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――これしかなかった。
残骸に埋もれるような形で機体を固定したヨシナリはアノマリーを構えてそう思っていた。
これは彼にとっても不本意な形だったが、埋もれて消えるよりははるかにマシだと思ったのでSランクの道を抉じ開ける役を買って出たのだ。 あの遠隔操作している腕は破壊する事は可能だが、即座に補充している点からも破壊は隙を作る以上の意味がない。 つまりは破壊する場合はそのまま押し切るつもりでないと割に合わないのだ。
そしてもう一点。 あっさりと腕を補充している所を見ると明らかに二本以上を操作する事は可能だろう。
恐らくだが、感知できない形で伏せている可能性が高い。
そうであったならAランクプレイヤー達があっさりやられた理由にも納得がいく。
彼等は知らずに何らかの干渉を受けていた可能性がある。
現状、ヨシナリの機体のセンサーやレーダー表示には見えている腕以外は反応しない。
捉えたいのであれば姿を現すのを待つしかなかった。 炙り出す手段はなくはなかっただろうが、それをやってしまうと即座に狙われてしまう。
今のヨシナリには何もかもが足りなかった。
機体性能、技量、火力。 少なくとも上空で広がっているハイレベルな戦いに割って入るのは不可能だ。
だから、今の自分にできる精一杯をする事にしたのだ。 この後の展開は何となくだが読めていた。
Sランクとエネミー。 どちらが勝利するか?
総合力はエネミーの方が上だが、Sランクの刃は充分に届き得る鋭さを秘めている。
なら、道さえ作ってやれば後は勝手に撃破まで持って行くだろう。
Sランク、エネミーの両者とも有人操作である以上、精神力、集中力は持続はしても無限ではない。
疲労による判断力の低下は必ず起こる。 それを避ける為にどこかのタイミングで勝負を決めに行くはずだ。 Sランクは機体の特性と戦い方を見れば一か八かの博打――その最大戦速を用いた突撃だろう。
エネミーは周囲に伏せているであろう予備の腕を用いた飽和攻撃。
恐らくはSランクが勝負に出るタイミングで仕掛けるはずだ。
焦って仕掛けてもあの機動力を捉えるのは至難。 なら勝負に出たタイミングで確実に仕留めるのは非常に合理的だ。 狙うのは決着を狙う瞬間。
その時はそう待たずに訪れた。 Sランクが何らかの手段で機体の残骸を囮として飛ばしたのだ。
狙いを散らす目的なのは明白だが、明らかに何度も使える手ではない。
勝負に出た。 ヨシナリはアノマリーを構える。 狙うのは本体ではなく腕。
エネミーの真下からSランクの機体がまるで流星のように天へと駆け上る。
そしてそれを迎え撃つように無数の腕が銃口を並べて待っていた。
――ここだ。
一応、連射できるがかなり離れているので闇雲に撃っても当たらない。
最低でも二基は潰しておきたい。 ふわわが破壊していたのを見ていたので当てれば充分にやれる。
発射。 ヨシナリは自らの放った銃弾の行方を確かめずに次弾を発射。
そろそろ気付かれるか。 三発目を放ったと同時にいくつかの銃口がこちらを向く。
機体を完全に固定しているのでヨシナリは動けない。
だから――
「頼む」
「任せろ!」
相棒に任せる事にしたのだ。 マルメルが巨大な盾を持って射線上に割り込む。
盾は放たれたレーザーを僅かな時間を押し留めた。 その間に更に二発撃ち込む。
「クソ、やっぱこの盾じゃ無理――」
盾が耐え切れずに熔解し、マルメルの機体が貫かれて爆散。
ヨシナリの機体も貫通したレーザーを受けて肩と脇腹部分に穴があく。
大破しなかったのが奇跡だなと思いながら、銃口を下げずに狙いをつける。
どうなったと結果を見てみれば全弾命中していた。
「は、我ながら中々やるじゃん」
最期の一発を放ったと同時にレーザーがヨシナリの機体を射抜き画面が暗転。
イベントから弾かれる瞬間、ヨシナリが目にしたのはSランクの機体がエネミーを刃で貫いている姿だった。
「……ふぅ」
小さく息を吐く。 撃破された事により、ヨシナリのアバターはユニオンホームへと戻っていた。
「お疲れ。 大活躍だったな」
「ヨシナリ君お疲れー」
先に戻っていたマルメルとふわわが労いの言葉をかけてくるのにヨシナリはあぁと苦笑で応える。
やれる事はやったつもりだ。 これでダメなら仕方ない。
そう言えるぐらいには出し尽くしたと言い切れる内容だった。
「で? イベントの方はどうなったんだ?」
「うん、Sランクさんがエネミーをやっつけてたよー」
ふわわがウインドウを可視モードにしてヨシナリの前へと持ってくる。
そこでは敵のいないフィールドにSランクプレイヤーだけが空中で佇んでいた。
周囲に敵影はなし。 味方の残りも数えられる程度しか残っていないが、何が起こるか分からないのでハンガーに預けて機体の修復に入っていた。
「どう思う?」
「……終わったと思いたいな」
マルメルの質問にヨシナリはそう返す。
どちらにせよさっきのエネミーで終わらないのならどうしようもない。
「うーん。 ウチは終わったって思うかな?」
「根拠は?」
「何となく!」
「はは、なんだそりゃ」
流石に運営もあれ以上の敵を出すつもりがなかったのか、その後の時間は何も起こらずに進み続け――
イベントの残り時間が秒読みに入り、そしてゼロになった。
同時にイベントクリアのアナウンスが流れ、大量の報酬が参加した全てのプレイヤーに配られた。
あれほど長いイベントだったが、終わってみるとあっけないもので報酬のPとGを見てもあまり実感が追い付かない。 マルメルはPが入っていた事に興奮していたが、ヨシナリは勝った気がしなかった事もあって反応が薄い。
「何だよ、ヨシナリ。 嬉しくないのか?」
「いや、嬉しいんだけど、普通にやられた後にクリアとか言われてもちょっと頭が付いてこないな」
「はは、らしいな。 取り合えず、報酬で何を買うか考えないとな」
「GはともかくPは貴重だからしっかり考えて使えよ」
マルメルは分かってるってと返した後、時計を見てそろそろ落ちると言ってログアウトした。
「じゃあウチも落ちるわ。 今日は楽しかったけど疲れたよー。 またねー!」
続いてふわわもログアウト。 ヨシナリは小さく息を吐く。
正直、あまり勝った気がしないので彼の胸中は複雑だったが、今は貰えた報酬を素直に喜ぼう。
「……俺も落ちるか」
小さく息を吐くとヨシナリはログアウトの操作をしてゲームを後にした。
誤字報告いつもありがとうございます。
今回で一旦終了となります。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
次回、次々回はイベントの解説回となっております。
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