第六十五話 死闘の幕開け
「はぁ・・・ はぁ・・・」
――俺は死ぬ気で走り続けた。
あの爆発が何かは分からない。だが、嫌な予感がするのは確かだ。
(あそこの角を曲がって・・・ あそこだ!)
レイドはそのまま走り続け、勢いを残しながら医務室の扉を豪快に開けた。
「エレーヌッ! 無事・・・ いや、誰もいない・・・」
レイドは医務室を見渡す。
もぬけの殻ではあるが、先ほどまで人がいたような形跡があった。
(どこへ行ったんだ・・・?)
そこで、レイドはある考えが頭をよぎる。
――もしかして、危険を察知して先に逃げたのでは・・・?
そういうことなら、レイドはこの空間で一人ぼっちとなる。
(不味い、俺も逃げないと・・・)
だが、少し気付くのが遅かったようだ・・・
「ゴ・・・ァ・・・」
「・・・! 誰だ!」
急に、禍々しい雰囲気が辺りを支配し、レイドを押さえつける。
(全く気が付かなかったぞ? しかも、あれは・・・)
「黒き、人間・・・」
――全身、真っ黒の人が現れたのだ・・・!
「レイドォ・・・ ア゛、会イタカッタゾ・・・」
「!? しゃべった・・・? いや、お前は誰だ・・・!」
「分カラナイノカ・・・? ワ゛レノコトヲ・・・」
(まさか・・・ マルクだっていうのか・・・?)
一人称を我と使う人は、マルクしかいない。
しかし、今目の前にいる”奴”は、姿、形、雰囲気と何もかもが変わっていた。
「マルク・・・」
「ソウ! マルクサマダ! ”シンジンルイ”ニ、ナッタノデアル!」
「ハッ! 何が新人類だよ、化け物どもが・・・!」
「ヤハリ、キサマ、ハ、分カッテ、イナイ!」
すると、次の瞬間、黒化マルクは音も無く消えた!
(来たか! どこに行ったんだ・・・!)
レイドは辺りをまんべんなく警戒したが、マルクがどこから攻撃を仕掛けてくるか、全く見当がつかなかった。
「ヤハリ・・・ 遅イ・・・」
(!!! 後ろに・・・ 居ただとっ!)
レイドは本能に従うまま、剣を振り払う。
(当たっていない・・・! 食らう・・・!)
「マズハ、イッ発目・・・」
「うあぁぁっ!!」
――マルクの拳がレイドの左半身にヒットした。
「ヤッパリ、脆イ・・・」
「ア゛ァ・・・! ウ゛ゥァ、」
(痛い! 痛い! 腕がぁ・・・! 腹が・・・)
レイドの左腕はあり得ない方向に曲がり、左脇も筋肉がえぐれていた。
血は、止まることなく流れ続けている・・・
「大丈夫ダ・・・ モウ片方モ、同ジニ、シテヤル」
そして、マルクはレイドの体をつかんだ。
「放・・・ せ・・・」
マルクは止まることなく、右腕を・・・ 折った。
「ああああああああああっっ!!!」
「ドウシタ? モウ終ワリカ?」
レイドはもう剣を持つことは出来なくなり、その場で倒れ伏せる。
――ああ、俺は死んでしまうのか。
自分の実力を高く見すぎていた。いくら学園に敵が居なくても・・・
上は、常に誰かがいる。
「次ハ、足・・・」
「う、ぅ・・・」
レイドはなすすべも無く、引きずられる。
「Ω φλόγα ... δώσε μου δύναμη!」
「・・・ン? グ、ァ・・・?」
詠唱が聞こえた次の瞬間、魔術がマルクの肩を貫いたのである!
マルクは危険を察知したのか、後ろに下がる。
「レイド、お待たせ~ 死んでない? 大丈夫かい? お~い?」
ロイク・・・
「へへっ、だから一人で突っ込むなと言ったんだよな? レイドよ」
カイン・・・
「私も、影ながら参戦するぞ!」
「わ、わたくしもよ! こ、こう見えても魔術師なんだからね!」
マリー・・・ と、れ、レシティア?
「僕も助太刀するよ。まあ、呪いが効くか分からないけど?」
ロベルト・・・ そして、
「さあ、敵は奴一匹です! 皆で掃討しましょう!」
エレーヌ・・・!
「いやいや、死んでなくてよかったね~ エレーヌなんて顔が真っ青だったよ?」
(そうだ、エレーヌはなんで一緒にいるんだ?)
「ロ・・・ ヴ、ゲホッ、ゲホッ!!」
「あー、無理するんじゃないよ? 後でゆっくり話すから」
「エレーヌ、レイドの手当てをして。僕たちはあの化け物を何とかしよう~」
「「「オウっ!!!」」」
そして、ロイク率いる部隊は再び臨戦態勢に移った。
「・・・厄介ダナ。コレハ骨ガ折レソウダ」
「え~? 骨折で済むの? 大丈夫、ちゃんと殺してあげるからね」
「ロイク兄貴、それなんか、言葉の意味はき違えてないっすか?」
「・・・・・・」
そんな会話をしているうちに、後衛組も準備が完了し、エレーヌはレイドの治療を始めた。
「Θεραπευτική δύναμη ... για μένα.」
「エレーヌ・・・ すまない・・・」
「怪我人は黙っていてください。 ・・・バカ」
マルクとの、最期の戦いが、始まる・・・




