プロローグ
こちら、あにまん掲示板で開催されてる合作で執筆された作品です。
https://bbs.animanch.com/board/5518042/
こちらが創作スレになります
其の男は生きすぎた。
其の男は強すぎた。
其の男は傲慢の限りを尽くした。
其の男は独立国の承認や日本征服でさえ、一つの通過点としか思っていなかった。
どんな強力な核ミサイルでも、体内の時間停止させようとも、致命傷を与えることはできない。
そのような男なのである。
其の男の名前は【神宮寺十呪郎】。老獪かつ豪腕。
性格は、度を越した傲慢不遜で自己陶酔者。
実力は、地球……いや、宇宙最強であった。
生身で銀河を一周することもできる実力。
十呪郎はそんな自分が心身共にこの宇宙で優れていると信じてやまなかった。
もちろん、それは仕方がないことである。
しかし、後の最強と呼ばれる【天照院あかり】 と対峙するまでの話だが。
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星は生きている。
地球の内核から放たれる青白い光は、血管のように星の胎内から地表へと駆け巡る。
生命を育み、大地を潤わせるエネルギーの奔流を【龍脈】と呼んだ。
そして、大地を駆け巡る龍脈に接触し、精神神経である【疑似龍脈】が叩き起こされた者らは、龍脈のエネルギーを供給して摩訶不思議な術である【龍脈術】の行使を可能とする。
上記のような龍脈術を使役する者らは、龍脈の危険性と人々を守るために結集し、【龍守官】が生まれ、現代に至るまで龍脈を監視・管理していた。
異変は世界に歪みと混乱をもたらすのは世の常である。
龍脈の影響で未知なる力を得た者による抗争。龍脈の侵食による幽霊や妖怪の対処は最近まで頻発していた。
これまでの龍守官の歴史の中で、一番の混沌を引き起こしたのは、もちろん神宮寺十呪郎であった。
「あなたはたった一人で国をも屈服させて、独立国を認めさせた。それ以上に、何が欲しいの?」
「万物。宇宙を頂く前に……この星の龍脈を貧道に承らせてはくれないのかね」
地球どころか、まだ知らぬ宇宙すらも未曾有の危機に巻き込まれると悟ったため、龍守官や全兵器を総動員させたことにより、無事平定。
その後、功労者である天照院あかりが、自身の疑似龍脈を拡張し、地球の龍脈に接続させた通称:【世界樹】を樹立。
龍脈は龍守官の管理下に置かれたことにより、龍脈による外的被害や体外である外宇宙の対処にも可能という超絶ネットワークが誕生したことにより、龍脈がもたらす混沌の時代は幕を閉じた。
しかし、戦いはまだ終わってはいない。
これからの物語は、一人の卑屈で生意気な少年が心身ともに成長し、完全に宇宙の危機を救うまでの歴史であるーーーー
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【GAME・OVER】
「ーーーーはああああ……負けちまったよ。やれやれだ」
【Continue?】
「誰がやるか、このボケが」
学ランを纏う黒髪の少年は、ブチッと切断した。
現在教室で授業中だが、どうやらこの少年は屋上でゲームに勤しんでいたようだ。
真っ暗な画面に負け犬である己の顔が映し出されたことに苛立つこの少年は【野呂井翔】。『龍脈術』を使役する少年だ。
ゲームに負けた腹いせに、クッションへスマホを投げると、再び枕に頭を埋めた。
(……しかし、ゲームなんかやって、なんの意味があるんだよ。運良く勝ったっていつかは負けるというのに、明日になればどうせゲームに手を伸ばすんだろうね。不思議だよ、まったく。罪深いというのかね)
スマホに手をかざすと、時刻が表示される。
「む、あと15分で授業も終わるか。次が理科室で移動教室で自律までは教えてくれんし……やれやれ、戻るしかねえかあ……」
スマホでお気に入りのアニソンを流し、カバンを浮かせながらせっせと両手で枕やお菓子などをしまっていく。
そんな中、お気に入りの曲が終わるも再生されないので、かけるは溢す。
「ちっ。めんどくせえ、なあ……CMが入っちまった。プレミアムに入んないと広告が入るなんて世知辛い世の中だぜ」
そう言い指で広告を消そうと思うも、そのスマホは少年の手から離れていく。
それはかけるよりも背の高い女がそこにいたからだ。
「こーら! ここは学校よ! 学務時間でのスマホの使用は没収対象になるのよ。忘れちゃ困るんだから」
「げえっ、あかりちゃん! どうしてここに!?」
高身長で肩甲骨まで届くウェーブが特徴的な茶髪の女性教師が立っていた。
そう、彼女の名前は天照院あかり。副担任であり、野呂井翔にとって頭の上がらない人物である。
「『げえっ』……なんて、先生に向かってダメな言葉遣いよ! それに、ここではあかりちゃんって呼んじゃダメ。先生と呼びなさい」
「わかったよ。あかりちゃ……あかり先生」
そうかけるが返すとニコリ、と笑うと
「よくできました。では、学舎に戻りましょうね♡」
言うや否やあかりが伸ばした手は、頭を撫でる仕草に移行したので、翔は半歩下がり回避する。
「……はいはい戻るよ。どちらにせよ今さっき、コピー人形(翔に表面上だけ模した紙の式神)にトイレに行かせるように促したんだ。そいつと入れ替わって……あ」
龍脈術とは、術者の生命力の他に龍脈の力を行使して発動させるケースが多い。
なので、任務外での使用はご法度なのである。
「ダメじゃないの」
その言葉と共に万力の如く、あかりは両手で翔の頭蓋骨を潰そうとする。
「悪用するとはいいご身分ねえ……非常事態下での使用は許可されるけど、私欲の行使は厳罰に当たるのよ……」
「い……いたい! マジで痛い。冗談じゃないからマジでやめろ!」
あかりはニコニコと満面の笑みを浮かべながら、数十秒の間、痛みを与えた。
あかりは手を離すと、指が木の枝のように変化し、翔の頭に突き刺して薬液を注入させる。
すると、痛みで転がり回ってた翔はすっくと立ち上がった。
(すげえなあかりちゃん。術を使わず肉体を変化させた……どうなってんの?)
改めて実力差を思い知った翔は頭を下げる。
「……わかったよ。もう私欲には使わないさ」
「じゃあ、もう少し積極的に任務に集中してほしいなあ〜できるでしょ?」
そのようなあかりの願いを翔は突っぱねた。
「それは無理だけど、世間に求められる最低限はこなすからいいだろ。人生は短いんだ。危ない橋は渡らず、石橋を叩くのが好きなのはあかりちゃんが一番知ってる、だろ……」
言いかけた言葉を呑み込もうとするも、翔はふと、隣のあかりに向かって視線をやった。
「……そうね」
あかりはどこか俯いていた。
「しまった」と失言した・地雷を踏んだことに気づくも、後の祭り。あかりはどこか哀愁や切なさを含んだ表情をしていたからだ。
その反応にばつが悪い表情をしながら、翔は教室へ戻ろうとする。
二人は屋上から校内。廊下に戻ると、肩を並べて歩いていく。
だが、はっきり言って居心地が悪いため、翔は今にでもダッシュしたかった。
学校内で「あかりちゃん」と呼んだのに、お叱りが来ないからである。
しかし、予想外にもあかりの心は平穏そのものであった。
あかりはモールス信号のように独特の波長で翔に語りかける。
≪それにしてもあなたって天邪鬼ね≫
この会話はテレパシーというより、どこか単調な様は旗振り信号の方が近い。実際、龍脈術とは無縁の技術なのだ。
≪任務では手を抜いてるのに、こういうところでは本気を出すんだから≫
翔も目線を合わせず、波長で返した。
これは、翔が手足も動けない時に会話するために編み出された二人だけの言語なのだ。
≪ぼく以外で強い人なんて山ほどいるじゃんか。ぼくは最悪必要ないんだよ。まっ、そのおかげで私生活に便利な龍刻に洗練できたから文句はないさ。それに、努力だの熱血だの、ぼくに泥臭い修行なんて似合わないだろ≫
翔がそう返答すると、あかりは"泥臭い"とのワードに連想して、過去を想起させたのか、
≪……でも、あの時のキミは誰よりも泥臭く、立派に自分と立ち向かっていったと思うよ? あたしだって……あの時のガッツを思い出すと、今でも勇気をもらえるし!≫
≪あれはただの生存本能だ。あかりちゃんはさっきから根拠もないのに、持ち上げすぎ。生き物だからもがいて当然だろ……≫
キーンコーンカーンコーン、とベルが校内に鳴り響く。授業終了のチャイムである。
「でも、だからこそ、あかりちゃんには、感謝している……」
ボソッと言い残すと、捨て台詞でも吐いたかのように校則に準拠した上で、翔は高速で廊下を抜けて教室に戻ってゆく。
≪優しいこと、言ってくれるのね……おーい、翔? 今更競歩するなんて、シカトですかー?≫
基本、あかりは翔が素直になると、満面の笑みで抱きしめるといった習性をするのだが、今回は違う。
確かに微笑みはするものの、その表情にはどこか憂いを孕んでいた____
階段を下りてトイレにいる自分の身代わりと合流すると、せっかくなので用を足してから教室へと歩いていく。
「あかりちゃんはぼくのヒーローだ。だけど、一体ぼくに何の期待をしているのやら……」
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ぼくとあかりちゃんの出会いは、10年前に遡る。何もぼくは最初から龍脈術が使えたわけじゃない。両親もぼくもただの一般人だった。
でも、おじいちゃんが龍守で、たまたまあかりちゃんに面倒を見てもらったんだけど……どこかのタイミングや時間など正確な時刻や場所といった肝心の記憶はぼくにはない。犯人や詳細は今でもわかってないんだ。
一つだけ確かなのは幼き野呂井翔は呪いをかけられ、運動・感覚・自律神経をはじめとしたぼくの肉体神経は身体から消え失せたんだ。
それからはもう、てんやわんやだった。五感や手足が動かないどころか、呼吸さえできないんだから。
でも、真に大変だったのは、その苦しさや激痛さえぼくには一切届かなかったことだった。
いわば、世界から隔絶され、真っ暗で昇ってるのか落ちているのか固定しているのかわからない。そのような永劫かつ無限の闇の中にいたのさ。ぼくが卑屈になった元凶ともいってもいい。
絶望なんてものじゃない。ぼくは死んだと悟っていた。ぼくの精神が泣いても、どこの誰にも届かなかった。助けを乞いても、ただ虚しく消えるだけ。ぼくは考えるのを何度やめただろうか。
でも、そんな迷える羊のぼくを、あかりちゃんが救ってくれたんだ______
「怖かったでしょう。キミは強い子だ。今までよく頑張ったね」
あかりちゃんはチカラを使ってぼくの脳髄や目や耳をはじめとした受容器官に、電気信号で反応する植物の蔓を張り巡らしてくれたおかげで、ぼくは世界に蘇った。
「まだ、あなたは喋ることはできないわ。でも、安心なさい。あたしがあなたを支えるわ。その恩返しは大きくなったら、返してもらうから」
それからは当時のあかりちゃんの技術が未熟ということもあいまって、当初の症状は植物状態と変わりなかったけど、疑似龍脈を解放してくれたおかげで、ぼくは再び息を吹き返したんだ。
植物状態だったけど、意識はあったから死に物狂いで精神神経である霊障神経【疑似龍脈】を使役する方法を手取り足取り教えてくれたんだ。
「ほうら! すごいでしょう? これが龍脈術。いずれあなたにもできるようになるから。え? なんで、断言できるかだって? それは……未来になったらわかるのよ」
そのかいあって、サイコキネシスやポルターガイストといった念動力の要領でなんとか自身の肉体を式神……操り人形のように使役するといった地獄のようなリハビリの末、今のぼくがある。こんな絶望の闇から救い出してくれた……だからあかりちゃんは、ぼくにとってのヒーローなんだ。あかりちゃんに並び立つのは不可能だけど、恩返しはいつかしてみせるさーーーーーーー
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※野呂井翔は一般人が考えて行動することを100%と捉えると、まだ肉体神経を完璧に再現しておらず40%しか動けないので、龍脈術がなくては日常生活を送れません




