第4話 海外で起きている“汚れ”に気づく
最初は、ニュースだった。
朝の情報番組で、
海外の映像が流れる。
「日本人留学生が誘拐され――」
「家族を人質に取り、
超能力薬の提供を要求する事件が――」
スタジオの空気は重い。
だが、
俺の感情は動かなかった。
「……なるほど」
歪みが、表に出てきただけだ。
能力が、日本人だけのものになった。
それは事実だ。
公平かどうかは、
どうでもいい。
設計として、区切りが悪い。
スマホを操作すると、
似たような記事が次々と出てくる。
留学生。
海外赴任者。
旅行者。
共通点は一つ。
――日本人。
誘拐の目的は、
金ではない。
要求されているのは、
薬超になる方法。
脅迫文には、
決まってこう書いてある。
「日本人だけが能力者なのは不公平だ」
「協力しなければ、家族がどうなるか分からない」
「……非効率だな」
思わず、そう口にした。
拉致。
脅迫。
人質。
どれも、
余計な工程だ。
日本政府が薬を独占しているのは、
偶然の結果だ。
意図的な差別じゃない。
だが、
世界は理由を気にしない。
結果だけを見る。
俺は、
ノートに簡単な図を書いた。
円の中心に、
「日本」。
外側に、
「その他」。
そこに、
矢印と×を描く。
「……汚れてる」
能力の有無で線が引かれ、
その線を越えるために、
人が傷つく。
美しくない。
判別機を作ったときと、
同じ感覚だった。
知らなかったから、
問題が起きる。
なら、
知ればいい。
ニュースは続く。
「この事件の背後には、
国際的な犯罪組織の関与が――」
組織。
つまり、
個人の問題じゃない。
「……掃除、必要だな」
口に出して、
自分でも驚かなかった。
もう、
その発想に慣れている。
もちろん、
正義感じゃない。
日本人を守りたい、
とかでもない。
ただ――
区切りが悪い。
能力者は、日本人。
それが前提なら、
前提を壊そうとする存在は、
消すべきだ。
それだけの話だ。
俺は、
パスポートを引き出しから取り出した。
以前、
修学旅行用に作ったものだ。
有効期限は、
まだ残っている。
「海外旅行、か」
理由としては、
十分だ。
学生が一人、
旅行に行く。
誰も、疑わない。
行き先は、
ニュースに出ていた国。
日本人誘拐事件が、
集中している地域。
裏で動いている
中心点が、
必ずある。
その夜。
俺は、
能力を使った。
作ったのは――
地図。
正確には、
「存在しないはずの関係図」。
事件と事件を、
線で結ぶ。
国境を越えて、
金と人の流れを可視化する。
「……ここか」
一点に、
すべてが収束していた。
拠点。
組織の心臓部。
息を吐く。
特に、緊張はない。
怖くもない。
ただ、
やるべき作業が
見えただけだ。
「終わらせよう」
誰に言うでもなく、
そう決めた。
掃除は、
長引くと余計に汚れる。
翌日。
俺は、
航空券を予約した。
目的欄には、
こう書かれている。
観光
嘘ではない。
世界を見に行く。
ただし――
汚れた部分だけを。
その時点では、
まだ知らなかった。
この海外旅行が、
取り返しのつかない一線になることを。




