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――崩れて来た。
サリサは内心で小さく溜息を吐いた。
ミサイルで上から圧をかけさせていたエネミーからの反応が次々とロスト。
どうやら基地にまで踏み込まれたらしい。 思ったよりも早かったというのが素直な感想だった。
ジョゼの方を確認するとこちらも拮抗している状態で思ったほどの戦果を挙げられていない。
なるほど。 甘く見ていたつもりはなかったが、評価を上方修正しなければならない。
上位のランカーの大半を抑えた上で圧殺というのが彼女の策だったが、ここまで頑張るとは思っていなかった。
サリサ自身、少しムキになっていた面もあった事もあってこの膠着を許してしまった事は否めない。
そろそろギアを上げて行こう。 改めてグロウモスを観察。
射線が見えているとはいえ、こちらの発射兆候をキャッチして合わせる技量は素晴らしい。
可能であれば撃ち合いだけで制したかったが、そろそろ時間切れだ。
結果は変わらないとは言え、一介のプレイヤーがオペレーターの相手にここまでやれるのは本当に素晴らしい。
こういったプレイヤーを見ると日本サーバーも捨てた物ではないと思う。
「ふぅ」
小さく息を吐いてレールキャノンを構える。 モードを変更して発射。
次の瞬間、ケイロンとグロウモスの機体が砕け散った。
――不意にケイロンとグロウモスの反応がロスト。
「何があった!?」
ヨシナリは反射的にそう叫ぶ。
目の前の敵にかかりきりで詳細まではモニターできてなかった事もあって困惑は強い。
「すまん。 あたしのミスだ!」
ポンポンが牽制射撃を入れながら答える。
「謝罪は後で。 それよりも状況を!」
「バースト射撃だ」
「ばっ!? あれで!? 嘘だろ!?」
ポンポンの返答は簡潔で分かり易かった。 それだけで全てを察した。
レールキャノンによるバースト射撃。
そんな物を使われたら一発撃ち落とすだけで精一杯だったグロウモスに処理できるわけがない。
しかもあの威力で三連射なのだ。 いかに堅牢なケイロンでもどうにもならない。
加えてあの狂った誘導性能なのだ。 躱すのも不可能。
つまり対策を練らないと狙われた時点で詰む。
さっきまではグロウモスが迎撃、ケイロンが足を使って間合いを詰め、ポンポンがセンサーリンクで情報を集めつつ牽制で抑えられていた。
その前提が崩された以上、別であの指揮官機を抑える奴が必要になる。
悩みはしたが、判断するまでは直ぐだった。
「俺は指揮官機を抑えに行きます。 ここは――」
「言わなくてもいい。 我が戦友、魔弾の射手よ。 あの走狗は我らが闇の底へと沈めて見せよう」
言い切る前にベリアルが任せろと笑う。
「そうやねー。 戻ってくるまでに終わらせとくわー」
「いいや、さっさと片付けて戻って来いよ!」
ふわわはいつも通り、ツガルは半分本気といった様子だ。
最後にユウヤが行けと言葉で背中を押す。
「なるべく早めに戻ってきますよ!」
そう言って加速。 ポンポンが居る場所からはそこまで離れていない。
加速するとすぐにシックスセンスの探知エリアに反応が現れる。
敵機がレールキャノンを発射。
ポンポンが盾で受け止めるが、衝撃を完全に殺しきれずに大きく吹き飛ばされる。
敵機のリチャージの隙を突く形でアシンメトリーで銃撃。 敵機は滑らかな挙動で回避。
「大丈夫ですか?」
「まだ大丈夫だ! ただ、こんな調子で受けてたら盾はともかく機体が保たないゾ!」
――マジか。
ちらりと視線を向けるとはっきりとは見えないが、シックスセンスを使えば輪郭は見える。
確認してゾっとした。 あの何をやっても碌に傷が付かなかった盾が凹んでいるのだ。
それでも破損していないのは流石だ。
「どうする?」
「流石に情報不足なんで必勝とまでは行きませんが、有効そうなのは複数で畳みかける事ですね」
必中のレールキャノンは当たれば即死の破壊力ではあるが、銃口は一つで狙えるのは一人だ。
複数で圧をかけて発射の隙をなるべく与えない、もしくは発射のタイミングを狙ってターゲットにされなかった残りが仕留めに行くぐらいしか思いつかなかった。
あのレールキャノンの必中のカラクリに関しても理解はできている。
指揮官機が背面から無数のフレアを発射。 赤い照明弾のような物が弾け、風に乗って周囲へ散布。
ヨシナリは機体にエーテルを纏って防御。 完全に影響がなくなったと思われるタイミングで解除
こうすればマーキングはされないと思いたかったが、そう上手くいかなかったようだ。
機体表面から微弱な磁場のようなものが観測される。
――マーキング自体はどうにもならないか。
敵機は僅かにヨシナリを注視した後、小さく首を傾げた。
何だ?と疑問を抱いたが敵機の反応は即座だ。 ラインが形成。
銃口とホロスコープが繋がる。
「狙いは俺かよ!?」
エネルギーを充填。 発射。 ヨシナリは即座にイラを構えて盾に。
衝撃で機体が軋むが、イラは無傷だった。
「すっげ、本当に何で出来てるんだこの剣は?」
ユウヤには感謝しかないと思いながら防御自体は何とかなるが、防げるとは言え衝撃自体は殺せないので機体にダメージは蓄積されるのだ。 長引くと剣は無事でも機体が保たない。
加えてイラの内部にエラー。 折れないが内部の機構にダメージが入って変形が出来なくなりそうだった。
――ってか完全に防いでこれか。
ステータスを見ると関節を始め、各所にダメージ。 一回受けただけでこれだ。
それなりの数を防いでいるポンポンがまだまだ元気なのはフレームの堅牢さの差だろう。
ともあれ、これで一方的にやられる事だけは避けられる。
「ヨシナリ! 無事か!?」
「何とかですが! ただ、長くは保ちません、挟んで潰します」
それ以上のやり取りは必要なかった。 ポンポンが突撃銃を連射しながら前に出る。
応じる形で敵機がレールキャノンを構えて発射。
エイムからエネルギー充填、発射のプロセスがあるにも関わらずトータルで一秒前後なのは一体何なんだ?
グロウモスも大概だが、こいつに限ってはそれ以上だった。
ただ、例のマーキングのお陰で精度に関しては無視できるが故のエイムなのだろうが、エネルギーの充填速度に関しては納得いかなかった。
マルメルという分かり易い比較対象が居るからだ。
相棒のハンドレールキャノンの場合は充填だけで三秒強は使う。
その為、充填、エイム、発射の順番で可能な限りロスを減らしていた。
対する敵機はエイムはそこまで重要ではない事もあって驚くほどに隙が少ないのだ。
誤字報告いつもありがとうございます。
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