4.凶暴な小悪魔姫
久しぶりの更新です。
リゾレット皇女は兎に角よく食べる。
育ち盛り食べ盛りなので、当たり前と言えば当たり前なのだが、他の家族や同年代の者達と比べても、その小さな身体の何処に入るのかというほどよく食べる。
これにはアリシア皇女はクリストファー王太子殿下も、流石に呆れてしまうのではと心配した。
大概の貴族の令嬢達の食事量は少ない。普段ドレス姿の時はコルセットを使い、ウエストの細さを強調した装いが多い為、自然と食事量の制限をしている。
大きな口を開けて食べる事もマナー違反だし、他人の使用したスプーンやフォークで食べさせられる等と、アリシア皇女にとっては屈辱である。だが、目の前の光景は親子の様な雰囲気で他所の国の王太子に注意など、とてもではないが出来ない。
だが、アリシア皇女は見てはいけないものを見てしまったかの様な光景に、皆唖然と口を開けたまま、只、眺めているしかないのだ。
「美味しいねぇ。リゾレット皇女は苺も好きかい?」
「大好きです!!」
「では私の苺も、リゾレット皇女にあげよう。・・・ほら、あ〜ん。」
「あ〜ん」
実に楽しそうに、ランチのデザートのショートケーキの苺をリゾレット皇女に食べさせるクリストファー王太子殿下。
先ほどから何をみさせられているのかと、アリシア皇女は非常にこの何とも温い状況に、一緒に食事をとっている事自体まで居た堪れなくなってきている。
───わたくしお邪魔ではないかしら?
魔力なしの為、侮られた元婚約者につい最近婚約破棄された妹姫に心を痛めた姉姫のアリシアは、この降って湧いた様なクリストファー王太子殿下の登場に『もしかしたら、リゾレットと良い感じになるのでは!これはもう婚約者候補になるのでは!!』と淡い期待を抱いていた。確かに抱いていたさ!
しかし、これはどういった種類の好かれ方なのだろう!?
どうも、少し疑問に思う光景だ。
『溺愛!?』そう見たらそうも見えなくはない・・・かもしれないが、どちらかというと親鴨が子鴨に餌を与えている様な・・・。何とも微妙な空気だ。
「生クリームもたっぷりが好きかい?」
「大好きです!!」
「そうかいそうかい!そら、あ〜ん。」
「あーん」
実はクリストファー王太子殿下は、リゾレット皇女の口から漏れ出す「大好き!」と言う言葉に、まるで自分に対して言われていると錯覚し酔いしれ、ワザと『大好き』を誘導しているのだ。姑息な手を使った罪悪感も、背徳感が刺激となって、もはや自分でも止められなくなってしまって来ているのである。そんなクリストファー王太子殿下の心の声を姉であるアリシアが知ったら『この〝変態王子〟!!』と罵られ、妹姫と会う事も、姿を見る事も許されないであろう。
「そうだ!チョコレートは好きかい?」
「はい、大好きです!」
「君!チョコレートケーキも一つ追加ね。あとはマロンも好き「大好きです!」」
「はうっ!・・・。」
学園のランチベースのメイドに手を挙げて、追加をメニューを頼むクリストファーはリゾレットから身を乗り出して、瞳をキラキラとさせ「大好き」と言われ、このまま昇天するのではという声を出してしまった。
「くうっ!何て小悪魔な!」
「・・・うん。可愛い小悪魔だね。」
「凶暴な小悪魔だ!」
「「「小悪魔助かる!」」」
ザワめく周囲の様子を見たアリシア皇女は、やはりランチはVIP室じゃないと危険だと判断した。今日は他の小国の王族達がランチ会を行い予約していた為、遠慮して一般貴族のランチベースでランチをとっていた。それは仕方ないが。
可愛い妹姫がまるで見せ物の如く良からぬ虫達から見られている事に、イライラと不快感を募らせていた。普段はボーッと何を考えているかわからない虚無モードなので、そこまで気を張る必要はない。
だが、時々〝可愛いモード〟に入る時がある。
この妹姫は唐突に〝可愛いモード〟が来るので、その時を狙う鬱陶しい輩がチラチラとコチラを覗く様に注目していて気に入らない。
───いつもは「ハズレ姫」とか、陰で嘲笑って罵っている癖に!!許せん!!
アリシア皇女と目が合うと、ギロリと睨まれ慌てて目を逸らす生徒達。
そんな姉姫の苦労を知らぬリゾレット皇女は、ニコニコ頬袋をぷっくりさせるリスの様な顔して、非常にご満悦だ。確実にクリストファー王太子殿下に餌付けされているのは間違いない。
(くっそ〜!ズリいよな)
(・・・羨ましい)
(俺もあーんしたい)