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3話 仕事と領主の息子

 夜宵は一つひとつ扉を開け、部屋を確認していく。


 「異常ナーシ、異常ナーシ!」


 ホラーゲームをプレイする感覚で屋敷を探索していき、順調に進んでいった。


 そして、また一つ扉を開ける――。


 そこには、数百体にも及ぶ西洋人形が蠢いていた。


 「いじょ……異常ナーシ!!」


 夜宵は勢いで乗り切り、扉を閉める。


 その後も部屋を確認していき、夜になる頃にはすべての部屋を見終えた。


 夜宵はシャワーを浴び、気に入った部屋のベッドに寝転がる。


 「もう日本に帰りたい……この世界は世知辛いよー……」


 このゲームの世界に転生してから、ろくなことがなかった。


 お見合いの話は自業自得としても、この辺境に飛ばされ、今後どうすればいいかも分からない。


 不安が押し寄せるのは、決まって夜だった。

 人は暇な時間にいろいろと悩んでしまう。それは夜宵も例外ではない。


 ストーカーに殺されたトラウマ、今後への不安。それらが今になって押し寄せてくる。


 「んーー! とりあえず明日、仕事を探そう」


 夜宵は無理やり不安やトラウマを押し込み、眠りについた。


――窓から差し込む日差しに照らされ、夜宵は目を覚ます。


 シャワーを浴び、仕事を探すために玄関の扉を開けようとする。


 「ガチャ……ガチャガチャ」


 開かない。


 「あれ? 開かない。まさか幽霊の仕業?」


 と、ようやく自動ドアではないことに気付く。


 仕方なく近くの部屋に入り、窓から脱出を試みるが、案の定窓も開かない。


 扉の方へ振り返ったその瞬間――目の前に西洋人形が現れた。


 ――「ペシッ」


 部屋に音が響く。夜宵は真顔で西洋人形をはたき、何事もなかったかのように部屋を出ていった。


 西洋人形は呆気に取られたように、その場に浮いている。


 「うーーん。どうしたものか」


 屋敷から出る方法を考えながら、夜宵は腕を組んで歩き回る。


 「おーーい! 幽霊さーん? ここから出してくださーーい!」


 唐突に大声で呼びかける。当然返事はない。


 だが、「ガタガタガタ」と物音が近づいてきた。


 「ん?」


 廊下の奥から、蠢くように近づいてくる影。

 それは、無数の西洋人形だった。


 その時、夜宵は昨日屋敷でマッチを見つけたことを思い出す。


 ポケットからマッチを取り出し、迫ってきた西洋人形たちに見せる。


 すると、人形たちは夜宵の目の前で急ブレーキをかけ、その場に止まった。


 「これ、されたくなかったら……分かるよね?」


 可愛らしい声で問いかけると、人形たちはものすごい速さで首を縦に振り、「カチャ」という音が屋敷に響く。


 「ありがと。イタズラはほどほどにね?」


 笑っていない笑みを浮かべ、夜宵は屋敷を後にした。


――仕事を探す前に、まずは腹ごしらえ。


 パン屋で小さめのパンを買い、荷車を引いていた青年から牛乳を購入する。


 手持ちは銅貨が少し、日本円にして数百円程度だ。


 噴水に腰掛けパンを食べながら、夜宵は思った。


 「ゲーム配信で楽して稼いでた自分が、まともに仕事できるのか」と。


 そもそも「雇ってくれるところはあるのか」とも。


 「ヤバい、本気で日本に帰りたい……」


 ため息をついて肩を落とすと、通りかかったおばあさんが声を掛けてきた。


 「おやおや、お嬢さん。どうしたんだい?」


 「今後の人生に絶望してるんです」


 「まあまあ。仕事はしているのかい? もし良かったら、うちの店で働かないかい?」


 「ほっ、本当ですか!? 働かせてください!」


 「それは良かった。それじゃあ、ついてきておくれ」


――三分ほど歩くと、服屋や住居が並ぶ一角に着き、その中の八百屋に案内された。


 「じゃあ、お客さんが持ってきた野菜の精算をしたり、呼び込みをしてね。値段表は壁に貼ってあるから。私は奥にいるから、困ったら呼んでおくれ」


 「分かりーました」


 正直、完璧にできる自信はない。夜宵は今までバイトをしたことも無かった。


 とりあえず客引きを頑張り、あとはノリと勢いで乗り越えることにした。


 「いらっしゃいませ、いらっしゃいませー! 野菜はいかがですかー!」


 すると、通りかかった男性たちが夜宵を見るなり店に入ってきた。


 「い、いらっしゃいませー」


 「こっ、これお願いします!」


 一人の男性が野菜を差し出す。


 「君、可愛いね。どう? 仕事が終わったら近くの飲み屋で一杯やらない?」


 「遠慮しておきまーす」


 「そこをどうか」


 「遠慮しておきまーす」


 「ほんの少し話すだけでも……」


 計算の邪魔をされ、夜宵がキレる。


 「うるさいねん! ちょっと黙ろうか!」


 「ご、ごめんなさい」


 それ見た他の男性たちは帰ろうとしたが、自分たちを見る夜宵の笑っていない笑顔にビビって野菜を買い、足早に帰っていった。


 夕方。仕事も順調にこなしながら、ナンパしてくる客をあしらっていると、使用人を連れた一人の男性が現れる。


 白のタキシードに身を包み、燃えるような赤髪と瞳を持つ、整った顔立ちの青年。


 彼は夜宵の呼び込みを耳にすると、ちらりと彼女を見て、すぐに駆け寄ってきた。


 「すまない、あなたの名前は?」


 「いらっしゃいませー、この野菜の名前は人参です」


 「違う! 君の名前を聞いているんだ」


 「野菜を買わない人の言うことは聞きませーん」


 その言葉に、使用人の一人が掴みかかる。


 「貴様ーー! レイン様に向かって何だその態度は! この方はこの地を治める領主様の息子であるぞ!」


 「よい、俺は権力を振りかざすのは嫌いだ」


 使用人は渋々手を離す。


 「そうだな。では野菜を購入させてもらおう」


 レインが指示を出し、使用人が野菜を渡す。夜宵は精算を済ませると。


 「ありがとうございましたー、またのお越しをー」


 「話が違うではないか!」


 レインは市場調査のため、この村を訪れていた。


 そこで偶然、ナンパしてくる客を軽くあしらう夜宵の姿と、目を引く容姿を目にし、思わず足を止める。


 最初は「気になる娘がいる」という単純な興味だった。

 だが、領主の息子としての矜持が彼を突き動かす。


「雑に扱われて引き下がるわけにはいかない」


 そんなプライドから、レインは意地でも夜宵と話そうとするのだった。


 「えー、そんなに私と話したいんですか?」


 小悪魔的に問いかける夜宵。


 「べっ、別にお前のような醜女と話したいわけではない!」


 「だったら早くお帰りくださーい」


 手をプイプイっと振り、レインを煽る。


 「この女ー!」


 悔しそうに両手を握りしめるレイン。


 「今日はもう良い! また今度来るからな、覚えておけ!」


 そう言い残し、レインは去っていった。


 「何だったんだ、あの人……」


 その後、おばあさんが奥から出てきて、今日の給料を渡してくれる。


 夜宵は帰りにパンを買い、屋敷へ戻った。


 玄関の扉を開けて入ると、勝手に扉が閉まる。


 「おー、やっぱり自動ドアなんだ」


 それを見た西洋人形は、「この人には何をしても驚かないな」と察した。


――帰り道、レインは馬車に乗りながら夜宵の事を考える。


 「くそ、なんだあの娘は。領主の息子である俺をからかいやがって。これでは俺が一方的に振られたように感じるではないか」


 夜宵にからかわれた事を思い出し、赤面する。


 「くそー、こんな侮辱は初めてだ…」

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