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ミサイルの発射自体は停止していないが明らかに照準が合わなくなった。
同時に敵の統制にも乱れが生まれている。
陣形――鶴翼に近いこちらの突進を受け止めるようなエネミーのそれが大きく崩れたのだ。
それを見てタヂカラオは無意識に小さく振り返る。 どうやら首尾よく敵の指揮官機を発見したようだ。
これで突破が少し楽になったのは良いのだが、内心で小さく溜息を吐く。
復刻ミッションに関しては何から何まで思い通りに行かない。
ここまで想定外に遭遇するのは何かの呪いなのだろうかとすら思ってしまう。
――ぼやいても仕方ないのだけど、準備に力を入れたんだけどなぁ……。
弱気な気持ちをどうにか押し込めてタヂカラオはやや強引に意識を切り替える。
敵機は1300機前後。 対するこちらは200と少し。
正面から当たっては確実に返り討ちに遭う物量差だが、相手がプレイヤーではなくエネミーならやりようはある。 基本的にエネミーの種類は元のイベントからの据え置きだ。
推奨人数以下なら敵性トルーパーも現れるのだが、今の所は見当たらない。
恐らくは拠点に配置されていると見て間違いないだろう。
それは後で考えるとして今はここを抜ける事だ。 数が数なので密集して突破が最適解。
可能であれば損耗は三割までに留めたい。 それ以上だと拠点の攻略に支障が出るからだ。
後に考えるといった理由はその拠点にある。 拠点の位置自体は据え置きだが、種類はランダムだ。
イベント戦と同じで基地の種類は複数存在し、それによって難易度が変わって来る。
まずは生産拠点。 これは一番の当たりだ。
エネミー、敵性トルーパーの数は最も多いが、陥落させた時のリターンも最も大きい。
トルーパー用のメンテナンスハンガーと装備の生産装置が使えるので修理だけでなく補給まで行える上、機能を掌握すれば橋頭保として大いに役立つからだ。
生産ラインがエネミーかトルーパーで使える設備に差異はあるが、どちらにしても整備は可能なので是非とも一つは落としておきたい場所だ。
次に通信設備。 これはこちらの位置をエネミー間で共有する代物で基地の索敵範囲内に居ると無尽蔵のエネミーを送り込んで来る非常に鬱陶しい設備となる。
潰しておいた方がいい場所ではあるが、落とした際のリターンが少ない事もあって今回のように少人数での挑戦となると可能なら無視する方向で纏まっていた。
最後に生産、通信の全てを併せ持ったハイブリッドな設備。 これは最悪だ。
理由としては常駐戦力が他と比較にならない点。
エネミー、トルーパーは当然のように居るが、メガロドン型が最低一機は防衛に張り付いている。
ただ、この設備はこのマップの中枢への連絡通路が存在している事もあって攻略は必須となるのだ。
その為、最低でも一つは場所を把握しておきたい施設でもある。
――予定通りに進んだのならだが。
本来なら部隊を二分割して近くの基地へと接近し、種類を判別。
それによってどちらから処理するかを決める、もしくはスルーするかの判断を協議するはずだった。
開始早々に割り込んで来たあの機体によって全て台無しにされてしまったが。
こうなった以上は突破して敵の基地を強引に奪って立て直しを図るしかない。
ヨシナリ達が勝つにしろ負けるにしろ無傷では済まないのだ。
そんな彼等のケアを直ぐにできる体制を整えなければならない。
もしも戦いが長引くのなら基地の機能を使って支援する事も可能だろう。
今のタヂカラオにできる事は敵を突破した先にある拠点が生産拠点である事を祈るだけだった。
空から降って来るミサイルを躱しながら前を見据える。
もうエネミーは目の前で数秒で有効射程だ。 シックスセンスのセンサーリンクはまだ有効。
やれる準備はやった。 後は突破するだけだ。
「敵の左翼が一番崩れているからそこから突破を図る。 一機でも多く生き残ってくれ!」
タヂカラオが指示を出し終えたと同時に味方が攻撃開始。
ミサイルやレーザーなどの攻撃範囲の広い武器で薙ぎ払う。
タヂカラオを筆頭に高ランクのプレイヤーが槍のように敵の陣形を貫き突破を図る。
地上と空中戦仕様の機体ではどうしても速度差が出る事もあってそこをケアしながらタヂカラオはセンサーシステムの感度を上げて敵群の先を見据える。
敵拠点の種類は何だ? できれば生産拠点であって欲しい。 そんな祈りにも似た気持ちは――
「――あぁ、クソ。 何でこう上手くいかないかな」
――無残にも踏み躙られた。
闇の先に見えた人口の光源。 それは基地の輪郭を浮かび上がらせる。
巨大なアンテナと生産拠点の複合。 一番厄介な突入ポイントに繋がっている場所だ。
そしてこの基地の一番厄介なのは、アイツが居る事。
それは接近した侵入者の存在に気付くと迎撃する為に動き出した。
巨大な威容。 サメに近い――というよりはそのものの巨大エネミー、メガロドン型。
タヂカラオはクソと思いながらも頭の冷静な部分で戦況を分析する。
下はそろそろ突破できそうだったが、敵の一部が反転してこちらの背後を突こうとしていた。
本来ならそのまま強引に突入して内部――要は狭い空間での戦闘に持ち込もうとしていたのだ。
そうすれば敵との物量差はほぼ無視できる。 脱落は二割。
約40機が突破できずに敵の群れに噛み砕かれた。 判断に迷ったのは刹那。
正面の突破が困難になっただけだ。 足を止めれば物量差で圧殺されるのは分かり切っている。
つまり、やる事は変わらない。 突破一択だ。
ただ、空のメンバーにはかなりの無理を強いる事にはなるが。
「地上のメンバーは予定通り突破を。 空中のメンバーはメガロドン型を抑える」
メガロドン型の対処については一通り頭に入っている。
レーザー、ミサイル、ガトリング砲と高火力の武装で固めてはいるが、基本的に正面にしか撃って来ない。 それ以外の部分は比較的ではあるが、手薄なので責めるならそこから。
強力な防御フィールドは光学兵器には高い効果はあるが、実体弾には無効。
その為、接近するか実体弾で削るのが望ましい。
――ランカーが自分しかいない状態では少し心許ないが、今は自分と味方の力を信じるだけだ。
前回はかなり余裕があった事もあって対処は楽だったが、今回はかなり追いつめられた状態での処理だ。
腕の見せ所だと自分に言い聞かせてタヂカラオは味方に指示を出した。
誤字報告いつもありがとうございます。
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