わかばのころ
今日はいちおうR15にしてますがエチはございません(^_-)-☆
仲良しの頃の彼女は同い年のくせにいつもお姉さんぶっていた。
確かに彼女は4月生まれでオレは12月。幼い頃にはそれなりに開きは有ったのだろうが、4年生の2学期最後の日、春香はオレの事を捉まえて頭を撫でながらこう宣った。
「冬樹はおたんじょうびプレゼントをもらったばかりなのに何をサンタさんにおねだりしたの?」
未だに“子供扱い”されて……
「うっせーなぁ!! お前にかんけいないだろ!!」って返したけど……
そのまま春香に拉致されて、春香の家でクリスマスパーティの準備を手伝わされた。
春香の父親は昔、サックス奏者をやっていて……パーティーの席上でクリスマスソングをジャズっぽく演奏してくれた。
その大人な雰囲気にビックリしているオレの頬にそっとキスをくれた春香は「プレゼントの代わりだから」とはにかんだ。
それが彼女との最後の思い出だった。
--------------------------------------------------------------------
サックスを吹く父はカッコ良かった。
今となっては本当だったかどうかすら怪しいけど……有名なアーチストの名を挙げて「初めてのレコーディングの時、右も左も分からなかったアイツの面倒を散々見てやったのもオレだ。それこそ!!こちらに足を向けて寝られないくらいにな! もし、お前が出来なかったら……オレは今でもアイツと組んで……武道館をいっぱいにしていたかもな!」なんて話を良く聞かされた。
幼い私は父の居た世界に憧れ……父をその世界から引き剥がした地味な母と私自身を心のどこかで憎んでいた。
父の強い勧めで子役事務所に入った私は、一世風靡したドラマ『ミタさんのおきて』にヒロインの長女役として出演が決まり……結果、大ブレイクした。
そのおかげで私の周りの状況も生活も一変し……父と二人で東京に出る事になった。
ブレイクしたのは2年そこそこの間だったけど……芸能慣れした始末の悪い父は私の為に個人事務所を立ち上げて私のマネージメントを執り行った。
こんな事をしてしまってはもう止められない……そんな私の最後の主演作はAVで……僅か1年の間に3部作が作られたそのタイトルは『家政婦は幼な妻?!もっこりのオクテⅢ』だった。
この時の私はまだ未成年だったのに……
--------------------------------------------------------------------
あっという間に“遠い人”になった春香はオジサンと二人、東京へ行ってしまった。
残されたオバサンとは離婚したとかしないとか……その内、母の口からも春香の家の噂を聞く事は無くなり、オレはオレで思春期の興味の対象を身近に求めた。
そうした思春期の熱も昔の事となり、中学時代の同窓会に出席する為に、久しぶりで実家に帰った。
ところが母がお見合い写真を持って玄関で待っていたので、開けた扉をバタン!と閉めて、オレは悪友の家に逃げ込んだ。
そのまま同窓会の前夜祭となり、酔いが回ったオトコどもの悪い癖でAV鑑賞会が始まった。
そこで見せられたのは目を疑う姿の春香で……これを観て“立つ立たない”の大ゲンカとなり、結果オレは同窓会を欠席した……
--------------------------------------------------------------------
ようやく普通の人っぽくなった私は……義父の紹介で地元のホテルに従業員として働く事となった。
昔と様代わりした顔にネームプレートは今の“関口”姓。誰も私と気付く人は居ないだろう。
母を幸せにし、「どうしようも無くなっていた」私を拾い上げてくれた義父には感謝してもしきれない。
嬉しくて……
「今はお義父さんに面倒をみてもらっているけど、私、絶対!!ちゃんとするから!! お義父さんやお母さんの面倒を見られる様になるからね!!」と口に出してしまったら……
「大丈夫!私達は二人で助け合っていけるから……春香ちゃんもそういう伴侶を見つけて幸せになりなさい!」と言われて……
そんな事は有り得ないとは思うけど、その言葉が有難くて涙が出た。
だからせめて、今のお仕事を頑張ろうと思う!! ホテリエとして早く一人前になれる様!!
あちらのお客様はラウンジをご使用で……ふふふ、お見合いのお席なのかしら?可愛らしいお嬢様で……相手の方はドギマギされているのかな? もっと自信を持てばいいのにね! あなたも十分素敵なのに……そう!私の初恋の人の様に……
--------------------------------------------------------------------
飯島佳代子さんは写真で見るよりずっと素敵な方だ。そんな人から「谷山さん!」って呼び掛けられると正直ドキッ!ともする。
今まで付き合った二人の女には申し訳ないけれど……オレには過ぎた人と思ってしまう。
それでもオレは手放しで浮かれる事ができない。
いったいなぜなんだ!!
あの日、大喧嘩の後、実家の自分の部屋に閉じこもって酒を呷っていたら涙が止まらなくなった。
そう!!
変わり果てた春香の姿が!!
こんな時まで頭から離れない!!
やっぱり
春香に逢いたい!!
でもあってどうするんだろう??!!
分からない!!
ああ、オレはバカだ!
大バカだ!!
こんな千載一遇のチャンスは……
絶対モノにしなきゃならないのに!!
--------------------------------------------------------------------
「では新郎新婦の共通のご友人であられる飯島佳代子さん、お願いします!」
司会を務める久保マネージャーは実は私のお師匠さんだ!
もう、私の結婚式とあって……ホテルの皆がお祝いしてくれる!!
本当に私!この仕事に就けて良かったと思う!!
そしてこの幸福感をすべてのお客様にお届けしたいと切に思う!!
だから冬樹にもとても感謝している。
今の仕事を続けさせてくれるから……
少しの間、遠距離が続くし、お休みもなかなか合わないけど……
佳代ちゃんがマイクの前に立つまでのちょっとの間、こうして冬樹の事を見つめてしまったら、佳代ちゃんにはすっかりチェックされてた。
「ご紹介に預かりました飯島です。新婦の春ちゃんは私には目もくれず、今も新郎の冬樹くんの事を熱く見つめていらっしゃいますが……冬樹くんだって凄いんですよ!
実は私が新郎新婦に初めてお会いしたのは、私と新郎のお見合いの席で……冬樹くんは私の事を投げ捨てて、いきなり春ちゃんを抱きしめたんです!! これって酷くないですか?」
佳代ちゃんからは「絶対!暴露するからね!!」と宣言され、予想通りに笑いを取られてしまったけど……
「でも、佳代ちゃんはそんな僕たちにもらい泣きしてしまったんですよ」との冬樹のフォローと……「こんな優しい佳代ちゃんは只今恋人募集中です!」との私の仕返しに“照れ照れ”だった。
今はわかばのころ
私達の周りの皆様がどうか幸せであられますように……
おしまい
週末だし優しいお話を書きたくなりました。
しろかえでではありませんけど(^O^)
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!