84
「先行する。 意地でも生き残るぞ!」
マルメルは背のブースターを噴かして加速しながら突撃銃と腰の短機関銃を連射。
無理に撃破は狙わず、足や武器を破壊して戦闘能力だけを削ぎ落す。
ヨシナリはマルメルの撃ち漏らしをフォローしつつその背を追いかける。
物陰、正面、建物の上とあちこちから敵が湧いてくる状況。
「これ、前の時と全く同じだな。 信じられるか? あれからまだ二ヶ月しかたってないんだぜ?」
「俺もそれはちょっと思った。 ただ、今は前の時と違う。 もう少し粘れば生き残る目がある」
ヨシナリが当てにしているのは視界の端に映っているタイマーだ。
Aランクの参戦まであと少し。 Sランクはほぼ存在しない現状ではこのゲームで最強クラスのプレイヤー達だ。
彼らの参戦は戦況を打開できるかは何とも言えないが、少なくとも好転させる事は可能なはずだ。
「あぁ、Aランクか。 後三十分もないじゃん。 ……ってか気が付かなかったけど、もうそんなに時間が経っていたんだな」
「俺もびっくりだ。 援軍が来れば俺達の生き残る目も出てくる。 もう少しだ。 今回は意地でも最後まで生き残ってやる」
「だな。 俺もここまで来て脱落はちょっと悲しいし、意地でも生き残ろうぜ!」
そう気合を入れたのは良いが状況はあまり良くない。
空中ではなく地上を移動しているのは少しでも狙われる可能性を減らす為だ。
ここまでの乱戦だともうどこから弾が飛んでくるかさっぱりわからない。
特に空中だと下にも警戒しなければならない上、寄生トルーパーは飛行が可能な上位機種ほど厄介だ。
それらから狙われる可能性を減らす意味でもマルメルと隠れるように地上を移動していた。
撃破は無理に狙わず、障害物として捌くにとどめ、とにかく自分達が生き残る事に全力を傾ける。
――が、長時間の戦闘による消耗は彼らに精神的な疲労と機体には摩耗を齎す。
「マルメル、機体と武器はどうだ?」
ヨシナリが物陰から飛び出してきた寄生トルーパーの胴体を撃ち抜きながらそう尋ねる。
同時に自分の機体をチェック。 メインの狙撃銃――アノマリーに関しては実弾はあまり残っていない。 予備の武器はダガーと大型拳銃が二挺と拳銃用、突撃銃用のマガジンが各三。 手榴弾の類は使い切ってしまった。 推進装置も酷使した所為か一部エラーを吐いているので出力が安定しない。 狙撃に徹していたので比較的ではあるが消耗は抑え目だ。 とはいっても状態が悪いのは明らかで補給と整備が必要だがこの状況でできるのかは非常に怪しい。
「俺の機体はスラスターは何個か死んでてメインのブースターもヤバいな。 飛ぶのは正直しんどい。 武器は突撃銃用のロングマガジンがあと二つ。 腰の短機関銃は弾がないからもう駄目だ」
言いながら腰にマウントされた短機関銃を切り離す。
「後は予備のダガーとこれだな」
取り出したのは大型のリボルバーだ。 銃身部分が太く、肉厚な感じがとても格好いい。
「どうしたんだそれ?」
「買ったんだよ。 格好いいだろ?」
「あぁ、いいなそれ」
正面を塞ぐように現れた寄生トルーパーと蟻型エネミーを前者をマルメルがハチの巣にし、後者をヨシナリが撃ち抜く。 上からも来ていたので鬱陶しいと思いながら連射。
一体、二体、三体と撃破し――ガキンと金属音。 弾が切れた。
ヨシナリは内心で小さく毒づき大型拳銃を抜き、連射して移動。
マルメルも最後のロングマガジンを突撃銃に叩き込んでいた。
「で、何かプランはあるか? 闇雲に逃げるだけじゃジリ貧だろ」
「防壁の方だとまだ味方が生き残ってるだろうし、健在なら弾薬の供給役が往復しているはずだから上手く行けば補給も期待できる」
「なるほど。 それでさっきから隠れながら戦闘の激しい所に向かってたんだな」
「あぁ、次の広場を抜けたら――」
ヨシナリの言葉は途中で止まる。
何故ならそこでは寄生トルーパーと蟻型エネミーが大量に待ち構えていたからだ。
「おいおい、連中待ち伏せなんて真似できるのかよ」
「ここは戻って別ルートを――」
振り返ると敵が追ってくる気配。 そこで気が付いたどうやら最初から追い込まれていたのだと。
「あー、なんかデジャヴを感じる展開だな。 ヨシナリ、俺が――いや、今回はその必要はないようだ」
「なに?」
マルメルの言葉の意味が掴みかねていたヨシナリが上を見ると背に機体を乗せたキマイラタイプが待ち伏せていたエネミー群にエネルギー式の機銃を連射して薙ぎ払い、上空を通り過ぎる際に手榴弾をばら撒く。 乗っていた機体が飛び降りて手近な敵をブレードで切り刻む。
「ふわわさん?」
よく見れば見慣れたふわわの機体だった。
「お待たせ! 援軍を連れて来たよ!」
背後から突撃銃を乱射しながら敵が突っ込んできたがヨシナリ達を守るように重装甲のソルジャーⅡ型が射線に割り込み持っている大楯で防ぐ。 僅かに遅れて空中のエネミーは何処からかの狙撃で次々と撃ち落とされる。
「君達、大丈夫か? 我々はユニオン『栄光』の者だ。 援護するからこのまま防壁まで後退を」
大楯を持ったⅡ型を操っているプレイヤーでプレイヤーネームは『イワモト』。
「いやぁ、助かったよ~。 たまたまそこで会ってね。 遠くでヨシナリ君たちがピンチだったから助けて欲しいってお願いしたら来てくれたんだよ!」
「いや、マジで助かりましたよ」
マルメルは少しだけ安心したように息を吐き、ヨシナリも同意するように頷く。
「話は危機を脱してからにするといい。 私が敵を引き付ける。 ツガル君が先導してくれるから付いていくといい」
イワモトがヨシナリ達に下がるように促し、ツガルが機体を変形させてこっちに来いと手招きする。
「そういう訳だ。 センドウさんが援護してくれるから道中は安心していいぞ」
「すいません。 助かります」
「いいって、この前の勝負した仲だろ? それにこの段階になると味方は一機でも多い方が良い」
どちらにしても機体が限界だったので一度下がらなければならない。
ヨシナリ達は素直に言葉に甘えてツガルに付いて防壁を目指す。
振り返ると殿で残ったイワモトが盾を構えながら散弾銃で敵を砕いていた。
「寄生トルーパーは半端にやっても意味ないから散弾銃で粉々にするのがいいんだとよ」
ツガルのそんな説明を聞きながら移動。 センドウの支援は見事なものでヨシナリ達の移動の妨げになるようなエネミーは次々と撃墜されていく。
敵なら厄介だが、味方にすると非常に頼もしいなと思いながら視線を前に向けると味方が集まっている防壁と構築された拠点が見えて来た。
誤字報告いつもありがとうございます。
宣伝
パラダイム・パラサイト一~二巻発売中なので買って頂けると嬉しいです。




