362
――なら、力で従える。
まずはここで勝利し、実力の差を見せつけるのだ。
戦い方に関してはもう頭に入っている。 動きは悪くないが突き抜けた強みはない。
加えて機体の足回りに問題を抱えているようだ。 明らかに接近戦を避ける動き。
狙撃銃を早々に捨てた思い切りの良さは悪くないが、拳銃しか手持ちの武器が残っていない。
殴り合いよりも飛び道具に自信があるタイプだろうが、拳銃だけというのはかなり厳しい状況だ。
なら打開する為にはどうする? ヨシナリ達が持っている武器は合計で九つ。
さっき仕留めた一機は三つ。 中央で派手に撃ち合っている機体も三つ。
ならヨシナリも三つ持っているはずだ。 見えている範囲では拳銃と狙撃銃。
残り一つをどこかに隠している。 恐らくはそこに誘導して奇襲を考えている可能性が高い。
それともさっき仕留めた機体まで移動して武器を回収する?
技量差は明確、補う為には武器が必要だ。 逃げる方角を見れば狙いは見えてくる。
この戦いは機体性能は同等。 武装は数が制限されているので手持ちを見れば何かを隠しているのか否かはすぐに分かる。 内容に差異こそあるが、手札の枚数は同じなのだ。
――さぁ、イベント戦のヒーロー君はどう動く?
実力差は見せつけたはずだ。 僕に勝ちたければ武器を手に入れるか策を弄するしかないぞ?
そんな事を考えながらタヂカラオはさっさと決めろと言わんばかりに拳銃を撃ち込む。
ヨシナリは確実な勝機がなければ仕掛けてこない。 だからこそ行動が読み易かった。
位置的に北に向かえばまんまるとの合流、回り込んで東に向かうのであれば大破した味方の武器回収。 それ以外ならどこかに隠した武器の回収だ。
恐らくは嵩張るので狙撃の邪魔になる物か、近接武器だろう。
ヨシナリが動いた。 向かう先は――北。
味方との合流狙いか。 不利になると他に助けを求めるのは合理的ではあるが、一対一の状況を打開する気概がないとも取れる。 一際、大きなビルの陰に入り、姿が視界から消えた。
流石に完全に視界から外すのは危険なのでやや急いでその姿を追い――
「成程、そう来たか」
正直、これは想定外だ。
ヨシナリは身を隠したビルの陰から動かずに待ち構え、そのまま飛び掛かって来た。
低い姿勢からのタックル。 こちらの体勢を崩す事が目的であろう事は明らかだ。
格闘戦のスキルに開きがあるのは理解しているはずなので、倒してしまえばその差を埋められるとでも思ったのかもしれない。 だとしたら浅はかとしか言えなかった。
タックルの捌き方は心得ているので突っ込んで来たところに膝を叩きこむ。
「おや?」
入ったと思ったが、ヨシナリは膝にしがみつくようにして止めていた。
人体であるならこのまま倒されているがこれはトルーパーだ。
スラスターを噴かせばこんな事も可能。 タヂカラオは機体を僅かに浮かせて空いた足を振り抜く。 やや無理のある体勢ではあるが、スラスターで勢いを付ければ充分な威力は出せる。
入ると思ったが、それに合わせてヨシナリもスラスターを噴かして強引に前進。
タヂカラオの膝を抱えたまま近くのビルに突っ込む。 流石にこれは想定外だったので小さく目を見開く。
「ぐ、中々に強引な手を使う」
「でしょうね? 考えたんですけどどう頑張っても正攻法であんたに勝てるビジョンが浮かばなかったので、捨て身のギャンブルで行く事にしました」
「何?」
「賭けてみませんか? 俺かあんた、どっちの運が強いかを」
「待て、君は何を言って――」
ビルに叩きつけられた衝撃で上手く身動きが取れなくなっている隙にヨシナリが掴みかかって来るが、これ以上は好きにさせないと掴み返す。
――が、そこまでヨシナリの読み通りだったようだ。
タヂカラオにはヨシナリの狙いが今一つ読めなかったが、ヨシナリが大きく仰け反った事で狙いを察した。 こいつまさか――
「ギャンブルとはまさか――」
「そのまさかですよ」
ヨシナリは頭部をタヂカラオの顔面に叩きつけた。
タヂカラオというプレイヤーはヨシナリやポンポンと同じく、全体を見て動きを読むタイプだ。
加えて技量も高く、自分の実力に自信を持っている。 だから、基本的に自分の判断、思考に間違いはないと思い込む傾向にあるとヨシナリは見ていた。
だから彼の中ではヨシナリは必ず自分が想定した行動を取ると半ば確信していたのだろう。
事実として彼の想定の外に出る事は難しい。 この限られた状況で相手の意表を突くのは困難だ。
ある意味ではタヂカラオはヨシナリの合理性を買っているとも言えるが、そこを逆手に取る事にした。 非合理な行動で相手の意表を突く。
組みついてやや強引にマウントポジションに持って行き、自滅覚悟の攻撃。
トルーパーの額部分を相手の顔面に叩きつける。 ぐしゃりといい音がして相手のメインカメラが砕け散る。 こちらのセンサーシステムにもエラーメッセージが複数ポップアップするが、無視してもう一撃叩きつけた。 相手の顔面がぐしゃぐしゃになる。
「いい加減にしろ!」
タヂカラオが苛立った声で足を差し込み、突き放すようにこちらの腹に蹴りを入れる。
同時に掴んだ手を放してヨシナリを吹き飛ばす。 スラスターを噴かして姿勢を制御するが、完全には難しく反対側にあったビルに叩きつけられた。 まるで特撮みたいだと思いながら乱れた視界で敵機を見据える。 タヂカラオは苛立を隠しもせずに立ち上がった。 頭部が完全に破壊されている状態で姿勢を維持できるのは大したものだとヨシナリはどうでもいい事を考える。
「は、やってくれるね。 お陰で前が全く見えないよ。 だけどこの距離なら充分に――」
タヂカラオは腰の拳銃を抜こうとして空を切った。
「探し物はこれですか?」
ヨシナリは自分の持っている拳銃と吹き飛ばされる時に掴んだタヂカラオの拳銃を構える。
タヂカラオは何かを言いかけたが口を開く前に二挺の拳銃を連射。
体勢も悪く碌に狙いを付けられない状態だが、そこまで距離は離れていないので充分に当たる。
いくらタヂカラオの技量が優れていたとしても視界がゼロで立ち上がったと同時だったので躱せる訳もなく。 そのまま連続して被弾。 距離が近いので威力は充分だ。
リボルバー、自動拳銃の順に弾が切れたと同時にタヂカラオの機体が崩れ落ちた。
完全に撃破したと確認した所でヨシナリは大きく息を吐く。
「あぁ、疲れた」
誤字報告いつもありがとうございます。
宣伝
パラダイム・パラサイト一~二巻発売中なので買って頂けると嬉しいです。
Kindle Unlimited、BOOKWALKERのサブスク対象にもなっていますのでよろしければ是非!




