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3 〜 襲撃 〜 前編

アスメリアの案内でエルフの集落にたどり着いた奏とアリシア。

二人はアリシアを歓迎するエルフたちの視線を受けながら、

まずは村長へと挨拶をするのだが・・・

 エルフたちの暮らしは自然との共存で成り立っている。

 極力、その場所の自然を壊さないように家屋を建てるのが彼らのやり方だ。

 何百年と育った大木を家屋の屋台骨とし、ソレを囲うように家を形成していく。

 形としてはモンゴルの伝統家屋であるゲルに近い形状だ。

「七十数年ぶりですが、あまり変わらないようで安心します」

「この自然を守り、共に生きることこそが、私たちの使命ですので」

「見事なもんだ。いつか家に帰ったらセーフハウスとしていくつか作ってみるか」

 僅かばかり殺気を含んだ視線が向けられるが、それには気付かなかったことにする。

「長たちは変わりないですか?」

「はい。魔女様が来ることを察して、既にお待ちしているはずです」

「それでは先に挨拶をしておきましょうか」

「分かりました。それではこちらへ」

 アスメリアに先導されて、奏たちは集落の中を進んでいく。

 アリシアが歩を進める度に、エルフたちが姿を現し、彼女に恭しく首を垂れる。

「お前、本当にちゃんとした魔女してたんだな……」

「奏は私を一体どう思っていたんですか?」

「言って良いのか、それ?」

「ダメに決まってるじゃないですか」

 どうやら彼女にも一応、見栄というモノがあるらしい。

「それにしても――」

 ここまで露骨に態度を変えられるモノなのかと奏は感心する。

 恩人であるアリシアの従者ともなれば、多少はマシな歓待を受けられるかもとも思っていた。

 だが、そんな期待を彼等は完膚なきまでに打ち崩してくれる。

 アリシアに向けられるのは感謝や敬意といったモノ。

 対して奏に向けられるのは侮蔑や敵意のソレである。

 それは奏にとって慣れ親しんだモノ。

 ある意味では少しばかり懐かしささえ感じるくらいだ。

 きっとそれらには先遣隊を返り討ちにしたという分も含まれているのかもしれない。

「まだまだ先は長いな……」

 まだ奏たちはこの集落に来たばかりだ。

 彼等との和解を諦めるのは少し早いだろう。

 現にそれを体現して見せている人物がすぐ目の前を歩いているのだから。

 ひとまずは様子見だな――

 何をするにしても、現状では情報が足らない。

 まずは情報収集に徹するべきだろう。

 現状で分かっていることはあまりにも少ない。

「なぁ、アリシア――」

「なんですか、奏?」

「なんでエルフってそんな人間のことが嫌いなんだ?」

 エルフが人間嫌いであることは有名だ。

 しかし、その理由について、奏は明確に知らなかった。

 そして、おそらく普通に暮らしている人々の多くがその原因を理解していないだろう。

「そうですね……」

 アリシアが僅かばかりの思案を見せる。

 それは話すかどうか、ではなく、どこから話すかの思案。

「今のこの世界は二つの世界が融合した結果だということは知っていますよね?」

 魔術が技術として定着したのが約六四〇年前。

 そして、そうなる少し前、前触れなく異世界が地球と融合した。

 それは避難だった。

 当時、異世界は崩壊の危機に晒されていた。

 救世の手立ては皆無。

 そこに生きる全生命が窮地に立たされていた。

「そこで最後の手段として実施されたのが地球への『転移魔術』です」

 それも極めて大規模な。

 当時の異世界に現存する生命を限界ギリギリまで同時に転移させたその魔術は、種族問わず現存するその星の全魔術師によって執り行われた。

 結果、地球には突如として大量の様々な人種と大陸が出現することとなった。

 それにより、地球の海と陸の割合は七対三から四対六へと逆転したのはあまりにも有名な話。

「当時はそれはもう大騒ぎですよ。何せいきなり知らない大陸が出現した上に、大量の見知らぬ人種がセットで付いてきたんですから」

 相当な騒ぎになったのだろうことは想像するに容易い。

 それこそ問題は山のように定義されたことだろう。

 領土や資源はどうするのか。

 人々はどこの所属となるのか。

 人権は――

 国籍のない人々、人権。

 考え方によってはないと定義されてもおかしくはない話だ。

 奴隷制度の復活があってもおかしくはなかったはず。

 実際、奴隷問題は現代における国際課題の一つでもある。

 当時、国籍を持たなかった異世界人たちの子孫は、今でも一部の権力者たちの奴隷として扱われていると聞く。

「そして、その格好の標的となったのが、まさしくエルフたちです」

 エルフ族は総じて見た目に優れた者たちが多い。

「この問題において、もっとも愚かな点は、それを『彼等』も黙認したということです」

 彼等、とはまさしく異世界から訪れた人々のことだ。

 ただし、エルフ族以外の――

「これにより、エルフたちは故郷の土地を追われました」

 方々に散り散りとなり、エルフたちは元地球の土地である人の寄りつかない大森林や樹海へと逃げ延びたのである。

「この富士樹海もその避難場所の一つ」

 そして、それを世話したのが他でもないアリシアだった。

 それはエルフたちも恩義を感じるわけである。

 そして、そんなエルフたちが人を嫌いになる理由も。

 これはなかなか解くのが大変な結び目になりそうだ。

 まさしくアリシアの存在はエルフたちにとって、例外中の例外。

 話を聞けば何か参考になるかもと思ったが、むしろ全く参考にならないことだけが分かった。

 かつて幾度となく晒されたソレに近いとはいえ、慣れるでも、気持ち良いモノでもない。

「お待たせしました、魔女様――」

 到着したのは村の中でも一際立派な大樹を軸とした家だった。

「どうぞ、魔女様」

「ありがとう」

 アスメリアが上げた大布をアリシアに続いて潜る。

 中は少し薄暗く、四箇所に置かれたランプが灯りとなり一つの人影を浮かび上がらせていた。

「ご無沙汰しております、魔女様」

「息災ですか、ベルガモット」

 この村に辿り着いてから出会ったエルフたちは皆、外見が若く見えたが、ベルガモットと呼ばれたこのエルフはきちんと老齢の外見をしていた。

 長い白髪は艶もなく波打っていて、同じ長く蓄えられたヒゲも真っ白だ。

 そして、暗がりの奥からもう一人。

「こんな遠いところまでようこそおいでくださいました、魔女様」

「カルデナ、久しいですね」

 ベルガモットと近い容姿をした老齢のエルフではあるが、彼女は彼と違って、柔らかい雰囲気を携えていた。

 いるだけで緊張感のあった空気が一気に緩む。

 纏う空気は奏の母である唄に少し似ているかもしれない。

「まさか数十年ぶりに会う魔女様が、旦那様を連れてくるとは思いませんでしたよ」

「これでも、私もモテるんですよ?」

「引き篭もるのが趣味だとおっしゃってたではありませんか」

「ふふ、私も成長したのです」

「おやまあ、それは私たちも年を取るはずですね」

 和やかな団欒にアリシアも思わず表情を崩す。

 どうやら二人は元々かなり仲が良いらしい。

「紹介しますね、奏。向こうで怖そうな顔であなたを睨んでいるのがこの集落の長を務めるベルガモットです。見た目通りの人物なので、気を悪くしないでください。ただの頑固ジジイです。そして、彼女はベルガモットの奥方であるカルデナです。私とは、お茶友達ですね。近所に一人はいて欲しいお婆ちゃんです。こう見えて、魔術はもちろん、近接戦闘でも随一の腕前なんですよ」

「へぇ、それは凄い」

 改めてカルデナに視線を向けると、確かに彼女の立ち姿は武道の道にも通じるモノを感じさせた。

 リラックスした自然体で隙がない。

 エルフの中でも高齢であるようだが、かなりの実力者なのは間違いない。

 油断しないように気を引き締めなければ。

「いやですよ、魔女様。そんな昔のこと持ち出されても」

「ふふ。それでも、村の若者たちにまだまだ負けるつもりはないのでしょう?」

「ふふ。それはまぁ、ねぇ?」

「「ふふふふふ――」」

 謙遜しつつも、否定はしない。

 アリシアのお墨付きともなれば相当なモノだろう。

「それで、こちらの魔女様のお相手はどちら様なのでしょう?」

「ご挨拶が遅れて申し訳ない。忍霧 奏といいます」

 カルデナに促されて、奏は深く丁寧に頭を下げた。

 まるで彼女の家に初めて訪れた彼氏のようだと思う。

 アリシアは長命の魔女であり、そして長老夫婦はそんな彼女よりも長生きしている希少な存在だ。

 彼等から見ればまだ僅か十数年しか生きていない人間の奏は赤子同然。次点のアスメリアでさえ、奏よりも五十位上も年上だ。

 年齢についての感覚がおかしくなりそうだが、深く考えないようにしよう。

 人間にとっての一年と、エルフにとっての一年はまた重みが違う。

 その分、エルフたちの生活は少しばかり浮世離れしているとも言われている。

 実際、深い大森林に暮らす彼等は人間のようにせかせかとは生きてはいないのだろう。

 それこそが彼等が望み、重んじる生き方なのだから。

「魔女様は少年趣味だったのですねぇ」

 しみじみとカルデナが感慨深そうに腕を組む。

「やめて下さいよ、エルフ感覚で考えるのは。それに実年齢だけで見られては否定できないので困ります」

 確かに、エルフ年だけで見れば、奏の年齢は赤子がようやく自我を持ち始めたくらいなのかもしれない。

 ただ、それを口に出すのは酒の席くらいにしておいて欲しい。

「そうだな。それにそんな子供に、ご自慢の先遣隊がやられてるようじゃ先が思いやられる」

「ふふ、確かに。それはそうですねぇ。私もまだまだです」

 意図を察してくれたようで、カルデナは小さく頭を下げる。

 軽い冗談のつもりでも琴線に触れることはある。

 それこそ文化が違うのだからそんなことは幾らでも起こり得る。

「それで魔女様、此度はいかような御用向きで?」

 ベルガモットが咳払いをして、話を強引に本筋に戻す。

「あぁ、そうでした。忘れるところでした」

 肝心の奏自身も、まだこの富士樹海を訪問した目的を聞いていなかった。

「ベルガモット、カルデナ、あなたたちには大変申し訳ないのですが、私が預けていた物を返して頂きたいのです」

「アレを、でございますか……」

「えぇ――」

 少しばかり室内の空気が張り詰める。

 それだけのモノを、アリシアはエルフたちに預けていたということになる。

「勝手を言って申し訳ないのですが。もちろん、代わりの結界は改めて張り直しましょう」

「それは、ありがとうございます」

 だが、それよりもアリシアのお願いに、かなりの動揺を見せているベルガモットのことが気になった。

 先ほどまでアリシアと団欒を楽しんでいたカルデナも、少しばかりバツの悪そうな顔をしている。

 重くなった空気をアリシアも察する。

 彼女自身、二人のこの反応は想定外だったらしい。

「何があったのですか?」

 それは疑問ではなく、説明を求める言葉だった。

 アリシア自身もエルフたちに何かが起こっているのを理解している。

「それが――」

 ベルガモットが口を開いたその瞬間、外から喧騒が緊迫した空気を叩き割った。

「て、敵襲! 魔物だッ!」

「魔物――?」

 魔獣ではなく、魔物。

 声は確かに、そう告げた。

 その意味にもっとも驚いたのはエルフたちではなく、アリシアだった。

「なぜ、魔物が? 結界は作用しているのに、どうして?」

 彼女の言葉から推察するに、その結界のおかげで、集落に魔物が襲撃してくることはないのだろう。

 何かしらのイレギュラーという可能性も否定はできないが、それにしては外の喧騒が大きすぎる。

「長、カルデナ様、皆の避難をお願いします」

「気をつけてね、アスメリアちゃん」

 冷静を保とうとしているアスメリアの様子から、この事態が一度ではないことは明らかだった。

「オレも行く。アリシアはこいつらと一緒にいろ」

「分かりました。気をつけてくださいね、奏」

「そっちもな」

 互いに気遣いつつも、万が一があるとは思っていない。

 突いた薮から蛇が飛び出してきたとしても、それを〆てしまえば何も問題ない。

 外に出ると、既に魔物は村のあちこちに侵入してしまっていた。

 喧騒はそこかしこから聞こえてくる。

「これはなかなか……」

 自然との共存を謳っているとはいえ、エルフたちの警戒網はザルではない。

 見張りだって立てていたし、やろうと思えば精霊を使役して集落エリアを巡回させることだって可能だろう。

 にもかかわらず、村には大量の魔物が入り込んでいた。

 状況だけ見れば明らかに異常事態だった。

「おい、アスメリア」

「なんだ!」

 焦りと怒りが混同しているのが手に取るように分かる。

 どうにか冷静に返事を返しているのは目の前の状況あってのことだろう。

「集落はだいたいどれくらいの広さだ?」

「そんなことを聞いてどうする?」

「良いからさっさと答えろ。時間が惜しい」

 まだこの集落に訪れてから経過した時間はごく僅か。

 それでも目の前の惨事を放置できるほど、奏は能天気ではない。

「だいたい、ここを中心に二キロあるかどうかくらいだろう……」

「分かった――」

 聞くや否や、奏はその場から一瞬で姿を消した。

「な――」

 奏を見失ったアスメリアへ、上空から声を掛ける。

「お前はこの周辺に村人たちを避難させろ。この周辺ならアリシアが何とかするはずだ」

 言いながら、奏は腰に携えた短刀――姫守を抜き放つ。

 一閃――

 ひとまず近場で目についた魔物を一太刀の下に斬り捨てる。

 無数の木の蔓が絡まったような不気味な人型――トレントである。

 愛刀の姫守はガーゴイルですら一太刀で両断できる業物だ。

 トレントくらいであれば造作もない。

 とはいえ、風や森といった属性の魔法を得意とするエルフにとっては極めて相性が悪い相手でもあった。

 魔法の類が通じないとなれば、近接戦闘で処理するしかない。

 彼等にとってはデバフが掛かった状態で戦わされているようなモノだ。

 倒せないことはないだろうが、時間は掛かるだろう。

 魔物単体であればそれでも良い。

 しかし、今の状況はそれを許さない。

 確実かつ早急に。

 一撃離脱を繰り返し、魔物を駆除しながら、集落の状況を大木の上から確認する。

 次の目標を設定する中継点として、経由した方が良いだろう戦況があれば、そこに割って入る。

「長の家に走れ!」

 それだけを告げて、奏はどんどんと集落の外輪へと向かっていく。

 奏がこの役割を担った理由は二つ。

 一つは魔物を早急に殲滅しながら非戦闘員を救助できるのが自分だけあると判断したから。

 もし仮に、エルフたちが魔物の襲撃に慣れているのであれば、ここまでの騒動にはなっていないはずだ。

 しかし、騒動に対して、アスメリアどころか、長であるベルガモットやカルデナでさえ動揺を隠せていなかった。

 ここから導き出される結論は一つ、エルフたちは魔物からの襲撃に対してまだ万全の対策を練れていないということになる。

 それならば奏は遊撃として立ち回り、彼女たちの手が回っていない所から手を回した方が良い。

 そして、二つ目。

 どちらかと言えば、これが本題とも言える。

 それはアリシアの邪魔をしない為だ。

 彼女がいる場所は絶対的に信頼できる安全地帯として機能する。

 彼女が魔術を行使すれば、魔物の侵入を完全に拒絶する結界を形成できるはずだ。

 だが、そこにダッドトイである奏が帯同していては、邪魔にしかならないのだ。

 もしかしたら、奏がいることによって発動できない魔術があるかもしれない。

 故に、ここはアリシアと完全に別行動を取ることが最善策。

 一人でも多くのエルフを救出し、集落の中央に向かわせる。

 それが今、奏にできることだ。

 姫守が奏の意思を汲み取り、魔物を一撃で斬り捨てる。

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