第六十話 魔術と呪術の戦い
~マルク側 控室にて~
「くそっ! ヤン! のうのうと負けるとは何事かっっ!!」
「も、申し訳ございません!! マルク様!!」
マルクは頭を搔きむしりながら、怒りに染まった目でヤンを睨みつけていた。
あの頃のマルクとは、もう違う。薬物にでも狂ったようだ。
「良いか! 我はこの試合に勝つために! わざわざ下賤な平民と下級貴族を選んだんだっ!」
「ひ、ひぃ・・・」
「なのに! その貴様らが負けてどうする!!」
「ごぼえぅ!」
マルクはヤンを一発、また一発と殴った。それも、顔が変わるくらいに。
そして、ロベルトの方に顔を向けた。
「いいか・・・? ロベルト、貴様が負けると我は不戦敗となる・・・ 分かっているな?」
「ええ、もちろん。分かっていますよ」
ロベルトは静かに、それだけを伝える。
「良いか? どんな手を使ってもでも・・・ 勝て」
「どんな手でも、ね・・・」
「ふふふ、待っていろよレイド・・・ ”あの力”があれば、もう負けることは無い・・・」
マルクはもうロベルトの話なんて聞いていない。
ただ、不敵な笑みを浮かべながら、突っ立っているだけであった・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時は少し進み、ついに第二回戦が始まろうとしていた。
「エレーヌ~ お兄ちゃんも応援しているぞ~!」
レイドの隣にはロイクが座っていた。
観客たちも、主席と次席の戦いで大いに盛り上がっている。
「やあ、気分はどうかな? エレーヌ」
「・・・まあ、ぼちぼちですかね」
「僕はね、ずーっと、ずっと、君の実力が見たかったんだ。期待しているよ?」
「何を偉そうに・・・」
「両者そこまで! 試合の準備を始めてください!」
試合監督の制止により、ロベルトとエレーヌは戦いの準備を始める。
といっても、両者とも杖を取り出すだけだが。
「それでは、よーい、始めっ!!」
ついに、戦いの火蓋が落とされた。
「A halottak lelkei... nekem...」
「させませんよ! はぁっ!!」
(くっ、無詠唱魔法か・・・!)
エレーヌが詠唱魔法を行使せず、いきなり無詠唱を使ったことで、ロベルトの意表を突いた。
ロベルトは始めていた詠唱を止めるしか手が無い。
後手に回ってしまったのだ。
「エレーヌ、成長したじゃないか・・・ お兄ちゃんは嬉しいぞ~!」
(よし、初動は成功だ。このまま押し切ってくれ・・・)
レイドはそう祈った。
「チュドンッ! チュドンッ! ドドドドドドドドドッッ!」
エレーヌの更なる追撃がロベルトに襲い掛かる。
「くっ・・・!」
(な、なんて火力だ・・・ 近づけない!)
そのままロベルトは押され続け、ついに端まで追いやられてしまった。
(今です・・・! 極大魔法を・・・!)
「Ω, ας έρθει η καταδίκη στον λαό του! Ο μεγάλος βομβαρδισμός!」
「まずいっ! Szellemek! Védjetek meg!」
「ドガァァァァァァンッ!!」
エレーヌの放った爆裂魔法がロベルトに直撃した。
「やったか・・・!」
「・・・いいや、まだ倒れていないね~」
ロイクの顔は険しいままだ。
「いいや、いいや、危なかった~」
ロベルトはあの攻撃を受けてもなお、全くの無傷だったのである。
(手ごたえ無し・・・ ですか。この人は一体・・・?)
「さーて、僕の反撃といこうかぁ。Halál! Hadd vigyenek el a szellemek!」
「・・・! なんですかっ! これは!」
エレーヌの周りに蒼い炎が纏わりついた。
明らかにエレーヌの機動力が遅くなっている・・・!
(彼、こんなにも強力な呪術を・・・! 早く浄化魔術を施さなければ・・・!)
「くっ・・・ Καθαρίστε με...」
「させない! 亡霊たちよ! もっと苦しめるんだ!」
「う、ぁっ・・・ ああぁぁっ!!」
エレーヌはついに、もがき苦しみ始める。
ロベルトは少し、ニタァっと笑った気がした。
「エレーヌッ!!!」
「待て! レイド! ・・・今は神聖な試合だよ。耐えるんだ・・・」
(クソッ・・・!)
「これで止めだよ! Második eljövetel! A nagy átok, a feketedés!」
「ああああぁぁぁあっっ!! 腕がぁ・・・ ぁ・・・」
ついに、エレーヌは左腕を抱えたまま、倒れてしまった。
「おい・・・ これが、試合なのか・・・?」
「大丈夫かよ、あの魔術師。尋常じゃない苦しみ方だったぞ・・・?」
余りの残酷さと衝撃に、観客も戸惑っている。
「りょ、両者そこまでっ! ただ今の勝者、ロベルト!」
ロベルトがそれを聞き終えると、静かに闘技場を去る。
辺りは、とても静かだった・・・




