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花にはなれない

作者: おにく

おにくと申します(*>∀<)ノ♪

短編だよ!タノシイネ!

 俺の趣味は植物観察。毎日様子を見に行っては、隣で静かに見守っている。ときには声をかけたり、お土産を置いたりするが、基本的には干渉しないようにしている。俺はこいつに何もしてあげられないから。

 俺は自然な姿が見たいだけ。ありのまま成長して、元気な姿を見られたらいい。そんな思いで今日もこいつを観察する。

 二十四日目。水を変えて、隣に座りじっと見つめる。今日は気分がよさそうだ。真夏には珍しく涼しげな風が吹いているからだろうか。日光は大切だが、当たり続けるとさすがに暑いのだろう。とりあえず、このまま見守っておこう。

 何も言わずにいると、周囲の音がよく聞こえてくる。車の走行音、カラスの鳴き声、風がカーテンをなびかせる音。こいつは普段こんな音を聞いているのだと思うと、こいつのことを少し知れた気がして嬉しくなる。

 いつかまたここで、耳を澄ましてみよう。そう思った。


 二十五日目。水を変えて、隣に座りじっと見つめる。今日は少し不機嫌そうだ。なんとなくわかる。どうしたものか。

 そうだ。今日学校で起こったあの出来事について話そう。

「今日の補習終わりに中村がさ、清水に告白したらしいぜ。前に俺が言った通りだ。やっぱりあいつら両想いだったんだってな。」

 するとこいつは柔らかな雰囲気になった。昔から恋バナが好きだったこいつは、こうやって甘酸っぱい青春を聞かせてやるとどんなときでも機嫌がなおる。

「単純な奴だな。」

 俺は苦笑して、また静かに見守ることに徹した。

 今日の風は暖かかった。


 二十六日目。水を変えて、隣に座りじっと見つめる。今日は特に問題はなさそうだ。このまま見守っておこう。

 夕日が沈んでいき、空に闇が浸食し始める。そして、白いカーテンがその闇を覆い隠す。そういえば明日花火大会だよな、とふと思った。

「懐かしいな。」

ここから見えるだろうか。こいつにも見せてやりたい。見せたら……。そこまで考えて俺はどうしようもない寂しさに襲われた。記憶が、思い出が、すべて闇に包み込まれてしまった。

少し頬を濡らした俺は、誰にも悟られぬようにうつむきつつ、速足でその場を離れた。


 二十七日目。水を変える。今日は俺の気分がよくなかった。

 もうすぐひと月経つ。俺がこいつを『観察』し始めてから。最近はこの場所にも慣れてきて、もっと純粋な想いでいられたのに。昨日の一件で抑え込んでいた感情が爆発してしまった。

 それでも、俺はここに来ることをやめることができなかった。ほぼ無意識で足がこの場に向かってしまう。

 隣に座りじっと見つめる。今日は今までにないほど機嫌がよさそうだった。笑っているようにも見えた。

「どうしてお前は起きてくれないんだ?」

 問いかけても返事はない。当然のことだった。

 俺はこいつの隣で声を殺して泣いた。後ろでドンッと大きな音が鳴り、花火大会が始まった。しかし、今の俺に花火を見る余裕はない。彼女を守る白いベッドに黒い感情を吐き出すのが精一杯だった。

「俺は、どうしたらいいんだよ。葉菜……」

 俺とは対照的に心地よさそうな少女。

 こいつの手を優しく握る。そこには、生きている証しかなかった。


 二十八日目。水を変えて、隣に座りじっと見つめる。

 刻限が迫っているような気がした。ピッピッピッという無機質な機械音が、聞き慣れたはずなのに俺を無性に焦らせる。俺に何かできないのか。無駄で無謀な考えにも、今は縋りつきたい気分だった。

 しかし、いくら考えても俺の知識量では何も生まれない。ぶっ飛んだ考えも出てこない。頭の中は真っ黒だ。

「そばにいることしかできなくてごめんな。助けてやれなくて、ごめんな……」

 この場を夜の闇が包み込む。真っ白なカーテンも、ベッドも、壁も。この部屋すべてが真っ黒になってしまった。


 二十九日目。水を変えて、隣に座る。

「今日さ、久しぶりに中村と帰ったんだ。俺の様子がおかしかったからって、強引についてこられたよ。中村、めっちゃ心配してくれてたんだ。俺のことも、お前のことも。いいやつだろ?」


 三十日目。水を変えて、隣に座る。

「昨日やっと補習が終わったから今日は中村と清水と一緒に買い物したんだ。俺は二人で楽しんでこいって言ったんだけど中村のやつ聞かなくてさ。清水もめっちゃ押してくるから仕方なくついていったんだ。あの頃に戻った気がして楽しかったんだぜ?」


 三十一日目。水を変えて、隣に座る。

「さっき親と喧嘩したんだ。久しぶりだったよ。もう俺と関わらないと思ってた。でもそんなことなかったよ。ずっと心配してた。何を話すべきかわからなかった。そばにいてやれなくてごめんって。そこからは俺も両親も子どもみたいにとにかく感情をぶつけ合ってさ。すっきりしたなぁ。」


 三十二日目。水を変えて、隣に座る。

「今日は、特に何もなかったな。お盆だから課外もないし部活もない。……お盆といえば死者が帰ってくる時期だよな。お前も帰ってきたり……なんて、そんなすぐには来られないか。葉菜の声、もう一度だけでも……って何言ってんだ俺。」


 三十三日目。水を変えて、隣に座る。

「今日も特に何もなかったな。明日から部活あるからもっとおもしろい話聞かせてやるよ。お盆も終わりか。……送り火だけでもやっとこうかな。」

 ふと、思いたって材料を買いに家を出た。送り火だけなんて、なんの意味もないと思う。しかし、今は少しでも葉菜に近づきたかった。触れたかった。

俺は庭に出て、ネットで検索しただけの付け焼刃な知識でおがらを焚き始めた。

 淡い火の光を見ていると、あの日の花火を思い出す。結局、直接見ることはできなかったが、あの部屋を彩る光は確かに俺の涙に溶け込んでいた。

「またここで、一緒に見たかったのにな……」

 後悔が今になって重くのしかかる。目頭が熱くなり、思わず目を閉じた。

 すると、周囲の音がよく聞こえてきた。車の走行音、涙が落ちる音、カラスの鳴き声、そして―――

「葉菜……?」

 ほんの一瞬、かすかにあいつの声が聞こえた気がした。まさか本当に帰ってきたのだろうか。

 俺はもう一度呼び止めようとして、やめた。今日はお盆の最終日。見送る日だ。静かに合掌をして、あいつの無事を祈ろう。

 暖かい風が俺の頬を撫でた。

「ああ、またな。」

 俺たちは再会を誓い合い、思い出の庭を後にした。

どうでしたか?

衝動書きなんで設定雑なとこあるかもですが、結構気に入ってる作品です

ぜひ他作品も読んでいってください!

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