第1話 薬超ガチャと、能力不明の俺
日本政府が超能力を独占している世界だ。
正確には、超能力を発現させる薬を、だ。
偶然発明されたその薬は、
一人につき一能力、完全ランダム。
当たりもあれば、外れもある。
強すぎて制御不能なものもあれば、
日常で使い道のないゴミ能力もある。
だから皆、こう呼んでいる。
――薬超ガチャ。
俺がその薬を飲んだのは、小学生の頃だった。
「将来のためよ」
親はそう言った。
別に反対はしなかった。
どうせ、運の問題だ。
だが結果は――最悪だった。
「能力は?」
役所の人間に聞かれたとき、
俺は首を振るしかなかった。
「……分かりません」
火も出ない。
空も飛べない。
体が強くなるわけでもない。
判別能力者に頼めば分かるらしいが、
その費用は数十万円。
当然、無理だ。
そうして俺は、
能力不明の薬超として放置された。
クラスの半分は能力者。
そのまた半分は、自分の能力を把握していない。
バランスが悪い社会だと思ったが、
特に何も感じなかった。
俺は昔から、
そういう人間だった。
転機は、高校一年の春。
理由は、どうでもいい。
ただ、
ふと思っただけだ。
「……実験してみるか」
夜。
机に向かい、紙とはがきを用意する。
そして、ペンを取った。
『これは、一日前の俺へ』
普通なら不可能だ。
時間は戻らない。
でも、
理論上存在しないものを生み出せるなら?
翌朝。
目が覚めると、
枕元に一枚のはがきが落ちていた。
『成功している。
能力は――』
そこまで読んだ瞬間、
はがきは、すうっと消えた。
燃えたわけでも、破れたわけでもない。
最初から、
存在しなかったみたいに。
「……なるほど」
冷静に、理解する。
未来は分岐していない。
上書きされた。
だから媒介は消えた。
その日の朝、
俺は家を出るのが遅れた。
「やば……」
遅刻は面倒だ。
合理的じゃない。
だから、次は――
もっと分かりやすいものを試す。
「家から、学校の屋上に直接つながるドア」
目の前に、
存在しないはずのドアが現れた。
開けると、
そこは学校の屋上だった。
風が吹く。
現実だ。
「……当たりか」
そうして俺は気づいた。
自分の能力は――
理論上存在しないものを、一日一つ生み出せる。
強すぎる。
だが同時に、
面倒だとも思った。
「……世界、汚いな」
能力者は多いのに、
半分は能力を理解していない。
管理も、価格も、制度も、
全部ちぐはぐだ。
どうせなら――
全部きれいにしたい。
そのときはまだ、
それが世界を壊す第一歩だとは、
思っていなかった。




