、静かに目を伏せた。

「一花、おばあちゃんの家までよくきたねぇ」

「…うん」


いったい何年ぶりだろう。

目から涙がこぼれ落ちた。

私のことを歓迎してくれる、

大切な人がここに居た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ