第2話 能力判別機を作ったら、クラスが壊れた
教室の空気は、いつも曖昧だった。
能力者がいる。
でも、どんな能力かは分からない。
強いと言われているやつもいれば、
本人が「たぶん当たり」と言っているだけのやつもいる。
逆に、何も言わないやつほど、
妙に警戒されていたりする。
――バランスが悪い。
それが俺の率直な感想だった。
能力があるなら、
分かっているべきだ。
分からないまま振る舞うから、
虚勢や誤解が生まれる。
教室の中央で、
能力の話題が飛び交っているのを横目に、
俺は席に座ったまま考えていた。
感情は、特に動かない。
ただ、
非効率だなと思っただけだ。
放課後。
誰もいなくなった教室で、
俺は一人、机に手を置いた。
「……判別能力者は、高すぎる」
一回数十万。
しかも予約制。
能力が一般化した社会で、
判別だけが特権になっているのは、歪だ。
なら。
「作ればいいか」
迷いはなかった。
理論上、存在しないものを生み出せる。
それが俺の能力だ。
判別できる装置も、
理論上は存在しない。
――条件は、揃っている。
目の前に、
黒い箱が現れた。
サイズは弁当箱くらい。
電源コードはない。
スイッチも、表示も、説明書もない。
でも、
それが機械だと、直感的に分かった。
触れた本人にだけ、
能力情報が分かる。
他人には見えない。
記録も残らない。
そういう仕様だ。
「……悪くない」
俺はそう評価した。
翌日。
昼休みの教室で、
一人のクラスメイトに声をかけた。
「能力、知りたくない?」
軽いノリだった。
「え、マジで?」
そいつは笑いながら、
箱に手を入れた。
数秒。
――表情が、固まった。
「……え?」
笑顔が消える。
「なに、どうした?」
「いや、その……」
言葉を濁す。
「Cランク……条件付きって……」
周囲が、ざわついた。
「お前、Aだって言ってなかった?」
「条件付きって何?」
「雑魚じゃね?」
空気が、少しだけ冷える。
「じゃあ俺も」
次のやつが手を入れる。
「Bランクか……」
「微妙だな」
「条件きつくね?」
次。
「……A?」
「マジで?」
「お前、そんな強かったのかよ」
声が大きくなる。
視線が集まる。
教室の中で、
何かが書き換えられていく感覚があった。
序列。
それまで曖昧だったものが、
一気に可視化されていく。
誰が上で、
誰が下か。
誰が危険で、
誰が無害か。
笑い声が、
嘲りに変わる。
沈黙が、
恐怖に変わる。
「やめろよ!」
誰かが怒鳴った。
「そんなの、知る必要ないだろ!」
「知りたいって言ったのは自分だろ?」
「能力社会なんだから、当たり前じゃん」
正論と感情が、
ぶつかる。
泣き出すやつも出た。
机を叩く音が、
教室に響く。
俺は、
少し離れた場所でそれを見ていた。
止める理由は、なかった。
煽ってもいない。
強制もしていない。
ただ、
分からなかったものが、分かるようになっただけだ。
「……前より、きれいだな」
思わず、そう思った。
嘘がなくなった。
誤魔化しが消えた。
残酷ではあるが、
整理はされている。
世界は、
こうやって動くものだ。
教師が慌てて入ってきたとき、
教室はほぼ崩壊していた。
「何があった!」
誰も、
うまく説明できない。
俺は、箱をカバンにしまった。
帰り道。
夕焼けの中で、
ふと考える。
「一個しかないのは……非効率だな」
判別したい人間は、
山ほどいる。
順番待ちは、無駄だ。
もっと、
簡単で、安くて、
行き渡る形がいい。
そのときはまだ、
それが
市場を壊す発想だとは思っていなかった。
ただ――
きれいにしたかっただけだ。




