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第8話 西納時 唯は、自分の能力を“仕方ない”と思っている

 最初に気づいたのは、

 幼いころだった。


 視線が集まる。

 声が変わる。

 距離が縮まる。


 理由は、分からなかった。


 ただ、

 みんなが優しくなる。


 それだけだった。


 西納時 唯は、

 自分が可愛いことを自覚していた。


 でも、

 それだけじゃないとも思っていた。


 可愛いだけなら、

 ここまでにはならない。


「……また、か」


 廊下で立ち止まり、

 小さく息を吐く。


 視線。

 熱。

 期待。


 慣れている。


 慣れすぎていた。


 告白は、ない。


 それが、

 普通だと思っていた。


 好きになっても、

 近づいてこない。


 大事そうにして、

 壊れ物みたいに扱って、

 結局、何もしない。


「……まあ、仕方ないよね」


 彼女は、

 そう結論づけてきた。


 能力がある。


 自分には、

 そういう“力”がある。


 それは、

 どうしようもない事実だ。


 アイドルを目指したのも、

 自然な流れだった。


 どうせ見られるなら、

 どうせ好かれるなら、

 それを仕事にしたほうがいい。


 夢というより、

 最適解。


「能力、使うなって言われてもさ」


 誰に言うでもなく、

 心の中で呟く。


「無理だよ」


 能力は、

 自動発動だ。


 オンも、

 オフもない。


 見られたら、終わり。


 だったら、

 割り切るしかない。


 これは才能。

 これは個性。

 これは、武器。


 そう思うことで、

 楽になれた。


 だから――

 彼だけが、異常だった。


 西納時 唯は、

 机に頬杖をつき、

 隣の席を見る。


 彼は、

 静かだった。


 見ているのに、

 踏み込んでこない。


 優しくもしない。

 媚びもしない。


「……変な人」


 最初は、

 そう思った。


 でも。


 少しずつ、

 気づく。


 彼の様子が、

 変わっている。


 授業中、

 ふとした瞬間。


 彼の表情が、

 苦しそうになる。


 視線を逸らす。

 呼吸が乱れる。


「……?」


 西納時 唯は、

 無意識に胸の奥がざわつく。


 それは、

 いつもの感覚じゃない。


 ――あ。


 気づいてしまった。


「……効いてる」


 小さく、

 心の中で呟く。


 今までの“好き”とは、

 違う。


 彼の反応は、

 正常すぎる。


 戸惑い。

 躊躇。

 罪悪感。


 どれも、

 今まで見たことがない。


「……そっか」


 西納時 唯は、

 静かに理解した。


 自分の能力は、

 恋をさせるだけじゃない。


 相手を“ちゃんと人間にする”。


 それが、

 どれほど残酷なことか。


 彼女は、

 深く考えなかった。


「……でも」


 唇に、

 小さな笑みが浮かぶ。


「仕方ないよね」


 だって、

 能力なんだから。


 自分が選んだわけじゃない。


 生まれつきだ。


 それに――

 彼は、逃げていない。


 壊れそうになりながら、

 席を立たない。


 距離を取らない。


 目を逸らしながらも、

 隣にいる。


「……変なの」


 そう思いながら、

 胸の奥が、少しだけ熱くなる。


 今まで、

 誰もここまで

 反応しなかった。


 大切にされるだけ。

 遠巻きにされるだけ。


 でも彼は、

 壊れながら、近くにいる。


「……面白いかも」


 その感情が、

 何なのか。


 彼女は、

 まだ言葉にしない。


 ただ一つ、

 確かなことがある。


 西納時 唯は、

 自分の能力を

 止めようとは思っていない。


 止める理由が、

 ないからだ。


 これは、

 才能だ。


 武器だ。


 そして――

 仕方ないこと。


 彼が壊れていくのなら。


 それは、

 能力のせい。


 自分のせいじゃない。


 そう、

 思っていた。


 ――この時は、まだ。

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