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そこは真っ白な空間だった。
あるのはパイプ椅子と少し離れた位置には玉座のような豪奢な椅子の二つだけ。
ホーコートはこの状況にやや困惑していた。
メッセージの内容はあなたに魔法をかけてあげる。
興味があるならここに来なさいと指定されたエリアへの移動方法が記載されていた。
迷った。 ヨシナリに頼り過ぎるなと言われたばかりだからだ。
だが、「魔法」の効力を知っていたホーコートの心は大きく揺れる。
前回のユニオン対抗戦。 「烏合衆」との戦い。
「魔法」を使う事により、ホーコートはAランクであるフェボル相手に相打ちにまで持って行けたのだ。
効力に関しては疑いようがない。 簡単に結果を出したいのなら即座に飛びつきたい話だ。
結局、話だけでも聞いてみたいと中途半端な気持ちでここまで来てしまった。
街の中の特定の位置へと向かうと穴に落ちるような感覚と共にここに辿り着いたのだが――
「こんにちは。 えーっと、ホーコート君で良いのかしら?」
不意に声をかけられはっとやや俯いた顔を上げるといつの間にか玉座に女が座っていた。
モザイクのように輪郭は分かるが、詳細までは不明だ。
だからホーコートに分かるのは相手が女であるという事、髪が長い事。 この二点だけ。
「ど、どうも。 ここに来ればいいと言われたんですけど……」
「そ、まずは自己紹介しておきましょうか。 私はロッテリゼ。 えーっと、魔法使いとでも思いなさいな。 さて、仲良くお喋りするような仲でもないし、早速本題に入りましょうか?」
ロッテリゼと名乗った女はパチンと指を鳴らす。
彼女の背後に映像が映し出された。 内容はホーコートが「星座盤」に所属してからの戦闘だ。
「――ミツォノロプロフのお情けで残ったテストサンプル。 総合評価はえーっと、低いわねぇ。 MODのモーションパターンは最小限、右旋回からのアタックのみ。 まぁ、これじゃ通用しても精々Eランクぐらいまでね」
ロッテリゼはウインドウを出現させると慣れた手付きで操作。
何かを呼び出すと表情が分からないにも関わらず笑った事と明らかな変化。
「あぁ、あなた魔法の呪文を使ったのねぇ? どうだった? びっくりするぐらい強くなれたでしょう。 まぁ、アレを使ってもベースがゴミだとAランク相手に相打ちが精一杯か」
せめて撃破ぐらいはして欲しかったわと付け加えるとホーコートに視線を戻す。
「さて、私があなたに提供できるのは更なる力。 欲しいでしょう? ランカー相手でもそこそこ以上に戦える力」
ここまでの流れで相手の意図を理解できないほどホーコートは馬鹿ではなかった。
相手はホーコートに更なるチートを授けると言っているのだ。
ただ、非常に怪しかった。 それに何故ホーコートなのかも分からない。
「た、確かに欲しいっすけど、何で俺なんですかね。 他にも声をかけられそうな相手は居るんじゃないんですか?」
「居るわよぉ。 あなたはその為の布石」
即答。 反応を見てもホーコートには驚きは少ない。
ロッテリゼは提案を持って来てはいるが明らかにホーコート自身には興味がなさそうだったからだ。
「まぁ、後で忘れて貰うから教えてあげるけど、このゲームってプレイヤーのバイタルだけじゃなくてメンタルに関しても数値化してデータの収集を行うのよ。 ――で、特定の提案に対してそのプレイヤーの性格や行動から返答を予測するシミュレーターシステムがあるの」
ロッテリゼが再度、パチンと指を鳴らすと背後に複数のウインドウが展開。
並んでいるのはヨシナリ達「星座盤」のメンバーとその横にはホーコートにはよく理解できないグラフや数値。 その中で一際目を引くのが赤文字で表示された数値だった。
ヨシナリ――0.0015% マルメル――1.15% ふわわ――0.0034%
グロウモス――0.5% ユウヤ――0.0011% ベリアル――0.0009%
シニフィエ――0.3% そしてホーコート――78%。
「これ、何の数字か分かる?」
分からなかったが、ホーコートだけ圧倒的に高い以上、良くない物である事は間違いなかった。
沈黙を不明と解釈したのかロッテリゼは楽し気に笑う。
「これね、今と同じ提案をした場合、相手が頷く可能性を可視化したものなの。 凄いわねぇ? 普通は低くても20%切らないのにあなた以外は一番高いので1%ちょっと。 初めて見た時は私もちょっと驚いちゃったわ」
背後のウインドウが切り替わる。 戦闘シーンへと。
ヨシナリとベリアルが見た事もない敵と戦っていた。
映像では二機がエーテルを展開する事で機体を強引に接合。 一機へと合体した。
「エーテルの性質上、不可能じゃないけど思いついて実行まで持って行けるのは素直に脱帽よ。 それに馬鹿みたいに出力が跳ね上がるから簡単に扱えないのにオペレーター相手にあそこまで戦えるのは更に凄いわ」
実際、凄まじい戦いだった。 ヨシナリ達の機体は敵機と瞬きのような攻防を繰り広げている。
凄すぎる。 ホーコートはそんな感想しか出ないほどに圧倒される戦いだった。
だが、敵機の猛攻はその上を行き、徐々に追い込まれていくヨシナリ達。
そして敵機のブレードがヨシナリを貫き、ホロスコープが自爆した事による爆発が発生。
咄嗟に回避した敵機をベリアルが背後から貫き、戦闘は終了した。
そして映像が切り替わる。 これはホーコートも知っている映像だった。
インド第二サーバーとの戦い。 カンチャーナというプレイヤーとの戦い、その最終局面。
「あの子はね。 私のお気に入りで、そこそこ力を入れて支援してあげたのにアメリカ、ロシア、日本と対抗戦で三連敗もするんだもの。 ガッカリよ」
最後に映像はヨシナリのアップに切り替わった。 ロッテリゼはニチャリと笑う。
「どちらの戦闘もキーとなったのはこの彼。 いいわねぇ。 本来なら日本サーバーは担当外だから手を出しちゃいけないんだけど欲しくなっちゃった。 彼ならMODの力を最大限に活用できる。 このままでもランカーにはなれるとは思うけど、私が力を貸せばSランクにもなれる。 それどころかその上まで行ける。 オーバーSランクに、Ωに手が届くかもしれない」
「だったら、俺じゃなくて先輩に声をかければいいじゃねぇか!」
目の前の女の気持ち悪さに思わず語気が荒くなった。
ロッテリゼは肩を竦め、でもと前置きし――
誤字報告いつもありがとうございます。
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