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流石にこれは想定できなかったのかポンポンの動きが僅かに止まる。
明らかに動揺していた。 サリサはなるほどと内心で頷く。
味方を守る事に軸足を置いており、そうする事でパフォーマンスを上げるが、逆に失う――特に自分の力量不足でそうなるとメンタルが揺らぐ。
総合的な技量は及第点だが、メンタル面ではランカーを名乗らせるには少し足りないといった所か。
次はもっと頑張りましょう。 内心でそう評価を下してサリサは持っていたレールガンを構えたのだが、ピクリと眉を動かして機体を横にスライド。
一瞬前までサリサが居た位置にエネルギー弾が突き刺さった。 狙撃。
良い腕だ。 この環境下でここまで正確に狙えるのはセンサーシステムのバックアップがあったとしても簡単にできる事ではない。 誰だと振り返ると面白い物が近寄ってきていた。
上半身が人型、下半身が馬のような、所謂ケンタウロスのような見た目の機体。
そして撃ったのはその背に跨っているキマイラパンテラのプラスフレーム。
このジャンルのゲームに騎兵の概念を持ち込むのも面白かったが、それ以上に騎乗しながらあの精度の狙撃を決めた事が驚きだ。 距離はまだ離れており、500以上はあるにも関わらずあの精度。
――面白い。
誘導用のフレアを打ち込む。 空中で炸裂し、このフィールドの風に乗って敵の下へ。
これはナノマシンに近い代物で大気中に散布すると範囲内の機体に付着し、常に誘導用のシグナルを発し続けるという代物だ。 微細な事もあって範囲内に居れば防ぐ事は難しい。
フィールド系の防御兵装である程度は防ぐ事は可能だが、大気中に滞留する事もあって一瞬でも解除すれば付着する。 その為、基本的に防ぐ事は出来ない。
このフィールドは常に吹雪は発生しており、1キロ四方はカバーできる。
つまり向かって来ている二機もしっかりと効果範囲内だ。
誘導のシグナルを確認。 レールガンを構え、照準からの発射。
この銃の最大に強みは弾道をかなり弄れる点にある。 上手に使えば弾体が直角に曲がるほどだ。
今回も極端な軌道を描き、二機纏めて処理できるように狙った。
さぁ、どう防ぐ? こんなに格好よく登場したんだ。
あっさり落ちて欲しくはないと思いながら相手の反応を見て――
「え?」
サリサはオペレーターとして高い操縦技能――プレイヤースキルを保有しており、大抵の相手には勝利できるという自負と、大抵の事には動じないメンタルを持っている。
だが、そんな彼女を以ってしても目の前で起こった事は凄まじい事だった。
弾体が空中で砕けたのだ。 意味が分からない。
いや、どうやって防いだのかは理解している。 撃ち落としたのだ。
何を? 弾体をに決まっている。 こちらの発射に合わせて撃ち落とした?
そんな馬鹿な。 流石に再現性のないまぐれか何かだろうともう一度構えて発射。
大きな弧を描いて襲い掛かる軌道だ。
騎乗している機体――プレイヤーネーム『グロウモス』は既に大型のライフルを発射していた。
この吹雪の中でもはっきりと聞こえる金属音。 発射した弾体が空中で砕けた音だ。
「はは、凄い」
思わず呟く。
再度、狙って発射――のタイミングを僅かにズラして引き金を引くが、刹那の間を空けて金属音。
こちらの発射タイミングを完全に盗まれている。 フェイントまで見極めているのは凄まじい。
――どんな集中力。
サリサは無意識に楽しくなってきたと深い笑みを浮かべる。
お手並み拝見と行った気持ちだったのだが、あの狙撃手の底を見たくなった。
ターゲットをグロウモスへと移し、更に引き金を引いた。
――集中、集中、集中。
グロウモスは全ての感覚を遮断し、全てを自らの指先と視線――正確にはリンクしたセンサーシステムが捉えた敵機の動きに全てを傾けていた。
自機はケイロンの機体に固定。
回避の全てを彼に任せ、グロウモスは狙った物を撃ち抜く事にだけ全てのリソースを使用する。
移動によって上下に揺れる銃口。 何の問題もない。 今の彼女にとってその程度は誤差だ。
必要なのはあの敵を処理する事だ。 撃破は現状、現実的ではないが、抑える事は可能だった。
シックスセンスのお陰で敵機がこちらを仕留める際に発生する兆候は掴める。
ラインが見える以上、グロウモスにとってそれは射線を視覚的に捉える事に等しい。
つまりは弾が何処に飛んでくるのかが分かるという事に他ならない。
そこまで分かれば迎撃は充分に可能。
敵機が引き金を引くと同時にこちらが撃てば空中で相手の放った弾を砕く程度、造作もない。
相手も流石に気が付いたのか移動しながらこちらを狙うが、簡単には撃たない。
発射のタイミングをどう読み取っているのかを掴もうとしている。
先にラインを引いてロックする事で圧をかけてくるが、グロウモスはその全てを完全に無視。
ケイロンは撃って来ないならと接近を試みる。 何故なら近寄れば彼自身の武器が使えるからだ。
――殺気。
以前にふわわが感じると言っていた物だ。 正直、グロウモスには理解できない話ではあった。
何が殺気だよ。 漫画じゃあるまいしと一笑に付すのは簡単だが、彼女はそれを敏感に感じ取る事で人外の反応速度を実現しているのだ。 つまり、殺気やそれに類するものはある。
そしてその後、シニフィエの解釈で少しだけ腑に落ちた事があった。
殺気とは「意識の焦点が向かう先」だと。
理屈は不明だが、あの姉妹はそれを感覚的に感じられるのだ。
訳が分からないと頭から否定するのは簡単だが、似たような事が出来れば非常に役に立つ。
正直、習得方法はさっぱり分からなかったが、こうして敵の射線を視覚的に捉える事ができるとまた違った見え方がするのだ。
言葉では説明できないが、このラインの先で敵機が自分を仕留めようと引き金に指をかけている。
そう意識すると何となく、そう何となく感覚で敵が撃つタイミングが分かるのだ。
撃つ、こちらを殺すと圧が強まった瞬間に引き金を引けば僅かに先手を取れる。
そうすれば相手の弾はこちらが撃ちこんだ弾に吸い込まれる。
簡単な話だ。 流石に何度も防ぐと相手も学習して気配に虚実を織り交ぜ始めたが、今のグロウモスの集中力はそんな単純なフェイントに惑わされる事はなかった。
引き金を引く。 スコーピオン・アンタレスから吐き出された大口径のライフル弾が空中で敵機の放った弾体と衝突して弾け飛んだ。
誤字報告いつもありがとうございます。
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