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――どうやって感染された!?
捕捉したのもこちらが先で200から300は離れていたはずなのにという疑問はあったが、運営の用意したスペシャルな機体なのだ。 こちらの想定を上回ってきてもおかしくない。
既存機の枠に嵌めると却って視野が狭まる。 ウイルスの駆除が完了し、即座に視界がクリアになる。
正確にはダミーの反応が全て消えた。 それはニャーコも同様で即座に本体へと仕掛けに行く。
位置は彼女の後方。 攪乱に乗じて背後に回ったのだろう。
ニャーコは機体を捻るように反転しながら鞭のようにしなった拳が敵機に襲い掛かる。
エーテルによる分身を合わせた三発同時攻撃。 鈍重な機体で躱せるタイミングではない。
――はずだったのだ。
敵機は足の推進装置を持ち上げてニャーコに向ける。 受けるつもりかと思ったが違う。
足から斥力フィールドのような物が展開。 ニャーコの攻撃をパリィしたのだ。
ニャーコの拳が不可視の力場に弾かれ、大きく仰け反る。 敵機は残った軸足だけでそのまま一回転しながらニャーコの機体の背後を取っていつの間にか持っていたエネルギー式のナイフを脇腹に突き刺す。
コックピットを一突き。 即死だ。
密着状態で援護し辛かった事もあってポンポン達には何もできなかった。
――あの鈍重な見た目であれだけ動けるのか!?
敵機は上に腕を向けると腕の一部が展開。 アームガンのようだ。
何をしようとしているか不明ではあるが黙って撃たせる訳がない。
ポンポンと味方機が取り囲んで集中砲火。 敵機は驚異的な機動性で地面を滑るような挙動で回避。
速い。 マルメルやアリスもホバー移動は上手いと思っていたが、この敵機はそれ以上だ。
空中と違って三次元的な動きができない地上でこちらの攻撃を次々と躱す。
そうしながら発射。 アームガンから放たれたのはグレネードのようで、空中で炸裂。
空中に赤い光の玉が尾を引くように落ちていき、燃え尽きるように弾けとんだ。
光の粒子が風に乗って蛍のように撒き散らされるがそれだけだった。
流石におかしいとポンポンはシックスセンスでスキャニング。 何かあるはずだ。
なかった場合は何かしらの合図の可能性もあるが、シックスセンスが違和感をキャッチ。
散った粒子が風に乗って機体に付着していた。 よくよく見ると薄く光っている。
疑問は刹那。 何故なら敵機が背にマウントしたライフルを向けていたからだ。
角度的にこちらには飛んで来ないと思ったが、嫌な予感がして盾を構える。
敵機がライフル――違う。 発射時のエネルギー量からレールガンの類である事が分かった。
次の瞬間、盾に凄まじい衝撃がかかる。 命中したのだ。
エネルギーウイングを噴かして姿勢制御。 ここでようやく理解が追い付く。
さっきのフレアはマーキングだ。 恐らくはあのレールガンを確実に当てられるようにする為の。
発射の瞬間、敵機の銃口と自機の間に磁界のようなラインが発生したのをシックスセンスが観測した。
――つまり、適当に撃っても当たるってことか!?
だが、発射の瞬間にターゲットと銃口の間にラインが繋がる。 それを見極めれば――
味方のシグナルが三つ纏めて消失。 三枚貫きをされたのは分かったがどうやってと目を凝らすと銃口から伸びるラインを見ればすぐに分かった。
あの敵機は味方機が射線に重なった瞬間に発射して纏めて撃ち抜いているのだ。
グロウモスも大概だったが、こいつの技量も突き抜けている。
強敵であると理解はしていた。 だから、連れて来たメンバーはB以上で固めたのだが――
敵機が引き金を引く度に次々と味方機が落ちていく。
弾が不自然な軌道で曲がり、躱したはずの味方機が射抜かれるのだ。
ほぼ直角に曲がるのは一体何の冗談だと言いたくなる。
「あたしの後ろに付け!」
そう言いながら前に出る。
レールガンで何であんな極端な軌道を描けるのか不明だが、この攻撃に対応できるのは自分だけだ。
シックスセンスによって敵機の銃口とターゲットを繋ぐラインが見える。
つまり、攻撃の軌道は分かるのだ。 そこに割り込めばいい。
狙われた味方機を庇う位置に割り込み、盾を構える。 次の瞬間、衝撃。
盾に直撃。 威力を殺しきれずに機体が軋む。
重い、しばらくは問題ないと思うが貰いすぎると危険かもしれなかった。
それでも味方の被害を減らす為にポンポンは機体を加速させ、射線に割り込み続ける。
――いい仕事するなぁ。
サリサは射線に割り込んだプレイヤーの機体をフォーカスする。
プレイヤーネーム『ポンポン』。 ランクはA、機体構成は防御、指揮に特化したタイプか。
シックスセンス装備ならこちらの攻撃の兆候を掴めはするが射線に割り込むのは簡単ではない。
それを連続で成功させているのは紛れもなくポンポン自身の技量による物だろう。
隠れているのを炙り出されるのも思ったよりも早かった事もあって少し日本サーバーのプレイヤーを甘く見ていたのかもしれない。 ジョゼがやられたという話もあって手は抜いていないのでそこは素直に素晴らしいと思った。
聞けばボビーもやられたとの事。
ジョゼはあの性格なので甘く見た結果といえるが、ボビーが負けたのは少し驚きだ。
彼はオペレーターの中でも実力は頭一つ抜けている。 そんなボビーを倒した彼等の実力、是非とも見せて貰いたい。
サリサは仕事と割り切ってはいるが、人並みに好奇心はある。
育っているランカーを見ると日本サーバーが後進呼ばわりされる日から脱却する日もそう遠くないだろうと思わせてくれる。
ラーガストという怪物を排出したのだ。 彼だけが突然変異――いや、βを挟んでいる以上は必然だったのかもしれないが、続く者が現れるのは必然だろう。
――まぁ、偉い人の思惑は私には関係ない、か。
今はこの戦いを楽しむとしよう。 なに、気楽なものだ。
自分はジョゼと違って何も賭けていないのだ。 素直に楽しめばいい。
ただ、負ける気は毛頭ないので、このまま情け容赦なく叩き潰すつもりではあったが。
ポンポンは盾としては優秀だが、一つ見落としている事がある。
確かに誘導する関係で射線のラインが見えるのはある意味、欠点といえた。
テレフォンパンチのような物だ。
――ただ、それで凌げるというのは甘い。
ターゲットをロック。 即座にポンポンが射線に割り込む。
ここだ。 射線のラインが切り替わる。 発射。
発射された弾体はポンポンを避けてその背後の機体を射抜いた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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