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第6話 超アイドル少女が転校してくる話

 帰国して三日後。


 俺は、

 いつも通り教室にいた。


 海外旅行の話を振られたが、

 観光地の写真を数枚見せて終わりだ。


 誰も、

 それ以上は興味を示さなかった。


 世界は、

 俺が思っているより鈍感だ。


「じゃあ、ホームルーム始めるぞ」


 担任が黒板の前に立つ。


 その声色が、

 少しだけ違った。


「今日は、転校生がいる」


 教室がざわつく。


 この時期の転校は珍しい。


「入ってきていいぞ」


 扉が、開いた。


 一瞬で、

 教室の空気が変わった。


 少女が立っていた。


 制服は同じ。

 年齢も同じ。


 なのに――

 存在感だけが、異常だった。


 視線を向けた瞬間、

 胸の奥が、微かにざわつく。


「……?」


 俺は、

 即座に違和感を覚えた。


 感情が、

 勝手に動こうとしている。


 それは、

 今まで一度もなかった感覚だ。


「自己紹介、お願い」


 担任に促され、

 少女は一歩前に出る。


 その動作一つで、

 教室の視線が集中する。


「はじめまして」


 柔らかい声。


「今日から、このクラスに転校してきました」


 一拍。


西納時にしのとき 唯です」


「……よろしくお願いします」


 それだけ。


 なのに。


 教室が、

 静まり返った。


 誰も、

 すぐに声を出せない。


 息を吸うのを、

 忘れたみたいに。


「……可愛くね?」


 誰かが、小さく呟く。


 それを皮切りに、

 ざわめきが広がる。


「いや、可愛いとかそういうレベル?」


「なんか……すごくない?」


「目、離せないんだけど」


 俺は、

 その様子を冷静に観察していた。


 ――分かる。


 これは、

 ただの人気者じゃない。


 能力だ。


 しかも、

 即効性が高すぎる。


 胸の奥の違和感が、

 少しずつ強くなる。


 理性が、

 押され始めている。


「……まずいな」


 小さく、呟く。


 今まで、

 どんな能力を見ても

 動かなかった感情が、

 勝手に反応している。


 西納時 唯は、

 空いている席に案内された。


 ――俺の、隣。


「……運が悪い」


 そう思った瞬間、

 視線が合った。


 彼女の瞳が、

 俺を捉える。


 ほんの一瞬。


 だが――

 致命的には十分な時間だった。


 胸が、

 きゅっと締めつけられる。


 頭の奥が、

 熱を持つ。


「……っ」


 反射的に、

 視線を逸らした。


 それでも、

 感情の流れは止まらない。


「……これ、恋か?」


 自問する。


 だが、

 答えは出ない。


 俺は今まで、

 誰かを好きになったことがない。


 だからこそ、

 はっきり分かる。


 これは、自然じゃない。


 ホームルームが終わる頃には、

 教室の空気は完全に変わっていた。


 西納時 唯の周りに、

 人が集まる。


 話しかける。

 笑う。

 緊張する。


 告白は、ない。


 誰一人、

 踏み込まない。


 それが、

 逆に異常だった。


「……強制恋愛型か」


 能力の分類を、

 頭の中で行う。


 見ただけで、

 恋情を発生させる。


 だが、

 行動を縛っている。


 呪いに近い。


 ふと、

 隣を見る。


 西納時 唯は、

 机に頬杖をつき、

 こちらを見ていた。


「ね」


 小さな声。


「あなた、平気そうだね」


 心臓が、

 一瞬だけ跳ねた。


「……そう見える?」


「うん」


 彼女は、

 どこか安心したように笑う。


「よかった」


「ここ、

 ちょっと大変だから」


 俺は、

 内心で警戒レベルを

 一段階引き上げた。


 自覚があるタイプだ。


 しかも、

 この能力を

 日常的に浴びている。


「……自己紹介、まだだったな」


「そうだね」


 西納時 唯は、

 にこりと微笑む。


「私は、西納時 唯」


「……よろしく」


 俺は、

 そう返すしかなかった。


 合理的な判断は、

 もう遅れている。


 この時点で、

 俺はまだ知らない。


 この少女が、

 世界を壊す存在ではなく――


 俺を壊す存在だということを。

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