いつもどおり。
何一つ物音も立てず、日本は、今日を迎えた。
私は、その様子をマンションの自分の部屋の窓から眺めていた。
今日は、雲ひとつないきれいな空だ。
そうつぶやき、すこしだけ笑ってみる。
今日、6月5日は私の誕生日。
今日で、終わりだ。
寝坊した。
そんなことを考える暇もなく、私はベッドを飛び出した。クローゼットのはじっこにかけてある、セーラー服に袖を通す。腰まである髪を2つに結わえて、歯ブラシをくわえる。
「急がないと…」
時計を見ると、短針はもう8の数字をとおりこしている。間違いない。遅刻だ。私は小さくため息をついた。
「やっぱり、ついてないな……。」
そんなことを言って、歯を磨くスピードを遅くした。
今日は、私、山内一花の16回目の誕生日。1年で1番悪い日だ。戸棚の上の写真たてをなでる。いってきます。その言葉は今日も言えなかった。
玄関へ向かい、引き出しからカッターナイフを3本とりだす。それを鞄に入れて、私は学校指定のローファーに足を入れた。
私の通う学校はマンションから歩いてすぐのところにある公立高校だ。家を出て、右の方へとゆっくり歩いていく。大通りに出て、少し歩いて、信号をわたればすぐだ。
学校に近づくにつれて、だんだん私の足は重くなる。息が苦しくなる。今すぐ逃げ出してしまいたくなる。
私の足は、校門の前でぴたりと止まってしまった。
「大丈夫、今日で終わりだ。」
独り言をいって、速まった息を整える。
校門を通り抜け、校内に入ると、生活指導の先生が居た。
「山内、お前みたいな優秀な生徒も、遅刻をすることがあるんだな」
「あぁ、大塚先生、すいません」
「もう、朝礼は始まっているぞ?いいから、早く行きなさい」
「はい。すいません」
壁によしかかって腕を組んだ大塚先生の横をとおり、階段を1段1段あがっていく。
いつもどおり階段の段数を数えると、4回までで87段だった。
昨日と変わらない。まぁ、あたりまえか。
教室の扉の前で深呼吸をする。 なるべく音が立たないように、扉を開いた。
見慣れた教室の光景。クラスメイト達の目が一瞬で自分の方を向いた。みんながヒソヒソとしゃべりあっている。
担任の宮滝先生が私に声をかける。
「おおー、イチカ、ずいぶん遅かったなー」
「…すいません」
静かにそういって、私は自分の席に着いた。
静かな教室の中で、鞄の中身を片付ける。
いつもどおりだ。いつもどおり。
みんな、いつもと何も変わらない。
でも、私は、今日、変わるんだ。
初めての投稿作品です。
作品と呼べるようなものではないですが、
これからの話の進展をご期待していただけると幸いです。