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あれこそが自分が理想とする姿だとホーコートは確信した。
星座盤のヨシナリ。 まったくの無名という訳ではなかったが、様々な有力プレイヤーと交流があるとの事で名前は時々耳にしていた。
もしかすると彼はランカーが一目置く、陰の実力者なのかもしれない。
そんな考えもあって彼の動向を少しだけ気にしていたのだ。
気にしていた所為だろうか? イベントで彼と同じチームになったのは。
同じ機体構成というほぼ同条件にもかかわらず、ヨシナリとホーコートの間には隔絶した力量差があった。
――やっぱり先輩は凄い奴だったんだ!
だからBランクのまんまるって奴も先輩に従っていた。
まんまるが俺に当たりが強いのは理解できる。 碌に活躍できずに足を引っ張ってばかりだったので納得はしていた。 そんな中、先輩は違ったのだ。 自分という戦力を最大限に活用する手段を考え、指示を出してくれた。 お陰でホーコートはあのイベント戦を勝ち残る事が出来た。
イベント戦に於いてホーコートは何もできていない。
先輩におんぶにだっこだった。 最終戦での動きは凄まじく、本気で殺しに行ったのにあっさりと返り討ちに――あぁ、いや違う。 何を言ってるんだ俺は?
ホーコートは脳裏に浮かんだ存在しない記憶のイメージを追い払う。
最後のターゲットを破壊してスコアを競う場では見事な指揮でトップの成績を収めた。
先輩は凄い! 自分なんかとは全然違う人間なんだ! 上に行くべき人間なんだ!
ホーコートはそう確信しつつ、また回避に失敗して撃墜された。
――ホーコートに関してはこれでいい。
時間のある時にマルメルと交代で動きの矯正を行っていけば徐々にではあるが使い物にはなるはずだ。 目標としては最低でもチートの半分ぐらいのクオリティの動きが出来れば上出来だろう。
シニフィエに関しては心配していないので、ふわわに任せておけば問題ないはずだ。
考えながらシニフィエの訓練方針のメールを作成してふわわに送ろうと――
「ん?」
不意に受信したメールにヨシナリの思考が断ち切られる。 運営からの物ではなく私信だ。
誰だと確認すると差出人はタヂカラオ。 イベントで当たった相手で、しつこく勧誘してきたのでちょっとうざいと思っていた。 内容は模擬戦の申し込み。
どうやら前に負けたのが大層気に入らなかったのか、リベンジマッチのお誘いだ。
しかもユニオン戦。 日時は二日後、対戦形式は同数による潰し合い。
可能であれば十対十でやりたいといった様子だが、こちらにそんな人数はいないので無理だ。
星座盤のメンバーはヨシナリ、マルメル、ふわわ、グロウモス、シニフィエ、ホーコート。
合計で六人。 ちなみにユウヤに声をかけたがこちらは秒で断られた。
元々、そこまで期待していなかったので問題はない。 要は六対六での勝負なら受けると返信。
タヂカラオがどの程度の地位にいるかは不明だが、出てくるのはいい所、二軍、三軍かそれ以下レベルだろう。
それぐらいの相手なら今の『星座盤』の総合力を試すいい試金石だ。
――日本サーバー最大手の実力を見せて貰おうじゃないか。
楽しみだとヨシナリは内心で笑みを浮かべ、了承の返信を送った。
「――という訳で『思金神』と模擬戦をやる事になりました!」
訓練が一段落付いた所でメンバーを招集してそう言うとふわわは面白そうと笑う。
「へぇ、日本サーバーの最大手やん。 いい感じの相手引っ張って来れたなぁ。 楽しみになって来た」
「うは、マジかよ。 どうやって約束取り付けたんだ?」
「前のイベントで負けたのが悔しかったんじゃないか? 多分、リベンジマッチだ」
「いいねぇ。 そう言う事なら猶更ぶっ潰して俺達が上だって見せつけてやろうぜ!」
ふわわは心底から楽しそうに、マルメルは少し驚いているがいいねと笑って見せる。
「ぷ、ぷひ、い、今のわ、私達ならか、勝てるし。 よ、ヨシナリが、わ、私の為、私の為に用意した機体があるし、負ける訳ないし。 ウヘウヒヒヒヒ」
「……ま、まぁ、何処までお役に立てるか怪しいですが、やるだけやって見ましょう」
グロウモスは気持ちの悪い笑みを浮かべ、それに若干引いているシニフィエは頷く。
「先輩! 俺も頑張りますよ!」
ホーコートも問題なさそうだ。 明らかに潰しに来るので全員がBランク、最低でもCランクだろう。
かなり厳しい戦いになるとは思うが、今の『星座盤』なら問題なく勝てる。
ヨシナリはそう確信していた。
――差し当たっては戦い方の模索だな。
誰が出てくるか不明な以上、敵に合わせた策は練れないので自分達の戦いの精度を上げるしかない。
ヨシナリは思金神相手にどう戦うのか? この二日でどのような準備ができるのか?
そんな事を考えていた。
借りを返す。 返信を受けたタヂカラオは感謝のメールを送った後に拳を握った。
場所は思金神のユニオンホームに存在するビルの最上階。 展望台にもなっており、景色が一望できる場所だ。 そこにあるベンチに座っていたタヂカラオは準備を済ませ、メールを送信した所だった。
送信先は『星座盤』のヨシナリ。 イベントで彼が敗北した相手だ。
負けた事に言い訳はしない。 いや、正確にはできない、だ。
機体の条件は全く同じ、寧ろ武器の引きはこちらが勝っていたにも関わらず敗北した。
ヨシナリを侮っていた面は確かにあった事は否定しない。
有望なプレイヤーではあるが、所詮はEランク。 Aまで秒読みの自分が負ける訳がない。
そんな慢心があった。 だから、余裕を見せ、その結果があの敗北だ。
恥ずかしくて死にそうだった。 ユニオンの仲間達も表には出さないが、タヂカラオの事を笑っているのかもしれない。 そんな光景を想像すると頭がおかしくなりそうだった。
メンバーは揃えた。 相手のユニオンメンバーはたったの六人しかいないので人数を合わせる必要があるのは少々面倒だったが、選定も済んだ。 全員がBランクでタヂカラオが用意した精鋭。
それに加えて――
「やぁ、タヂカラオ君。 調子はどうかね?」
不意に声をかけられ、振り返るとそこにはスーツを身に着けたビジネスマン風のアバター。
このユニオン『思金神』のリーダーであるタカミムスビだ。
「た、タカミムスビさん!」
タヂカラオは慌てて立ち上がろうとするが、タカミムスビはやんわりとそれを止める。
「隣、いいかな?」
「は、はい」
タカミムスビはありがとうと言って隣へ座る。
「ユニオン戦、やるみたいだね。 だから、例の予算申請を行ったのかい?」
「……否定はしませんが、元から予定していた事でもあります」
「君のそういう野心的な所は嫌いじゃない。 競争意識や向上心は組織を活性化させるからね」
誤字報告いつもありがとうございます。
活動報告を更新したので一読頂ければ幸いです。
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