7話 友達?
夜宵が夜ご飯を食べている最中に、レイナがお風呂から上がってきた。
「もぉー、セレナひどいよー。全然インク落ちなかったんだけど」
「酷いのはどっちだ!」
夜宵の言葉に、レイナは気まずそうに目を逸らす。
そんなやり取りをしていると、レイナのおばあちゃんが夕食を運んできた。
「まあまあ、仲が良さそうね。この子ったらたまーに暴走することがあるけど、これからもよろしく頼むよ」
「たまに?」
夜宵はレイナの方を見るが、またもや目を逸らされる。
「この子、綺麗な子を見るとすぐ暴走しちゃうから、友達がなかなかできなくてね」
「ちょっ、おばあちゃん! そんなこと言わなくていいから!」
「分かってたけど、お前ヤバい奴だな」
「セレナも大概ヤバい奴だけどね!?」
その言葉を、夜宵は即座に否定した。
「いや、私はまともだから」
「この子がね、二年くらい前に王都に行って、友達ができた!って報告してきたとき、誰かと思ったら領主の息子だって言うじゃない。腰抜かしたわよ」
「どういう経緯で友達になったの?」
「色々あって……」
その“色々”が気になるんだよ、と夜宵は心の中でツッコミを入れる。
「たくさん迷惑をかけるだろうけど、これからもこの子をお願いするね」
夜宵は引きつった笑みを浮かべつつも、頼みを断れるほど心が狭いわけではないので、了承する。
「……お願い、されます?」
「もっと快く了承してよ!」
「お前がもうちょっとまともだったらな!」
おばあちゃんは、二人のやり取りを微笑ましく見つめていた。
――日本の標準時刻では十時を回った頃だろうか。
夜宵はベッドに横になっていた。
そんな時、ドアがノックされる。
「起きてる? セレナ」
「夜這いなら帰ってください」
「夜這いじゃないよ!!」
慌てて扉を開けたレイナは、顔を真っ赤にして否定する。
深呼吸をして落ち着くと、ベッドの端に腰を下ろした。
「おばあちゃんが言ってた通り、私って可愛い女の子を見るとたまーに暴走しちゃってさ。だから友達がなかなかできなかったんだ。でもセレナは、そんな私のそばに居てくれて……すごく嬉しかった」
“たまに?”と思いつつも、この空気ではツッコめない夜宵。
「まあ、依頼を受けちゃったし、別れるわけにもいかないでしょ」
照れ隠しのように返すと、レイナはふふっと笑って言った。
「だからさ、これからも友達でいてくれる?」
「レイナが友達でいたいなら、いてあげてもいいけど……」
「……ちなみにさ、普通こういう雰囲気の時にベッドで寝る? もしかして、“襲ってもいい”ってサインなのかな?」
月明かりだけが照らす部屋で、レイナの瞳がギラリと光る。
まるで捕食者のようなその表情に、夜宵は体を震わせ、必死に“最善の手”を考えた。
そして、導き出した答えは――
「曲者ーーーーー!!」
「ちょっ、セレナ!?」
ドタドタと階段を駆け上がる足音。
次の瞬間、部屋のドアが勢いよく開かれた。
「何事じゃ!!」
自分で服を少しはだけさせた夜宵が一言。
「お宅の娘さんに襲われました……」
「貴様ーー!!」
「ちょっと、セレナーーーー!!」
その後、涙目になりながらおばあちゃんに弁明するレイナだった。
――翌日。
「はぁー……色々と大変だったな。特にレイナのことで」
「お疲れ様です」
「何がお疲れ様だ! なんで家に帰るだけでも不安が絶えないんだろう……」
「私がいるから安心してよ」
「お前が不安の元凶なの!」
夜になり、池に到着した。
夜宵が水浴びをしている間、レイナは。
「うーー! むーーー!」
手足を縛られ、口にはタオルを巻かれていた。
どう頑張っても外せないと悟ったレイナは、無の境地に至る。
……が、なぜかこの状況に興奮を覚え始める。
頬と耳を赤く染め、ハァーハァーと息を吐くレイナ。
ちょうどそのタイミングで夜宵が戻ってきた。
一瞬、拘束を解こうかと迷った夜宵だったが、セレナを見て恐怖を覚え、しばらく放置することにした。
――そして翌日。
「おー、数日前に見たけど懐かしいねー」
朝早くから出発した夜宵たちは、無事に屋敷へと帰り着いた。
馬車から降りた夜宵は、レイナにお礼を言う。
「色々大変な目に遭ったけど、楽しかったよ。またどこかで会えたら、その時はよろしくね」
そう言って屋敷の鍵を開け、中へ入る。
「……なんでついてくるの?」
「いいじゃん」
「良くないよ!?」
「夜宵と一緒にいたほうが楽しいもん! 屋敷の部屋だって余ってるでしょ? ねえ、いいじゃん?」
確かに部屋は余っている。
一緒に暮らすのも悪くない……ただ、夜宵には一つ懸念があった。
「いや、レイナ暴走するじゃん」
「ぐっ……」
痛いところを突かれ、うずくまるレイナ。
夜宵はため息をつきながら言った。
「はぁー、しょうがないなぁ。分かったよ。一緒に住もう」
レイナは顔を輝かせ、夜宵に抱きつく。
「うん! ありがと、セレナ!」




