第3話 能力判別機を量産したら、値段を百円にしてしまった
能力判別機は、便利だった。
一度使えば分かる。
自分の能力。
ランク。
条件。
それだけで、
世界の見え方が変わる。
だから当然、
使いたい人間は増えた。
「今日も貸してくれ」
「次、俺な」
「昼休みでいい?」
クラスだけで、
もう回らない。
待ち時間。
順番。
揉め事。
――非効率だ。
俺は帰宅すると、
机に向かった。
問題は単純だ。
一個しかないから、
奪い合いになる。
なら。
「増やせばいい」
それだけだった。
翌日、
俺は新しいものを生み出した。
能力判別機を作るための機械。
箱型。
動力なし。
材料不明。
判別機と同じく、
理論上は存在しない。
だが――
動く。
中から、
同じ性能の判別機が
一定間隔で吐き出される。
「……十分だな」
品質は均一。
誤差なし。
量産完了。
次は、
値段だ。
判別能力者に頼むと、
一回数十万。
だが、
その金額に合理的な根拠はない。
希少だから。
独占しているから。
それだけだ。
「じゃあ……百円でいいか」
特に深い意味はない。
ワンコイン。
ジュース一本分。
知る権利としては、
それくらいが妥当だと思った。
場所は駅前。
段ボール一枚。
マジックで書く。
能力わかります
一回 百円
露店というより、
ほぼ遊びだ。
「……は?」
「なにこれ」
「詐欺だろ」
最初は、
誰も信じなかった。
百円だ。
失敗しても痛くない。
冷やかし半分で、
一人が手を入れる。
数秒後。
その男は、
何も言わなくなった。
「……マジ?」
もう一度、
並び直す。
周囲が、ざわつく。
二人目。
三人目。
使った人間は、
全員、同じ反応をした。
――沈黙。
そして、
表情が変わる。
「条件……これか」
「だから、使えなかったのか」
「……俺、危なかったんだな」
理解が、
一気に進む。
人は、
自分のことを知りたがる。
行列が、できた。
学生。
社会人。
能力者。
能力不明者。
百円玉が、
トレイに積み上がる。
正直、
金はどうでもよかった。
その日の夜。
SNSに、
写真が上がった。
「駅前の百円能力判別、ガチ」
「条件まで出る」
「これやばくね?」
拡散は、
止まらなかった。
翌日。
判別能力者の予約が、
一斉にキャンセルされた。
研究機関が、
問い合わせを始めた。
でも、
記録が残らない。
誰が判別したか、
追えない。
市場が、壊れた。
値段という概念が、
一気に崩れる。
能力は、
特権じゃなくなった。
ただの情報になる。
「……やっぱり、きれいだ」
駅前の喧騒を見ながら、
俺はそう思った。
隠されていたものが、
全部、表に出ただけだ。
それで困るなら、
最初から歪んでいたということだ。
列の中で、
泣いている人間もいた。
怒鳴る人間もいた。
それでも、
列は途切れない。
俺は、
次のことを考えていた。
「日本だけ、っていうのも……」
能力は、日本人だけ。
それは、
偶然の結果だ。
だが、
世界はそれを許さない。
不公平だと、
誰かが言い出す。
奪おうとする。
脅す。
拉致する。
――汚い。
「区切りが悪いな」
そう思った。
まだ、
掃除は終わっていない。
百円玉を袋に入れ、
露店を片付ける。
今日は、ここまで。
だが――
世界は、もう動き出していた。




