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【ハイファンタジー 西洋・中世】

怪獣のお腹

作者: 小雨川蛙

 

 ある時代に山のように巨大な恐ろしい怪物がいた。

 どこからともなく現れては人間を喰らうのだ。

 それに怪物が喰らうのは誰からも好かれるような心優しく誠実な者ばかり。

 故に人々はこの怪物を恐れると共に強く恨んでいた。

「今は耐えるのだ。いずれ必ず俺が奴を討ち滅ぼしてやる」

 その時代を統べる王はそう宣言した。


 果たして、怪物は王により討伐された。

「腹を裂け。コイツの死体を晒し者にしろ」

 王は高らかに宣言すると兵士達は怪物の腹を切り裂いた。

 すると裂いた腹の中から怪物に喰われたはずの人々が現れたのだ。

 人々は自分達の状況を悟ると次々に慟哭して言った。

「何故、私達をそのままにしておいてくれなかったんだ」

 混乱する兵士達の中で王はただ一人、冷静に腹の中から生還した者に尋ねた。

「何故、そのようなことを言うのだ」

 すると彼らは言った。

「あの怪物の腹は天国だったのです。だからこそ、あの怪物は心優しき人々だけを喰らったのです」

 あまりにも馬鹿げた言い分だと本来なら思うだろう。

 しかし、腹から出てきたのは心優しく誠実な者ばかり。

 彼らの言い分は彼らの嘆きが深まるごとに真実味を帯びてきた。


 不意に。


 王は彼らの首を刎ねた。

 唖然とする兵士達に王は更に言った。

「これは怪物の抵抗だ。そもそも喰われた命が生きているなど、そんな滑稽な話などあるものか」

 悲鳴を上げる人々。

 呆然とする兵士。

 そして、命ずるは王。

「ニ度は言わぬ。奴らの首を刎ねよ」


 かの時代のことを知るすべは現代となってはほとんどない。

 後世に残ったのはただ一つ。

 白々しいほどに語られる恐ろしき怪物とそれを討ち滅ぼした英雄王の物語のみだ。

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