783
ホロスコープがゆらりと脱力。
それを見てタカミムスビは胸の高鳴りが止まらなかった。
ヨシナリという人間は努力で自信を構築し、それによって自己を肯定する。
そんな人間が対Sランクと吼えたのだ。 楽しみで仕方がなかった。
恐らくはアイロニカルが何らかの要素を担っていたのだろう、だから半殺しに留めたのだ。
――さぁ、魅せてくれ。 君の本気を。
『アイロニー!』
ヨシナリが叫ぶと同時にアイロニカルの機体から無数の注射器のような物が伸び、次々とホロスコープのあちこちに突き刺さると謎の薬液がドクドクと注入された。
『タクティカル! 30秒は保証してやる! それ以上は神に祈れ!』
『――充分だ』
瞬間、パキパキと音を立ててホロスコープの機体温度が急激に下がり、氷結を始めた。
注入が済んだと同時にアイロニカルは力尽きたのかそのまま崩れ落ちる。
そしてホロスコープのジェネレーターの駆動率が爆発的に膨れ上がった。
『最大出力――1000%だ』
タカミムスビは準備ができたと判断してレーザーを発射。
乱反射した無数の光が四方八方からヨシナリへと襲い掛かる。
次の瞬間、ホロスコープの姿が消えた。 本当に消えたとしか認識できない動きだった。
センサーシステムからはロストしておらず、支援AIがその姿を捉えていたがタカミムスビ自身の反応を大きく上回っている。 ヨシナリは地面を薙ぐように大きな弧を描いて旋回。
それにより土煙が巻き上がり、視界が塞がる。 僅かに遅れて反射板の反応が一斉に消えた。
アマノイワトの反射板は初期形態を覆うように幾重にも重ねた装甲を形態を変える際に剥がれ落ちた物。 合計で450枚。 それを二基の支援AIを用いて操っている。
ここまでの戦いで97枚にまで減っていたのだが、20枚が一気に破壊された。
速い。 ここまで反応が遅れたのは久しぶりだ。
AIが反射板を防御に挟もうとしていたが間に合わない。 咄嗟に左腕で防御。
ヨシナリが攻撃態勢に入り、その姿をはっきりと視認する。
エーテルに覆われている事は変わらないが形状が不定形だ。
辛うじて人型ではあるが、輪郭があやふやでサイズも15メートル前後とかなり大きくなっている。
腕を翳すとズボズボと無数の銃口が飛び出す。 いや噴き出すようにという方が適切か。
しかもエーテルで編んだ物ではなく、本物の銃。
よくよく見ればそれがケイロンの重機関銃、対物ライフル、散弾砲だ。
さっきの旋回は土埃を巻き上げるだけでなく斃れた味方から武器を回収する為でもあったらしい。
銃身を侵食するようにエーテルが血管のように伸びる。
フルファイア。 無数の銃弾が至近距離で炸裂する。 流石にこれは躱せない。
もはや銃撃ではなく爆撃と言えるような衝撃と轟音が響き渡る。
重装甲であるはずのアマノイワトの肘から下が瞬く間に穴だらけになって千切れ飛ぶ。
転移で距離を取りながらレーザーを発射。 点では捉えられない。
面で制圧しなければ無理だ。 直接当てるのではなく、照射を続ける事で焼き切る。
――前に反射板の一部が破壊されレーザーによる結界が切り裂かれた。
既にヨシナリは背後。 本当にキマイラフレームかと疑いたくなるぐらいの加速と旋回性だ。
これ以上となるとラーガスト以外に思いつかないレベルだった。
残った右腕で一閃。 爪では捉えきれないが相手の挙動を制限できる。
紙一重の精度で回避。 すり抜けたと錯覚するほどだ。
懐に入り再度、ケイロンの銃を構えるが、発射と同時に銃口が破裂。
エーテルの流入に耐えられなかったようだ。 アイロニカルは言っていた。
30秒は保証すると。 そうなると後、20秒しかないのか。
そう考えると少し悲しくなってしまう。 こんなに心が震える時間が終わってしまう事がだ。
「素晴らしい力だよヨシナリ君!」
不意に機体各所に被弾を示すエラーメッセージ。
いつの間にか反対の腕から二つの銃口が突き出ており、無数の弾丸をばら撒いていた。
ホーコートのバトルライフルとマルメルの複合銃だ。
後者は元々、持っていた物だが前者は最初の旋回時に回収した物だろう。
あの僅かな時間にここまでやれるのはお喋りの間に位置関係を細かく確認していたからか。
加えてケイロンの銃を犠牲にしたのは意識を散らす事も含まれたと見ていい。
レーザーの発射機構と内部構造にダメージ。 露骨に狙って来る。
爪を振るうが、ヨシナリは躱しながらしつこく連射。 腹部装甲を貫通。
特にエーテルで強化されたバトルライフルの貫通力が厄介だ。
至近距離なので斥力フィールドで逸らしきれない。
だが、エーテルを注ぎ込んで無理にスペック以上の破壊力を引き出された銃器は即座に崩壊する。
バトルライフル、複合銃の順で破裂するように砕け散った。
だったらとレーザーを放ちながらアマノイワトの口腔を開放。
奥に仕込んだ大口径レーザー砲にエネルギーを充填。
即座に発射――すると同時にホロスコープの胸部にも巨大なエネルギー反応。
合わせる形で闇を凝縮したような光線が放たれる。 両者の威力は拮抗。
素晴らしい。 これはアマノイワトの武装の中でも最大級の破壊力を誇る。
これと拮抗できるのは少し信じられなかったが、センサーシステムはその代償の重さをしっかりと認識していた。
ホロスコープの機体内部の温度は急上昇しており、各所――恐らくは注射を打たれた場所から機体全体を急速に冷凍しているのだろうが明らかに追いついていない。
この様子だと内部のフレームどころか機体そのものが溶岩のようにドロドロに溶け始めている事だろう。 恐らくはそれをエーテルの鎧で強引に留めているのだ。
武器を使い潰しているのもジェネレーターから送り込まれる凄まじい量のエネルギーを外に逃がさなければならないからだ。
殺人的な加速も常軌を逸した破壊力も使わなければ即座に内部から崩壊してしまう毒となる。
どちらにしても行きつく先は破滅だが、それを遅らせる為にヨシナリは常に機体のアクセルを全開にし続けなければならないのだ。
――確かに驚異的な戦闘能力だ。
だが、諸刃の剣である以上は時間稼ぎという致命的な弱点を持っている。
逃げ回れば絶対に勝てる相手だ。
そしてアマノイワトにはそれが可能だが、そんな勝ち方はつまらない。
20秒が経過した。 後、10秒しかないのだ。
この黄金のような時間、ヨシナリというプレイヤーが全てを燃やし尽くして捻りだしたこの瞬間。
それを最大限に味わい。 自分は超えていくのだ。
――さぁ、決着を付けようじゃないか。
タカミムスビは迎え入れるように両手を広げた。
誤字報告いつもありがとうございます。
宣伝
パラダイム・パラサイト一~二巻発売中なので買って頂けると嬉しいです。
Kindle Unlimited、BOOKWALKERのサブスク対象にもなっていますのでよろしければ是非!




