第一話 この世界のイレギュラー
「・・・・・・苦しい。 悲しい。 誰か・・・ 助けてぇ・・・」
誰の・・・ 声だ?
水の中にいるような心地だ。 辺りに色はない。 何もない。
「死にたくない・・・ しにたくない・・・ たすけて・・・」
うう・・・ ここは、どこだ?
体を動かし、手を動かし、必死にもがいてみる。
いや、違う。体が・・・ 無い! どういうことだ!
すると、さっきの声とはまた違うものがこちらに話しかけてきた。
「あなたはレイド。貴方は命を落としてしまったの。聞こえますか? 貴方の婚約者の悲鳴が・・・」
レイド? 婚約者? 悲鳴? 何を言ってるんだこいつは。いや、お前は誰だ?
「貴方が死んでしまったせいで、貴方の婚約者、エレーヌは更なる苦痛を味わっています。死にたくても死ねない。成仏できない」
俺は・・・ 死んだのか? エレーヌとは、誰のことだ・・・?
「彼女は、苦しみを紛らそうと暴れ、破壊の限りを尽くしています・・・」
「貴方にもう一度機会を与えましょう。死の運命を変え、エレーヌを助けるのです。そして、世界を破滅から救うのです!」
世界の破滅? 何が何だか分からない。
すると、「俺」が段々と何かに飲み込まれていっているのに気がついた。
待て! まだ話が終わっていないぞ! 何の話をしているんだ!
それでも、止まらない。気が、遠のいていく・・・
第一章 狂人たちとの出会い
「・・・きろ・・・・・・起きろ!!」
「うわあああ!!」
レイドは叩き起こされた。
「いつまでもこんなところで野宿していると、賊に身ぐるみをはがされてしまう。さっさと出立するぞ」
「カイン・・・ もうちょっといい起こし方は無かったのかよ・・・」
レイドはぐったりと起き上がると、丘の下にある街を眺めた。
「あそこに居たころは何とも思わなかったが、今眺めてみると感慨深いな」
領都エッセン。 レイドはエッセンを治めている貴族の息子だった・・・
しかし、昨晩屋敷を追放されてしまったのである。
それには、レイドにはあるものが無かったからだ。
「おいレイド、お前はどうしてそこまで無能なんだ?」
「あんな子、産まなければ良かったのに!」
(うるさい。愚かなのはお前ら豚どもだろうが!)
レイド・フォン・ユーラル、それが彼の名前だ。彼は生まれつき魔力がほとんど無く、家族から見放された日々を送っていた。
少しでも家族に認められようと、幼いころのレイドは限られた環境の中、政治、経済、軍事学など、沢山のことを身に着けた。しかし、それは功をなさず・・・
「政治? フーン? レイド君は勤勉ですねえ? 魔法が使えないから無能であることには変わりないけどな。 ガハハ!」
「ですが、文官としては・・・」
「無理無理。お前は一族の恥さらしだ。そんなお前が学校に行けるわけがないだろう?」
兄は軽蔑しながらこう言った。
こんな感じで取り合う気すら感じない。
それに比べて、
「せ、先生。こんな感じですか?」
「素晴らしい! もう炎魔術を身に着けましたか!」
「ははは! 俺はやはり選ばれし人間なのだな!」
(どうして、努力もせずに威張れるんだよ・・・ これが才能の差ってやつか・・・)
レイドは自分の才能のなさに打ちのめされていき、彼の心は次第にどす黒くなっていった。
そうして、家族に認められるという目標を捨て、ただ無気力に勉強を続ける毎日。 そんなレイドもついに13歳になる日を迎える。
珍しく、晩餐会に呼ばれた。ついにこの時が来たのだ。
「レイド、13歳の誕生日を祝おうではないか?」
レイドの父、カストルが言った。
「お前に婚約者ができた。良かったな? これで少しは役に立てたのではないか? これでここの家からもお別れだな。あちらで過ごしてもらうぞ」
捨てられた。 ゴミのように。
常識的に、婚前なのに同居することは無い。 これは異常なのだ。
「・・・了解しました」
こうして、歩いて行けと馬車も与えられず、野宿してるわけだ。
今一緒にいるのは、悪友のカイン。彼はユーラル家の使用人だったが、レイドと意気投合。一緒に家を飛び出してきたわけだ。
「それにしてもお前の父は非情だよな。路銀はたったの銀貨50枚。これで5日もかかる場所へ行けってことだぜ」
カインは空を見上げながら言う。
「エレーヌ・バイセン様だよな。お前の婚約者」
「ああ、バイセン家の長女だそうだ」
「バイセン家って・・・ あの戦闘狂と呼ばれてるやつらだよな? 大丈夫かよ」
問題はそれではない。彼女の名前がエレーヌという点だ。
「あの夢」に出てきた名前と同じだ。
(俺は、死んでしまうのか・・・? いや、すでに一回死んでいる?)
まだまだ謎が多い。これから何が起きるのか・・・
レイドは別の意味で戦々恐々としていた。
先に述べておくが、レイドは戦えない。カインも戦えるが強いというわけではない。彼らの道中は波乱に満ちるのはもう・・・
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