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このタヂカラオという男は恐らくこういった感じで仲間を募っているのだろうが、実際は自分で使える部下が欲しいのであろう事は察しが付く。
大規模の部下を率いさせる? ヨシナリの偏見かもしれないが、良い事しか並べない勧誘文句は非常に胡散臭い。
「信じて貰えないとは悲しいなぁ。 僕と君ならいいパートナーになれると思うんだが?」
「いやぁ、申し訳ない。 俺も仲間に対する責任があるので」
そう言いながら距離を取る。 まんまるはまだ動けない。
「そうか。 では、なら話は終わりにするとしよう。 もしも、気が変わったら是非とも僕に連絡をしてくれたまえよ? 思金神は君の参加をまっている」
タヂカラオが黙ったと同時に空気が変わった。
理屈ではなくヤバいと感じたヨシナリは全力で距離を取るべく後退。 ほぼ同時にビルの陰からタヂカラオの機体が現れ、拳を一閃。 全力で後退していた事もあって拳は空を切る。
――碌に装備を持っていない理由はこれか。
独特のステップと緩急を付けるような間の取り方。
ふわわやシニフィエに共通する武道をやっている者特有の動きだ。
彼女達に比べれば怖さは劣るが、機体にダメージがあるヨシナリにとっては非常に脅威度が高い。
狙撃銃でこの距離は無理だ。 ヨシナリは一発撃ってから投げ捨て、拳銃を構えて連射。
こんな事なら自動拳銃にしておけば良かったと後悔する。
非常に不味い状況だった。 退路は制限されており、相手は接近戦重視で機動力が高い。
仕留めたいならまんまると合流するか、パイルバンカーを喰らわせるしかない。
パイルバンカーの存在はまだ気付かれていないだろうが、当てられるかはかなり怪しかった。
とにかく武器が足りない。 どこかで調達しなければならなかった。
「どうした? 逃げてばかりかい?」
うるさいな。 ヨシナリは応えずにリボルバーを連射。
六発しか入らないので即座に弾切れになる。 タヂカラオが回避行動を取った隙にヨシナリは距離を取るが、このままでは埒が明かない。 リロードをしながら考える。
少なくともタヂカラオの近接スキルはヨシナリより数段上だ。
だが、ふわわほどではないのでシックスセンスがあれば充分に勝ち目のある相手だった。
拳銃の使い方からも近~中距離を平均以上にこなす万能選手といった印象だ。
思金神でそこそこの権力があると豪語するだけあって技量は本物だった。
間違いなく強いが、Aランクを目指す以上は避けては通れない壁だ。
ヨシナリは考える。 勝ち筋を。
まんまるが敵を片付けるまで待つ。 パイルバンカーを拾って一発を狙う。
やられたホーコートの所まで行って装備を手に入れる。 どうにか撒いて狙撃手を先に片付ける。
無数の選択肢が瞬くが、今のコンディションではどれを選んでもリスクが付いて回るだろう。
同時に無数の言い訳のような否定的な思考が脳裏に瞬く。
機体が万全であったなら装備が万全であったなら、シックスセンスがあれば、マルメル達が居れば――
「おいおい、ちょっといい装備手に入れたからって意識が低すぎないか?」
思わずそう呟く。 射線さえ通さなければ条件は対等。
ここはビビらずに行くところだろう。 俺は将来的にランカーになるんだ。
あんな手下集めに腐心している奴に負けてるようじゃまだまだって事になる。
逃げずに戦え。 ここでヨシナリは自分自身を試すべきだ。
――行くぞ。
――悪くない。
タヂカラオはヨシナリをそう評価した。
個人ランクはEかDぐらいだったと記憶しているが、立ち回りはBでも充分に通用するレベルだ。
特に間合いの取り方が上手い。 こちらの装備構成を的確に見抜き、近すぎず離れすぎずを維持している。 これは経験もそうだが、何よりもセンスによる物だろう。
そう遠くない内にBまで上がって来ると確信できる。
だからこそ今の内にユニオンに入れて世話を焼いて情で縛り、使える配下として確保しておきたい。
『思金神』は日本サーバー最大手のユニオンだ。 それ故にこのゲームの情勢に何処よりも精通している。 イベントの傾向などを見れば運営の意図がプレイヤー間の連携や結束を求めているのだと言う事も明らかだ。
当然ながら個人技も重要ではある。
だからこそ、こんな装備を制限するイベントを開催したのだろう。
タヂカラオはこのイベントに求められる物を個人技と統率力と認識していた。
そうでもなければリーダーを決めろなんて真似はしない。
事実としてリーダーが撃破されたら敗北などの条件は存在せず、リーダーを作る必要性を感じないからだ。
――運営は指揮と個人技の両方に優れたプレイヤーの発掘でもしているのだろうか?
あり得る話だ。 根拠は前回の侵攻イベント。
敵性トルーパーは明らかに有人操作だ。 つまり、あの連中の向こうには人間がいる。
なら何者かといった疑問が自然と湧く。 運営が用意したアルバイト?
可能性としては充分に有り得る。 機体スペックに対してお粗末な技量にも説明が付くからだ。
今後もトルーパーをエネミーとして投入するのであるのなら優秀なプレイヤーを運営側に取り込む施策を取ると考えられる。 表では通常のプレイヤーとして振る舞い、裏では運営側として動く。
恐らく報酬も結構な物になるだろう。
根拠はないがあのラーガストは運営側のプレイヤーではないかと疑っていた。
ランク戦で遭遇したという話はよく聞くが、イベント戦等ではあまり顔を出さない理由はその辺りの兼ね合いではないか? そう感じていたからだ。
タヂカラオは他人に対して優位に立つ事に快感を覚える性格だった。
誰も知らないが、自分だけ知っている。 限られた者にしか扱えない情報にアクセスできる。
ちょっとした特別扱いだ。 何も知らない連中相手に俺はお前らが知らない事を知っているぞ。
そう言いたい衝動を抑えながらほくそ笑む。 表には出さないがそんな仄暗い感情を持っていたのだ。 だから最大手のユニオンである『思金神』に入った。
一定の地位を確立する為に様々な努力を行った。 幸いにもCランク以上を維持できるのならこのゲームはRMTを用いれば下手なバイトよりも稼げるので空いた時間はジムに通って体の動かし方を追求した。 費用もゲームで賄える。
タヂカラオは自らの快楽と権力、欲しい物を全て手に入れる為にあらゆる努力を惜しまない。
イベントに積極的に参加するのもその一環だ。 ヨシナリに関してはその一助になれば良いと思っていたが、飴で従えるのは難しそうだった。
誤字報告いつもありがとうございます。
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