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――クソ、俺にできる事はないのか?
ヨシナリはどうすると思考を回す。
現在、ホロスコープはエネルギーウイングが全損により推進装置が半分しかない。
加えてタカミムスビにはエーテルの機能を阻害する装置がある以上、近寄れない。
武装はマルメルの残したアノマリーのみ。 自前の武器はイラを残して全損。
ダメージを与えるには威力が足りない。
こういう場面で高機動機である事が裏目に出るなと思うが、考えても仕方がない事だ。
それでもまだ動ける以上、何かふわわとユウヤを援護する為に何か――
「ティピカル。 お困りかな?」
不意に背後からアイロニーの声が聞こえた。
いつの間にか彼女の機体が近くまで来ていたようだ。
「すまない。 片付けるのに時間がかかってしまった。 君はまずは傷を癒すといい」
そう言ってホロスコープの各所に注射器状の指を突き刺し、修復用のナノマシンを注入。
修復しながらヨシナリの脳裏には一つの可能性があった。
ベリアルとの合体と同じで余り使いたくない手段――博打に等しいそれが残っているのだ。
「すいません。 助かります」
「タクティカル。 あくまで応急処置だ。 完全に破壊されたエネルギーウイング等の修復はできない」
「充分です。 それと以前に頼んでいたアレなんですが、行けそうですか?」
「プラクティカル。 一応は使えそうな配合は見つけておいた」
「分かりました。 準備だけお願いしても?」
頷くアイロニーに対して流石だと内心で賞賛を送る。 彼女に声をかけて本当に良かった。
仮に仲間になってくれなかったとしてもこの依頼だけは通そうと思っていたのだ。
可能であればランク戦等の単騎で戦う場面以外では使いたくないが、この様子だと恐らくは――
タカミムスビはふわわを先に仕留めるつもりらしく、左腕をユウヤの牽制に使い、動きの悪くなった右腕とコンテナの弾幕で削るつもりだ。 その間に反射板が自身を巻き込まない位置へと配置。
気付いたユウヤが散弾砲で数を減らすが、百以上ある反射板を全て破壊するのは現実的ではない。
レーザーを発射。
乱反射により光の檻のようなパターンが出現し、二人に襲い掛かるがいつの間にか前に出ていたアイロニーが対レーザー用のスモークを撒き散らす事でそれを阻む。
『おや、珍しい顔だ。 確かアイロニカル君だったかな? 最後の一人は君だったのか。 ヨシナリ君は面白い人材を発掘するのが上手いね』
「プラクティカル! 知られているとは光栄だが、どこまで私の事をリサーチしているかの答え合わせと行こうか!」
無数のワイヤーアンカーが反射板へと絡みつき、強引に軌道を変える。
それによりレーザーが明後日の方向へと飛んでいく。
『なるほど、起点を見極めて動かしたのか。 面白い対処方法だ。 スモークは私専用に用意した物かな?』
「タクティカル。 やられてからゆっくりと考えるんだな!」
『はは、いいね。 君も中々に良い欲望を飼っているようだ』
コンテナの側面装甲の一部が解放。 無数の小型ミサイルが飛び出すと次々と爆発する。
それにより発生した爆風がスモークを薙ぎ払う。 アイロニーは居場所を看破されていると察しているのか、両肩のレールガンを二連射しつつ距離を取る。
スモークが吹き飛んだと同時にコンテナ上部から何かがスッポ抜けたような音が微かに響く。
円筒状の物体。 ケイロンがやられた時の事を思い出し、咄嗟にアノマリーを連射。
飛び出したのは合計で20。 多すぎる。
気付いたユウヤも散弾砲で機動前に撃ち落としにかかったが、半数が残った。
起動。 無数のニードルを地面に向けて射出。 タカミムスビ自身は発射に合わせて斥力フィールドを展開して自分に当たる分だけ勢いを殺す。
ふわわ、ユウヤは咄嗟に後退して回避。
そこを突いて飛んでくるレーザーはアイロニーがドローンを使って反射板を排除して防ぐ。
――が、タカミムスビの狙いはそこではなかった。
針から電磁パルスが発生。
離れていたお陰でホロスコープへのダメージは軽微だったが、他の三人はそうもいかない。
ふわわ、アイロニーはセンサー系が麻痺したはずだ。
ユウヤはコックピット部分を開放するというかなり無茶な状況だった事もあって影響がない。
――違う。 本命は――
ヨシナリは本当の狙いを悟る。 周囲でバチバチと何かが弾ける音。
アイロニーのドローン達が次々と行動不能になったのだ。
『自機を中心に一定距離を維持しつつ、オートとマニュアルの使い分けといった所かな? 良い猟犬のようだが、アルフレッド君と違って魂がない付属品はリードを切れば脆い物だね?』
例のステルスヴェールはEMPに対しても強いはずなのに一網打尽にされた。
流石のアイロニーもこれには何も言えずに悔し気に唸る。
「アルフレッド!」
タカミムスビの後方離れた位置から砲撃。 アルフレッドだ。
ここで伏せていた彼を使うという事はユウヤは勝負に出るつもりのようだ。
『頭部を失って碌に見えないだろうにそれでここまで戦えるとは大した闘争心だ。 君は少し丸くなったね』
「言ってろ!」
噛みつくような返しにタカミムスビは苦笑。
『違う。 君にとっては良い事だといったんだ。 ベリアル君と違い、君は執着する対象が増える事で欲望に深みが出た。 それだけ君の心の中には閉ざされた領域が多かったのだろう。 開放された事で視野が大きく広がっている。 良い仲間じゃないか、大切にしたまえよ』
アイロニーによる妨害がなくなった事でレーザーがユウヤを切り刻まんと飛来する。
この時、ヨシナリはユウヤの動きをこう予測していた。
死角から飛んで来たレーザーを大剣で防御しつつ、そのまま攻撃に繋げると。
それはタカミムスビも同じだったはずだ。 何故なら反射板が背後を狙う位置から正面を狙える場所へと移動していたからだ。 死角を防がせ、前後に意識を振って三手目で沈める。
それがタカミムスビが描いた未来の絵だろう。
だが、二人の予想に反してユウヤは躱さずに加速したのだ。
結果、足を撃ち抜かれたが、残った足と推進装置を使って最後の一歩を踏み出す。
タカミムスビはふわわを狙っていた事もあって、ユウヤを背負う形で相手にしていた。
つまりは思惑を外して肉薄に成功すれば無防備な背を晒す事になるのだ。
そうなった時の備えである尾はもうない。
これは想定していなかったのかタカミムスビは驚いたように僅かに息を漏らす。
矢のように大剣を突き出したプルガトリオが突っ込む。
咄嗟に左腕で胴体部分を守りに行ったがユウヤの狙いはそこではない。
彼の狙いはウエポンコンテナだ。 大剣は狙いを過たずに巨大な箱を指し貫いた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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