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大きなドングリの木を見つめる

こんにちは!作者の イワヤ (岩屋) です。

この度は、数ある作品の中から本作を見つけて、読んでくださりありがとうございます!

この物語は、私が長い間構想を練ってきた、中世ヨーロッパ風の異世界ファンタジー(転生もの)です。

この広大な世界観を、皆さんと一緒に旅できることを願っています。

最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。

どうぞ、よろしくお願いします!

クエス城下町に向かって、オレは走ってた。まだまだ全然、遠いけどな。


ぶかぶかのズボンが足に絡まって、なんども転びそうになる。クソッ。 おでこからは汗がダラダラ落ちてきて、うっとうしい。


腕には包帯が巻いてある。 背中では、ちっこい革のケースが走るたびにドスドスと跳ねてた。 中に入ってるのは、数ヶ月前に預かった大事なナイフだ。


風がビューッと吹いて、オレの茶色い髪をぐしゃぐしゃにする。 目指す場所はひとつ。 あの原っぱのてっぺんにある、デッカイ木だ。


あの 大ドングリの木は、ずっと昔からオレと一緒にいた。 あそこだけは特別なんだ。 まるで世界がピタリと止まってるみたいにさ。


その木陰で、オレはいつもデッカイ夢を見る。 いつか、すげー有名なヤツになるんだって……。


たとえば、とんでもない大魔法使いとか? それとも、軍隊を率いて勝利に導くカッコいい騎士様とか?


ま、本当は何になれるかなんて、どうでもいいんだ。 オレが望んでるのは、たったひとつだけ。


誰かに、いつか。 「オレが確かにここにいた」って、覚えててほしいんだ。


夢を見てない時は、大ドングリの木の白くてツルツルした幹に、そこを登ってる虫の絵を描いてた。 幹には黒い傷跡みたいなのがポツポツあって、まるでたくさんの「目」がオレを見てるみたいだった。


見つかるのは、だいたい青いカブトムシだ。 そいつら、金属みたいにギラギラ光ってて、ちっこい宝石みたいなんだぜ。


そのキラキラした青と、木の白、葉っぱの緑。 見てると、なんだか不思議と落ち着くんだよな。


……ホントは今日、親父の収穫を手伝わなきゃいけないんだけどさ。 正直、へとへとだったんだ。


だって朝から、母さんと近所のおじさんが、オレに「字」を教えようとしてきたんだぜ? あいつら、しつこすぎ。 オレ、全然わかんねーし。最後はいつもの通り、イライラして終わった。


だいたいさあ、なんで字なんて読まなきゃいけねーんだよ? 戦場で本なんか配られねーだろ!


そんなヒマがあったら、魔法の特訓でもしたいっての。まだ全然ショボいけどさ。 それか、兵士の中でも目立てるように体を鍛えたい。


そんなことを考えながら、オレはナイフをいじってた。 ヒュッ、ヒュッ。 空を切るたびに、風が指先をかすめていく。


父さんたちはきっと、「また遊んでる」って思ってるんだろうな。 最近は兵士の数も減ってるし、ウチの国はずっと「中立」ってやつを守ってるから平和ボケしてるんだ。


近くには、あの ブラッセン王国があるっていうのに。 あそこ、他の国を攻めるのが大好きですげー有名なんだぜ? ま、ここ何十年もうちの村には手を出してないけどさ。 たまーに見かけるときも、食料を買いに来たり、偉い人の馬車を守ってる時くらいだ。


ウチの一族は、昔っからずっと農業だ。 もともとこの村は、ふたつのデッカイ国の架け橋として作られたらしい。 そんな大昔の話はともかく、今でも旅人が休憩するのに使われてる。


ウチの家? 果物とか、ジャムを売ってるよ。 ブラックベリーだ。 あと、ブラックベリーと……たぶん、ブラックベリーしかない気がする。


季節じゃない時は、親父が炭を売ってる。 親父は働き者で、村のみんなにも好かれてるんだ。 母さんも負けてないぜ。ここに来た時は、いろんな男が母さんを巡って争ったらしい。


でも結局、母さんを射止めたのは親父だった。 親父の「ジャム」が決め手だったんだってさ。


気づけば、もう木のところに着いてた。 オレは 大ドングリの木の下にドサッと座り込んだ。 頭の上で、風に吹かれた葉っぱがザワザワ踊ってる。


やっとリラックスできる……と思った瞬間、サイアクなことが頭をよぎった。 セスだ。


あいつ、ここにいなくてもマジでウゼェ。 いつもオレの邪魔ばっかりしやがって、ちっとも気が休まらねーんだよ。 年はオレとそんなに変わんないのに、性格は真逆だ。


だからオレはここに来るんだ。 セスに邪魔されずに、ゆっくり考え事ができる場所はここしかねえからな


「いつになったらセスは大人になんだよ?」


オレはひとりでブツブツ言った。


「ま、確かにオレより年上だけどさ、でも……」


その時だ。 ガツッ!!


いきなり何かがものすごい勢いで頭に直撃した! どんぐりだ……。 でも、今まで見たことないくらいデッカイやつ!


「ぶっ殺すぞ!!」


オレは兄に向かって叫びながら、慌ててそれを拾い上げた。 絶対あいつだ。セスは昔っから狙った獲物は外さねーし、動きもすげー素早いからな。


デカい木の実を握りしめて、パッと顔を上げる。 けど……。


誰もいなかった。


そこには、デッカイどんぐりを手にしたオレが一人いるだけ。 風が体を叩いて、頭にでき始めたタンコブにヒリヒリ染みた。


「セス!?」


オレは大声で叫んだ。 遠くから笑い声くらい聞こえてくるかと思ったけど……なんにも聞こえねえ。 シーンとしてる。


あいつが投げたんじゃないのか? オレは 大ドングリの木の枝を見上げた。 でも、葉っぱが風でゆらゆら揺れてるだけだ。


手の中にあるデッカイどんぐりに目を落とす。 とりあえず、こいつはポケットに突っ込んだ。


「親父に見せなきゃな」


オレは急いで荷物をまとめた。 ちっこい革の袋だ。中には、絵を描くための先っちょが焦げた木の棒と、腹が減った時用のアーモンドが入ってる。


それと、大事なナイフ。 さっきどんぐりを追って飛び跳ねた時に、落っこちてねーか心配だったけど……ちゃんとケースに入ってた。よし。


全部あるべき場所にある。 ただひとつ、頭のタンコブを除いてな。 こいつ、動物のツノみたいにデッカく膨れ上がってやがる。


歩きながら、オレは何度もタンコブを触った。 まだデカくなってんのか? これ。 時間が経つにつれて、痛みがガンガン強くなってきやがる。


「クソッ……」


オレは心の中で毒づいた。


「これ以上デカくなったら、サール村の悪魔と間違われちまうぜ」


景色を眺めながら歩いてたけど、もう日が沈み始めてた。 森の中は木がいっぱいで、ただでさえ少ない光をほとんど隠しちまってる。


いつもなら、暗くなってから帰ると親父たちにすげー怒られるんだ。 だいたい セスが迎えによこされて、場所は決まっていつもの 大ドングリの木だ。


だから、今回あいつが来てないのが変だと思った。


「あいつに何かあったのか?」


ふと、そんなことを考えちまった。 ウソはつかねえ。正直、ちょっと心配になってきたんだ。


もうすぐ冬だからか? なんか、思ってたより早く夜が来ちまいそうだ。


オレは道の横、森の奥の方をキョロキョロ見回した。 この辺にヤバい動物なんていねーはずだけど……。 でも、「何かがオレを狙ってるんじゃねーか」って考えが頭にこびりついて離れなくなってきた。


オレはナイフのつかをギュッと握った。 母さんがくれたやつで、手触りがすげー滑らかなんだ。 いつでも抜けるように、手だけは準備しとく。


おでこから冷や汗が流れてくるのがわかった。 汗がツルッと滑って、あのデッカイたんこぶにぶつかって避けていく。


オレは神経を研ぎ澄ませて、危ねー音がしねーか耳をすませた。 頭の上で葉っぱがザワつく音。 小枝がパキッて踏まれる音……たぶん鳥だろうけど。


音はする。確かにするんだけど……。 なんか、オレの中では不気味なくらいシーンとしてる気がした。 まるで森全体が、「何か」を待ってるみたいに重たい沈黙だ。


ついに、そいつは来た。


森の中で、枝が折れる音がしたんだ。 バキッ……バキッ……。 誰かが乾いた葉っぱを踏みつぶしながら、どんどん近づいてくる。


ナイフの柄を握る手が、ブルブル震えてやがる。 胸がギュッと苦しくなって、オレは奥歯をガチッと噛みしめた。 音が近づくたびに、足のガクガクが止まらなくなってくる。


オレは立ち止まって、森の奥を睨みつけた。 ナイフを構えたまま、震える手で構える。


「セス!?」


オレは闇に向かって聞いた。 すると、遠くの方でちっこい炎がプカプカ浮かび始めた。 ゆっくり、こっちに向かってくる。


「なんだ、野獣じゃねーのか……」


一瞬ホッとしたけど、すぐにまた心臓が跳ね上がった。 もしかして、盗賊か? ひとり歩きのガキを狙う、悪いヤツなんじゃ……。


オレは地面を見て、投げられそうな石を探した。 近づかれる前にぶつけてやる。


「おい!?」 オレは叫んだ。


「な、ナイフ持ってるからな! マジで使うぞ!!」


声が裏返っちまった。自分でも情けなくなるくらい震えてる。 これじゃ全然、脅しになってねぇ……。


炎を持ったヤツは、気にする様子もなくゆっくり歩いてくる。 まるで、ビビりまくってる11歳のガキを見て楽しんでるみたいだ。クソッ。


そいつはどんどん近づいてきて、50メートルくらいのところでピタリと止まった。 まだ暗くて誰だかよく見えねぇ。


その時だ。 いきなり、そいつがこっちに向かって走り出した!


「ヒッ……!」


喉が詰まったみたいになった。 オレはさらに強く歯を食いしばって、パニックになりながら足元の石を投げつけた。


「うおりゃあ!!」


でも石が重すぎて、オレの腕じゃ数メートルも飛ばねぇ! 全然届かねぇよ!!


「ダリアン……! 走れ! オオカミが来るぞ!」


指先にちっこい炎を乗せたセスの声だ。 マジで焦ってるその声を聞いて、オレはクルッと回れ右して、大ドングリの木に向かってダッシュした。


必死だった。 心臓がバクバクいってる。 生きるか死ぬかの瀬戸際だ。走るたびに涙がボロボロあふれてきやがる。


後ろにいるはずの兄貴の足音が聞こえなくなった。 でも、振り返るなんて無理だ。 あいつが野獣に食い散らかされてる……そんなグロいもん見たくねーよ!


オレは走り続けた。 遠くから、いつものあのムカつく笑い声が聞こえてくるまでは。


「ギャハハハ……! 信じらんねー!」


セスが爆笑してやがる。


オレは足を止めた瞬間、ガクッと力が抜けてその場にへたり込んだ。 ドサッ。 膝を地面に強打して、すげー痛い。


頭の中がぐちゃぐちゃだ。 「冗談でよかった」「助かった」って安心する気持ちと、死ぬほど怖かった恐怖。 そして何より、あいつの残酷さに腹が立った。


「なんでそんなことすんだよ、セス!」


オレは泣きながら叫んだ。体はまだ怖さで震えてる。 セスは涙目になるくらい笑いながら近づいてきた。


「お前バカか? 本物のオオカミなら、遠吠えとか足音とか聞こえるだろ?」


言われてみればそうだ。 遠吠えも、獣の息づかいも、何ひとつ聞こえなかった。


「知るかよ!! てめーが食われてるかと思ったんだよ!」


オレは叫び返した。 顔がカァーッと熱くなる。騙された自分が死ぬほど恥ずかしい。


地面には、さっき取り落としたナイフが突き刺さってる。 それを見て、セスがニヤニヤしながら言った。


「で、そのナイフは何のために持ってんの? 腰抜け(チキン)」


「……」


「親父が自慢してる『強い男』はどこ行ったんだよ? 今のお前見たら、親父も恥ずかしがって泣くぜ。こんなビビりの息子を育てちまったってな」


恥ずかしいだと?


「恥なのは、息子がこんなイカれたヤツだってことだろ!」


オレは心の中で叫んでから、言い返した。


「オオカミの群れ相手に何ができるってんだよ! オレは戦士じゃねえし、ましてや タラミールでもねーんだよ、バーカ!」


「ハハッ……そりゃ タラミールじゃねーわな。お前、火花ひとつ出せねーもんな」


そう言った瞬間、セスは指を弾いて、オレの顔に小さい火の粉を飛ばしてきた。


ジュッ!


「アチッ!!」


火傷しそうな熱さに、オレはすぐに立ち上がって、思いっきりあいつを突き飛ばした。


「親父たちに何て言われてんだよ! 人に向けて魔法を使うなって言われてんだろ!!」


オレは本気で腹を立てて怒鳴った。


さすがにやりすぎたと思ったのか、セスは少し気まずそうな顔をした。 自分のしたことが恥ずかしくなったんだろう。 あいつは地面からナイフを引っこ抜くと、オレに渡してきた。


「……もう帰るぞ、泣き虫。遅くなるからな」


セスはボソッと言った。さっきまでの元気はなくなってた。


帰り道は、すげー気まずかった。 二人ともずっと黙りこくってる。 オレの口から出るのは、タンコブと擦りむいて血が出た膝の痛みのせいで漏れる、「イテテ……」って声だけだ。


「……大丈夫かよ?」


セスが聞いてきた。 わざと興味なさそうなフリをしてるけど、気にしてるのがバレバレだ。


「……よくねーよ」


オレはまだムカついてたから、ぶっきらぼうに答えた。


「その、なんだ。もしよかったらだけど……明日、魔法の練習でもするか?」


セスは続けた。


「お前、まだ12歳になってねーだろ。だから心配すんなって。きっとすぐに魔力が目覚めるさ。誰にもわかんねーぞ……もしかしたら、お前が次の タラミールになるかもしれねーしな」


「バカなこと言ってんじゃねーよ」


オレはすぐに言い返した。


「そんなの、ありえねーって……」


オレは視線を下げて、自分たちの住むちっぽけな農村を見た。 家には明かりがついてて、遠くの方で村のヤツらが歩いてるのが見える。 みんな、セスがやってたのと同じ魔法で足元を照らしてるんだ。


物心ついた時から、ブラッセン王国のキャラバンが通るのは見慣れた景色だ。 ヴォトミン国との戦争で奪ったお宝を山ほど積んで、堂々と道を渡っていく。 たまに、食料を買うために立ち寄るだけで、すぐにまた土埃の中に消えていくんだ。


この辺はずっと争いがあったらしいけど、村はそれに慣れちまったみたいだ。 いつの間にか、村は「ふたつ」に分かれてる。


村の真ん中にある商業区には、たまにやって来る ブラッセン王国の「英雄」気取りの連中が集まる。 戦士とか、戦争でボロ儲けした商人たちだ。


もっと遠く、村外れの農場の方には、全然違う人たちが集まってる。 他にどうしようもなかった人たち……安い働き手や、戦争から逃げてきた難民たちだ。


そうやって場所が分かれてるおかげで、同じ村にいても、嫌なヤツらとは滅多に顔を合わせなくて済むらしい。 まあ、離れてるからこそ、なんとかなってるって感じだな。


歩いてると、6人の冒険者のグループとすれ違った。 みんな楽しそうに話してる。 それぞれ変わった恰好をしてて、何人かはピカピカに磨かれた鎧を着てた。 その鎧には紋章が刻まれてる。


すぐにピンときた。ブラッセン王国のヤツらだ。 たぶん、ギルドの依頼か何かで通りがかっただけだろう。



その中でも、ひとりの女の魔法使いがすげー目立ってた。 デカい木の杖を持ってて、先っぽに赤い水晶が埋め込まれてる。 そいつが使ってる魔法、見たことねーやつだ。 すっげー明るい光の玉が浮いてるんだよ。 セスが指先に出してるショボい火なんて、比べものにならねぇ明るさだ。


近づくにつれて、そいつらの楽しそうな雰囲気が消えていった。 まるで、オレたちが邪魔だと言わんばかりだ。 目の前を通る時、挨拶してみたけど、返事をしたのはリーダーだけだった。


「こんばんは、少年たち」


すげー冷たくて、堅苦しい声。 すれ違う瞬間、なんか嫌な沈黙が流れた。 ピリピリした空気が漂ってたけど、オレたちは無視して歩き続けた。


少し通り過ぎたところで、オレはフゥーッと息を吸って気合を入れた。 足を止めると、セスが「何してんだ?」って顔で見てくる。 オレは振り返らずに、冒険者たちに声をかけた。


「次の町まで歩くと何時間もかかるぜ……! この村の宿屋に泊まったほうがいいんじゃねーの!?」


ドンッ! 横から兄貴に肘で突かれた。


「余計なこと言うなよ、行くぞ……」


セスが耳元で焦って囁く。 すると、あの冒険者が答えた。


「子供が大人に指図するな」


冷たい声でピシャリと言われた。 その直後、女の魔法使いがドン! と杖で地面を叩いて、そいつらはまた歩き出した。


「弟がすみません! こいつバカなんで、何言ってるかわかってないんです!」


セスが震える声で、必死に愛想よく叫んだ。 冒険者たちは無視だ。何事もなかったみたいに行ってしまった。


オレたちはまた村に向かって歩き出した。 あの態度に、オレはもうカンカンだ。 兄貴も横でグチグチ言ってくるしよ。


「バカ、あんなこと言うなよ。危なそうなヤツらだっただろ?」


セスは小声だ。まだ遠くにいるあいつらに聞こえるのをビビってる。


「何様なんだよ! デカくて強いからって、人をゴミ扱いしていいと思ってんのか!?」


オレはわざと大声で叫んでやった。


「しーっ! 聞こえるって!」


セスが引きつった笑いを浮かべる。 そのビビりようがおかしくて、オレは吹き出した。 そして、トロールみたいに背中を丸めて、変な顔をしながら歩きマネをしてやった。


「オレ、ボウケンシャ……オレ、ネナイ」


ドスッ、ドスッ。 わざと地面を強く踏み鳴らして、小石を蹴っ飛ばす。


「ブハハハッ!」


セスも笑いすぎて、魔法に集中できなくなったみたいだ。 フッ……。 指先の炎が消えた。 あたりがいきなり真っ暗になる。


二人の笑い声がピタリと止まった。


暗闇の中にいたのはほんの数秒だったけど、それだけで十分怖かった。 セスは慌てて、また小さな炎を灯した。


もう誰も笑ってなかった。 兄貴の顔つきが、急にマジになってた。


「あいつら、ブラッセン王国のヤツらだよな?」セスが聞いてきた。


「たぶん……」


「こんなとこで何してんだろ?」


「きっと使者か何かだよ……あんなすげー光魔法、初めて見たぜ」 セスの目がキラキラしてる。魔法のことになるとすぐこれだ。


「何の使者だよ?」 「さあな……」 セスは肩をすくめた。


オレは大きく息を吐いた。 「ま、少なくとも ブラッセン王国の心配はいらねーよ」


「ここはヴォリン領の領地だしな。王様とあっちの国は仲が良いって話だし」


歩いてると、村の入り口にある最初の農場が見えてきた。


「もうすぐ村だ。腕輪、持ってるか?」セスが声をひそめて聞いた。


「おう」


オレは自慢げに、オレンジ色のリボンを見せつけてやった。 1年ちょっと前にもらった大事なヤツだ。


この腕輪は、10歳になるともらえるんだ。 これがあれば村の外に自由に出られるし、何より「村を作った一族」の仲間って証でもある。


なんでも、何十年も前に決まったルールらしい。 昔、夜遊びしてた子供を狙ってゴブリンの群れが襲ってきたことがあったんだとさ。 それ以来、子供を守るための目印なんだって。


鍛えられた兜に、使い古されたプレートアーマー。 通りの向こうから、一人の衛兵が近づいてきた。


「ダリアン? セス? お前たちか?」


「うっす!ボルディールさん、こんちは!」オレは元気に手を挙げて挨拶した。


「ダリアン、もう夜だぞ。父さんたちが怒ってるぞ」ボルディールさんが低い声で忠告してくる。


「へーきへーき! 今帰るとこだから!」 オレは気にせず答えた。


セスと一緒に家まで歩く。 庭にはデカいベヨートの木があって、小さな柵がある。 その窓の向こうに……母さんがいた。


顔がマジで怒ってる。 その目がギロリとこっちを睨んでて、一歩近づくたびに寿命が縮む気がした。


「こんな夜遅くに帰ってくるなんて、どういうつもりなの!? 弟を探してこいって言ってから、何時間経ってると思ってるの、セセリアン!!」


母さんの怒鳴り声が響く。


「ごめんなさい、母さん…… ダリアンが迷子になってて……いつもの木にいなかったんだ……」セスはションボリして嘘をついた。


母さんの視線が、燃えるような怒りでオレに突き刺さる。


「で、アンタは!? いったい何処をほっつき歩いてたのよ!」


オレはムカついて言い返した。 「いつもの木にいたよ! セスが嘘ついてんだ、母さん!」


「嘘をつくんじゃないわよ、ダマリアン・ラッコリン・スカーフラッグ!!」


わざとフルネーム呼びだ。オレがこの名前を嫌いなのを知っててやりやがる。


「本当だって! タラムに誓っ……!」


バチンッ!


言い終わる前に、平手打ちが飛んできた。口をつぐむしかない。


「この家では、タラミールも、シオヴェニアも、ましてや アズタヴェルに誓うなんて許しませんからね! わかった!?」


背筋が凍るような声だ。 オレは黙り込んで、言葉を飲み込んだ。


母さんの後ろで、セスが「ベーッ」って舌を出してバカにしてやがる。 でも、母さんはお見通しだった。


「こら、弟をからかうんじゃないの! 今度また連れ回して遅刻したら、ただじゃおかないからね!」


バチンッ!


今度はセスの頬っぺたに平手打ちが飛んだ。 二人して、頭を下げて黙り込む。


「……さっさと体を洗ってらっしゃい。その汚い服、二度と見たくないわよ、いいわね!?」


オレたちは無言で頷くと、風呂場に向かった。


また、重苦しい沈黙が戻ってきた。 誰も口をきかねぇ。 オレは セスの嘘にも、話を聞いてくれない母さんにもムカついてたからな。


セスは黙って桶に水を溜めてる。 あいつの手から、夜みたいに冷たい水が ジャーッ と流れ出てる。簡単な水魔法だ。


「もっと勢いよく出せねーの?」 オレは退屈そうに聞いてやった。


「うるせーな。お前は一滴も出せねーだろ」 ムッとして言い返してきやがる。


「……」 言い返せねぇ。


「たまには役に立てよ。お湯にしてくれ」 セスが偉そうに命令してきた。


オレはブツブツ文句を言いながら、冷たい水に両手を突っ込んだ。 全神経を集中させる。 火の魔法を念じるんだ。 他のヤツらにとっちゃ準備運動みたいなもんらしいけど、オレには超しんどい作業だ。


呪文をボソボソ唱える。 だんだん、水がぬるくなってきた。


「できた……」


ちょっとだけだけど、成功した。 それが嬉しくて、少し希望が湧いてくる。 いつか、もっとスゲー魔法が使えるようになるかもな。


数分後、桶のお湯はいっぱいになった。ちょうどいい湯加減だ。


「先に入れよ。ぬるいうちにさ。後でまた温め直すから」 セスが言った。


オレは頷いて、勢いよく桶に飛び込んだ。


ザブーン!!


床が水浸しになった。


「今の音は何なの!?」 倉庫から母さんの怒鳴り声がした。


「「何でもない!!」」 オレと セスは声を揃えて叫んだ。


「また喧嘩してるんじゃないでしょうね!?」


遠くから母さんの声が響く。 オレは セスを見て、ニカッと笑った。無言の共犯だ。


風呂上がり、オレは自分の部屋に戻って着替えた。 木の壁の質素な部屋だ。 藁のベッドが二つ。一つはオレので、もう一つは セスの。 窓からはあのデカい 別のどんぐりの木が見える。あとは服を入れるタンスがあるだけだ。


オレは濡れた髪を手で撫でて、少し熱を出して乾かそうとした。 なかなか乾かねぇ。


数分後、セスが入ってきた。 あいつは風魔法を使って、ブォーッ と風を起こして髪を乾かしてる。


「また自慢かよ、嫌味なヤツ」 オレは皮肉っぽく言った。


「お前のせいじゃないさ、まだ赤ん坊だもんな」


セスが冷たく返す。また喧嘩になりそうだ。


「あんたたち! 父さんに挨拶しに来なさい!」


玄関から母さんの声が聞こえた。 オレたちは顔を見合わせて、ドタドタと階段を駆け下りた。


父さんが、両手を広げて待ってた。 ダボダボの服に、出っ張ったお腹。 見た目は全然強そうじゃないけど、頼りになる父さんだ。 頭はハゲてて、ヒゲもちょっと伸びてる。 父さんはしゃがんで、オレたちの高さに目線を合わせた。


「よう、子供たち。今日はイイ子にしてたか?」


「うん!」


オレたちは声を揃えて叫んで、父さんの腕に飛び込んだ。 さっきまで怒ってた母さんも、これには思わず笑っちゃったみたいだ。


「あなた、お仕事はどうだったの?」 母さんが優しい声で聞いた。


「ああ、かなり良かったぞ」 父さんは落ち着いた声で答えた。


「ブラッセン王国の冒険者たちに会ったんだ。クエス城下町の近くに新しい野営地ができるらしくてな。商品を半分も買ってくれた上に、払いも良かったんだ」


父さんはニカっと笑った。


「だからほら、祝いにケーキを買ってきたぞ」


母さんの顔がパァッと明るくなった。 「まあ! 今日は特別な日ね」 満面の笑みで、急いでテーブルの準備を始めた。


オレはその隙に、ダッシュで自分の部屋に戻った。 さっき履いてた汚れたズボンを探り当てる。 ポケットから、オレの頭に直撃したデカい 大ドングリの木の実を取り出した。 これはオレの戦利品だ!


オレはまた走って戻って、父さんに自慢げに見せた。


「見て見て! すっげーだろ!」


「おぉ、こりゃすごいな!」 父さんは驚いた顔をしてくれた。子供の自慢に付き合ってくれる、いい父さんだ。


「どこで拾ったんだ?」


「クエス城下町に続く道にある、デカい 大ドングリの木だよ!」 オレは胸を張って答えた。


父さんはその実を受け取って、しげしげと眺めた。 ……あれ? 眉間にシワが寄ってる。


「確かにデカいが……デカすぎるな」 父さんは首を傾げてつぶやいた。


「本当にあの木から落ちてきたのか?」


「当たり前だろ! オレの頭のタンコブ見りゃわかるじゃん!」


父さんはチラッと セスを見て、それから深いため息をついた。 ポン、とオレの肩に手を置く。


「息子よ……あの木は 大ドングリの木じゃないぞ。どこでそんな勘違いをしたんだ?」


ガーン!!


オレは固まった。 世界がピシッと音を立ててヒビ割れた気がした。 何年もあの木に通って、友達みたいに大事にしてきたのに……。 あいつ、大ドングリの木じゃなかったのかよ!?


オレは庭に飛び出した。 ウチの庭には、本物の 別のどんぐりの木がある。 それと、記憶の中のあの木を比べてみた。


……全然、似てねぇ。 葉っぱの形も、幹の感じも違う。


父さんが後ろから来て、優しく背中を叩いた。


「さあ、母さんの手伝いをしてこい。ご馳走だぞ」


***


オレたち4人は、小さな木のテーブルを囲んだ。 今日は特別だ。食べ物がいっぱいあって、ケーキもパンもある。 昼間の嫌なことなんて、全部どっかに消えちまったみたいだ。


セスも黙々とケーキを食ってる。あいつがこんなに食うなんて珍しいな。 みんなでモグモグ食べて、父さんと母さんが楽しそうに話してる。


なんか、魔法みたいな時間だった。


オレは二人を見てた。 母さんはニコニコしてて、すっげー幸せそうだ。


その時、急に父さんの顔が変わった。 何か大事なことを思い出したみたいに動きを止めて、それから少しぎこちない笑顔を作った。


「お前たち」 父さんが真面目な声で言った。


オレたちは口にケーキを詰め込んだまま固まった。


「母さんから、話があるそうだ。よく聞きなさい」


オレたちはすぐに母さんを見た。 母さんはお腹に手を当てて、目に涙を浮かべながら笑った。


「あなたたちにこのことを伝えられて、本当に嬉しいわ……」 母さんの声が震えてる。


「……赤ちゃんができたの!」


「ぐえっ!!」


オレはもちろん、ケーキを喉に詰まらせた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

小説を書くのは初めてなので、至らない点も多々あるかと思いますが、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

もしよろしければ、感想やフィードバックをいただけると、今後の執筆の励みになります。

これからの展開も皆さんに楽しんでいただけるよう頑張りますので、次のお話もぜひ読んでみてください!

改めて、ありがとうございました!

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